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「あの、お姉様。昨夜の夜会でマーレン様と何かありましたか?」
「何かって?ダンスを踊って・・グラビティ侯子は直ぐにわたくしから離れたけど?」
「・・そうですか・・」
だとしたらマーレン様の言葉が気になる。
「侯子が何か仰ってたの?」
カップを持ちながら私を見てくる。そんな姿さえ美しくてマーレン様がお姉様と近付きたくなる気持ちもわかる。
その時なぜか胸の辺りがモヤモヤした。
「アリィ?侯子は何かわたくしの事を仰ってたの?」
賢く美しい、自慢のお姉様。もしマーレン様が本当にお姉様と一緒になりたいのなら・・
私は頭を横に振りながら
「トゥーエと違ってお姉様は、我が家の不利になる事はしませんものね。ごめんなさい、きっと私の勘違いだわ」
「・・そう・・」
お姉様はそれ以上何も聞かず、明日は伯爵家主催のお茶会に呼ばれているから と言って、早々に部屋へと戻って行った。
夕食も食堂へ降りて来ず部屋で食べられますと、お姉様の専属メイドのサラが報告に来た。
両親が久しぶりに王都の屋敷へと帰って来たのは三日前。夜会に合わせて仕事の報告をしに帰って来たのだ。
家族の皆は昨夜の夜会での事は特に気にしておらず、むしろトゥーエの側にジャンが付いている事に不快を感じていた。
トゥーエにその事を聞いても
「ジャン様がお側にいてくださると、他の令息達からお声が掛からなくて楽なんです」
と、何でもないように言ってきた。
さすがのお父様も
「彼はアリィの婚約者でいずれはトゥーエの義兄になるのだから、少しは気をつけなさい」
「そうよトゥーエ、貴女にはもっと素敵な方に見染められるはずよ」
決して私を傷付けるつもりは無いとは思いたいが・・、両親から見てもやはり姉と妹に期待を掛けるのは仕方がない。が、私も実娘のはずなのに、なぜか優しい言葉を掛けてもらえない。
「ご馳走様でした」
そう言って席を離れたとしても両親から掛けられる言葉は
「明日もしっかり働いて来るんだぞ!」
「そうよアリィ。我が家が生き残れるかは貴女にかかっているのよ」
二人からの言葉が胸に刺さる。
三姉妹にかかる期待は別々だけど、それでも少しでも私にも優しい言葉を掛けて欲しいと願ってしまう。
「はい・・しっかり勤めて参りますわ」
そう言い残し席から外れた。
いっそこの屋敷から離れ、寮に移り住めば気持ちも楽になれるだろうと両親に話した事もあったが、帰ってきた言葉は酷いものだった。
跡取り娘が外に出るなんて!とか、自由になって遊びまくるのが目的なのか?とか、男にだらしなくなる!とか散々な事を言われ・・出て行く事を諦めた。
部屋へ戻るとマギィが就寝の準備をしており、一通りの用が済むと
「ではアリィ様、また朝に参ります。おやすみなさいませ」
「ええマギィもご苦労さま。おやすみ」
マギィは頭を深く下げると部屋から出て行った。
私は布団へ入るとマーレン様へまずは謝ろう!と心に決め、気付くと夢の中へと引きずり込まれていった。
「あの男・・アリィに何を話したのかしら・・もし両親の耳にでも入ったら・・」
部屋でワイングラスを傾けながらチェリーはある男の事を思い出していた。
「マーレン・グラビティ侯子・・アリィに余計な事吹き込んではいないわよね・・」




