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三姉妹の真ん中令嬢は幸せになれないの?  作者: おつかれナス


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番外編2  マギィ目線

「君に三つの道を選ばせせてあげるよ。一つ目は他家へ嫁ぐこと。二つ目は侍女見習いとなること。三つ目は・・・」


 私マギィ・シルズはシルズ男爵の娘で、グラビティ侯爵家に仕えるスレント子爵家一門の一つ。

 スレント子爵家は主に護衛と諜報を担っており、戦ではまさに侯爵の右腕的存在だったと聞く。

 そんなスレント一門には貴族から平民まで幅広い人達が仕えていて、我がシルズ家の父と兄二人も諜報員として働いている。


「そろそろマギィにもメイドとしての教育を始めないとなぁ」

「マギィはお母さんが教育してるから、そこら辺の娘よりは早く働けるんじゃ無い?」


 夕食の最中に突然言い出したのは父と次兄だ。


「私もお父様やお兄様みたいな諜報員になるの!」


 突然の私の言葉に全員が驚く。なぜなら我が母は結婚前まで王宮で侍女をしており、仕えていたお姫様が他国へ嫁いだため王宮で出会ったお父様と結婚した!と、聞いた事がある。


 王宮勤めの侍女はお嫁さんにしたい職業ナンバーワンなのに、なぜ男爵のお父様と結婚したのかしら?


「せっかくお母さまから教わったのだから、メイドになれば侯爵様に喜ばれるぞ?」

「そうだよ!デビューの時手袋貰って喜んでたじゃん」

「・・・」


 納得いかない!と言った顔をすれば、家族みんなは


「まぁマギィの場合、どっちに転んでも良いように教育されてるから良いんじゃない?」


 となった。

 諜報を主とするお父様。

 侍女、メイド教育を主とするお母さま。

 その娘である私は自然と両方こなせるよう教育されていたのだった。

 初めてレッド・スレント様に会ったのはレッド様の十五歳の誕生パーティーだった。

 

「レッド様も十五となられ、ますますのご活躍とお聞きしております」


 お父様の堅苦しい挨拶を聞きながら、私はテーブルに並ぶ美味しそうな料理に釘付けに・・ならず、一生懸命に動いている家門の一員であるメイド、給仕の動きに目がいっていた。

 そんな私に気付いたレッド様は兄に何か告げると笑い合った。


(きれい・・)


 レッド様の笑顔が日の光に当たり、とても眩しかったのを今でも思い出す。

 レッド様とはその後、私が社交界デビューをする一年前会ったのを最後に顔を合わせる事は無くなった。

 レッド様がマーレン様付きの専属護衛になられ忙しく、領地に帰られる事がなくなったからだ。


「レッド様もそろそろ婚約者を・・と子爵様は言っていたが・・」

「マーレン様がまだその気が無いのだから、レッド様も無いでしょう」


 両親が話しているのを聞き、少し胸を撫で下ろした。その時の感情が何だったのかはその時は分からなかったけれど、今ならハッキリと口に出して言える。

 でも、レッド様はグラビティ侯爵家を支える筆頭家門の嫡男。

 片やしがない男爵家の娘・・


(この想いが誰かに知られる前に、何処かの家に行かないと・・)


 そう何度も両親にお願いするも中々派遣されず、イライラしてしまう。

 同じ年頃の子たちはすでに何処かしらの屋敷へと派遣されて行き、それなりの手柄を立て始めていた。

 

