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英霊たちのフィロソフィー

掲載日:2025/11/21

月まで届け、今の日本人もこういう心構えを持って欲しいという思い。

風薫る空の下、大学のキャンパスは生命力に満ちた新緑で溢れていた。講義棟の裏にある中庭のベンチで、僕と先輩は並んでペットボトルのお茶を飲んでいた。


「ねえ知ってる?『蛍の光』って、2番で終わりじゃないんだよ。」

不意に、先輩が楽しそうに笑いながら言った。その言葉に、僕は教科書から顔を上げて首を傾げる。

「そうなんですか?でも、3番が在るのは知ってますよ。卒業式で歌うか歌わないか、みたいな話で聞いたことが、、、、、」

「違う違う。蛍の光は4番まで在るんだよ。」

そう先輩は言った。


筑紫(ちくし)の極み、(みち)の奥、 海山遠く、隔つとも、 その真心は、隔て無く、 一つに()くせ、國の為。」


「これが3番。どういう意味かわかる?」

「えっと、、、なんでしょう?一つに盡くせ、國の為ってことは、やっぱりお国のために頑張れってことでしょうか?」

先輩の質問にしどろもどろで答えると、先輩は笑顔で言った。

「半分正解かな?本当は、九州の端や東北の奥まで、海や山々によって遠く離れていても、真心はただひとつにして互いに国の発展の為に尽くそう。って意味なの。」

「そうなんですか、、、じゃあ4番は?」

そう僕が質問すると、先輩は澄んだ声で4番を歌ってくれた。


「千島の奧も、沖繩(おきなわ)も、 八洲(やしま)の内の、護りなり。 至らん國に、(いさお)しく、 努めよ我が兄、恙無く(つつがなく)。」


サークルの先輩でもある彼女は、大学のアカペラ界隈でもちょっとした有名人だ。その声は、まるでセイレーンのように人を魅了するのではないかと思ってしまうくらい、この中庭の新緑に溶けていくようだった。

「どんな意味か当ててみてよ。」

そんな歌声に惚れ惚れしていると、先輩が小悪魔のような表情で問いかけてきた。

「ええっと、、、千島だから、千島列島のことでしょうか?後沖縄の二つは、八洲、、、つまり日本の守りだから、頑張って守ろうって感じですかね。」

「まあ、だいたいそういう意味ね。正確には、千島列島の奥も沖縄も、日本の国土の守りだ。学を修め職を得て、どこの地に赴こうとも、日本各地それぞれの地域で、我が友よ、我が夫よ、我が兄弟よ、どうか無事にお元気で、勇気を持って任にあたり、務めを果たしていただきたい。って意味ね。」

そうつぶやいて先輩はベンチに深く座り直した。初夏の綺麗な日差しが僕たちに差し込む。


「へえ。なるほど。国のために尽くせ、護りになれ、ですか」僕は、その重苦しい響きに耐えきれず、少し鼻で笑うような調子で言った。

「なんだか、ずいぶん戦前っぽい歌ですね。今の時代には重すぎる、古臭い思想って感じがします。」


「...そんなこと、言わないでよ」

先輩は静かに、しかしはっきりと僕の言葉を遮った。彼女の目元がわずかにムッとしたように引き締まり、さっきまでの楽しげな色は消えていた。

「馬鹿にしたように言うのは、だめだよ。この3番と4番は、時代が変わるにつれて歌われなくなった、ある意味忘れられた歌詞。でも、この歌が作られた頃の日本人の真剣さを、軽々しく否定してはいけないと思うの。」

僕は少し身じろぎした。先輩がここまで強い口調になるのは珍しかった。


「もちろん、私は戦争が良いなんて絶対に言えない。誰だって平和を望んでいる。でもね、考えてみて。近代史の講義でもやったでしょ?当時、欧米の列強がアジアの国々を次々と植民地にしていく中で、当時の日本人たちはどれだけ必死だったと思う? 自分たちの国だけは、西洋に侮られないように、独立と誇りを保とうと。鎖国が終わり、まだ国際社会での立場が不安定だった国が、世界と対等に渡り合うには、ああいう『国を一つにする』歌が必要だったんじゃないかな」


先輩は視線を遠くへ向けた。日差しが彼女の横顔を金色に縁取る。


「彼らはただ、日本という国を、世界で一番誇れる場所にしようと頑張った。今の私たちから見たら、そのやり方は間違いだったのかもしれない。過ちも、悲しい歴史もたくさんある。でも、この歌に込められた、遠く離れた友を思い、国の隅々まで守ろうとした真心は、3番に歌われている通り、純粋な愛国心だったはずよ」

先輩はゆっくりと僕の方を振り返り、まっすぐに見つめた。

「だから、私はこの4番まで含めて『蛍の光』だと思うの。戦争は正しいとは言わない。でも、当時の国民や政府は、純粋に日本を世界一の国にするために、必死に頑張ったんじゃないんかな...。少なくとも、この歌を声に出して歌っていた人たちの心は、そう信じて、別れの後にそれぞれの任地へ向かっていったんだと思う。」


僕は何も言い返せなかった。先輩の言葉は、ただの知識ではなく、そこに生きた、名もなき人々の感情を伴って胸に響いた。


先輩は再び静かに立ち上がり、茜色に染まり始めた空を見つめた。僕もつられて空を見上げたとき、大学の構内に、閉館時間を告げる音楽がかすかに流れ始めた。それは、いつも聞き慣れた、優しく寂しげな二番までの「蛍の光」のメロディだった。


その時、僕は初めて知った。先輩が教えてくれた「国を護る」歌と、僕たちが日常で聞いている「別れを惜しむ」歌が、同じメロディの中に、違う時代の日本の願いを乗せて、今も響き続けているのだということを。僕は静かに目を閉じ、夕日に照らされたそのメロディに、深く耳を澄ませた。

自分もこういう心構えを持ちたいですね。

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