「ロード子爵家へですか?」


 スレント子爵様に呼ばれ、お父様と子爵邸へ行くと依頼されたのはロード子爵家の次女アリィ様の専属メイドになれ!との言葉だった。

 ロード子爵家の次女と言えば、美しい姉と、愛らしい妹に挟まれた普通の令嬢。


 何故かその普通の令嬢に熱を上げているマーレン様からの依頼との事で、アリィ様と歳が近くメイドと護衛の両方こなせる私に白羽の矢が立ったようだ。


「レッドからの依頼は、アリィ嬢の護衛と信頼を勝ち取り専属になる事。らしい・・出来るか?」


 専属メイドと護衛。逆に私以外に勤め上げる人がいるのだろうか。そう考えたら答えは一つ


「お任せください。アリィ様をお守りし、必ず信頼を得て参ります」


 そこからは早かった。

 次の日には報告を兼ねて王都へ向かう従兄弟達と、馬で王都のスレント邸に向かった。

 私の用意は全てレッド様が準備してくださるとの事だったので、追い立てられるように出立した。


 数年振りにお会いしたレッド様は、更に美しさに磨きが掛かっており 想いを寄せる令嬢でも出来たのかな? と思えた。

 その瞬間なぜか胸がチクリと痛んだ事は内緒だ。


 お仕えするアリィ様はとても優しく、メイドである私に対しても気を使ってくださった。

 私はレッド様の依頼をこなしながらもアリィ様の信頼を得ていき、気付けば専属メイドになっていた。

 アリィ様は王宮での仕事と子爵家の仕事を両立していた。本来なら婚約者であるヘルン子息が手伝うべきなのに、末妹のトゥーエ様にばかり引っ付いていた。


「あの男、またトゥーエ様にくっついていましたよ?どっちが婚約者なのかしら?って思うわね」

「でも、ああ言ったらアレだけどアリィ様と比べたら誰だって・・あっ!」


 私の存在に気付いたメイド達が蜘蛛の子を散らすように走って行った。

 私は一つため息を吐くと、アリィ様の部屋へと向かった。


「マギィどうかした?眉間にシワが寄ってるよ?」


 私の顔を見るなり笑いながら言ってきたアリィ様。この方は屋敷の中でも外でもこんな事を常に言われている。悪いのはあの男であってアリィ様では無いのに・・

 いつも私の事を気づかって笑顔を向けてくれる。


「マーレン様はいつになったらアリィ様を救い出してくださるのですか!?」


 レッド様に詰め寄るが もう少し待って と言うだけで進展しない。このままではアリィ様はあの家とあの男にダメにされてしまう。

 アリィ様だって着飾れば綺麗なのに・・

 

 そんなある日事件が起きた。

 あのクズがアリィ様に手を挙げたのだ。しかも私がほんの少し離れた間に・・


 私は更に護衛としての訓練を受けた。

 レッド様の手が空いている時はレッド様に、そうで無い時は護衛の人たちと一緒に訓練を受けた。

 全てはアリィ様をあのクズから守るために・・


「マギィ、最後の仕事だ。今度の王宮での夜会に君が付き添う事になった」


 マーレン様と婚約を結んだアリィ様は、今回の夜会で正式に発表される事が決まっている。

 そうなれば侯爵家から侍女が派遣されるため私の役目も終了する。

 そんな私のために思い出を作ってくれたのだろう。

 私は最後のお役目をまっとうする為張り切った。

 そして王宮に入り少し過ぎた頃、レッド様からドレスを渡された。

 決して私へのプレゼントでは無く、


「これに着替えてアリィ嬢の護衛に付け!あの男が王宮に忍び込んだと連絡があった。急げ!」


 レッド様から手渡されたドレスは一見動きやすそうな形だが、下は薄手のズボンになっている素敵なデザインだった。

 髪は適当に纏めるとレッド様からいただいた髪飾りを刺すと急いでアリィ様の元へと駆け付けた。



 クズは刺客を雇ってトゥーエ様を連れ出そうとしていたらしいが、私とアリィ様が離れない事にイラついていた。私は二人を逃すと刺客へと立ち向かった。

 勝てる相手では無いと肌で感じた。

 でも、次期侯爵夫人を命を賭けて守れたら家族は喜んでくれるだろう。

 マーレン様も更にアリィ様を守る事を考えるだろう。

 レッド様は・・



 床の上に倒れ込んだ私に馬乗りになった刺客は、笑いながらこう言った。


「なかなか楽しめたぞ・・だが所詮は女・・。力の差が出たな。苦しいか?苦しいよな?これだけ傷だらけで可哀想に・・今楽にして・・」

「ごちゃごちゃ煩いんだよ!もとより私の命はあの方に捧げている!お前を道連れにしてやるよ!」


 私が動かないと思った刺客は、肩で息をしながらも狩った獲物を見ていた。

 そこを突いた。

 レッド様からいただいた髪飾りを刺客の首目掛けて、残りの力を全て込めて・・


 刺客は後ろへと倒れ込んだ。

 ピクピクと全身痙攣しているから起き上がる事は無いだろう・・


(このまま静かに逝きたいな・・)


 そう思ったが逃したアリィ様たちが心配だ!でももう動く事も出来ない。

 何とか助けが来るまで意識を保たなければ・・

 そう思った時レッド様が駆け付けてくれた・・



「マギィ、気が付いたか?」


 目を覚ましたら私の部屋とは違う、良い部屋に寝かされていた。

 声の方へ顔を向けようとしたが全身の痛みと眩暈で気持ちが悪い。


「マギィ・・」

「レッドさま・・アリィさまは・・」


 アリィ様の意識が戻っていないと聞き、直ぐにでも駆けつけた意気持ちでいっぱいだったがレッド様に止められた。

 丸二日眠っていた私は身体中に傷を負っており、医者からも危険だと言われていた。らしい・・


 起き上がれるようになるとアリィ様の元へと駆けつけると、アリィ様はマーレン様と婚約してからの記憶を失っていた。

 私はマーレン様とレッド様に頭を下げ、アリィ様の記憶が戻るまでお仕えしたいと頼み込んだ。


 その後色々あったけどマーレン様からの二度目のプロポーズも上手くいき、クズの兄がアリィ様を攫う事件も起きたけど・・そのおかげ(?)でアリィ様の記憶も戻った。 

 めでたしめでたし・・だと良かったのに。


「マギィ、どうしてもアリィ様の側にいたいなら結婚しなさい」


 どうしたらアリィ様の側にいられるかを家族に相談したら、こんな返事がきた。何となく・・いや。この答えしか無いのは分かっていたけど・・その時私の頭の中に浮かんだのは、絶対に無い人だった。


「ある伯爵様が後妻となる人を探している。マギィの若さで後妻は無いが、でもどうしてもアリィ様の側にいたいなら考えておきなさい」

「・・お気持ちは嬉しいですが、強制でないのならお断りします」

「伯爵夫人だぞ?」

「・・それでも・・」

「子供もいないし、伯爵もまだ三十歳だぞ?」

「・・それでも、後妻は・・」


 その伯爵の事は知っていた。

 亡くなった奥様をとてま大切にされていた。

 流行病で突然亡くされ、しばらく社交の場にも顔を出さなかった方だ。

 そんな風に愛されたいとメイド仲間と話していた記憶もある。

 それでも・・


「マギィには、誰か想う方がいるのかしら?その方とは一緒になれるの?」


 お母さまから投げられた言葉に答えられなかった。 半分当たって半分ハズレ。

 だって一緒になりたい方は・・



 アリィ様に侯爵家から侍女が派遣され、私の役目は終わってしまった。最後はバタバタしてちゃんと挨拶も出来ないまま、私はアリィ様から離れる事になってしまい、暫くは何も手に付かなかった。

 レッド様から


「休暇だと思ってゆっくりしておいで」


 と言われ領地に戻ったが、どう考えてもアリィ様の側へ行く事は叶わないと知った。

 両親からは後妻の話は無くなったが、縁談の話は増えた気がする。

 考えれば私も結婚適齢期を過ぎてしまった。ただ、次期侯爵夫人の専属メイドの肩書は凄いらしく、お陰さまで釣り書の量は増えているらしい・・


 レッド様もそろそろお相手を決める年よね?もう決まっているのかしら・・


 あの日から私の頭の中はレッド様一色になった。

 絶対に無い人。

 相手は侯爵家の筆頭家門の嫡男だ。

 スレント家なら伯爵位、下手したら侯爵位からだって相手は来る。


「そんなの絶対無理じゃんか・・」

「何が無理なんだ?」


 突然言葉を返された事に驚いたが、それ以前に誰かがいた事に驚きと恥ずかしさで顔を伏せてしまった。

 だってその声は・・


「男爵夫人に聞いたらここだと言ったから・・マギィ?」

「どうしてレッド様がここにいるんですか!?」


 恥ずかしくてつい声が大きくなる。


「時間が出来たから」

「それだけですか?」

「・・いや。マーレン様とアリィ嬢の結婚式の日取りが決まったから知らせに来た」


 私は顔を上げた。お二人の式の日取りが決まった!列席は絶対無理でも準備だけでも!そう思って聞いてみたが


「侯爵家の侍女が全て準備をするからマギィの出る幕はない」


 と、ハッキリ言われた。なら護衛は?と聞くと


「その日の護衛は決まっている」


 これもキッパリと言われた。仕方ない、一般の人に紛れてパレードで見るか・・と考えていたらレッド様が私の隣に座った。

 驚いて距離を取ろうとしたら腕を掴まれてしまい・・


「あの・・」

「君に三つの道を与えよう」


 と、言い出した。

 突然何を!と聞き返そうとしたらレッド様の人差し指で口を塞がれてしまった。

 レッド様の指が・・そう思うだけで顔が熱くなる。


「一つ目は他家へ嫁ぐこと。二つ目は侍女見習いとなること。三つ目は・・・」

「・・・?」


 三つ目をなかなか言わないレッド様にどうしたのかと頭を傾ける。

 見るとレッド様の顔が赤くなっていき・・


「そんなに見るな!」


 と、顔を赤くして言われると、私の胸もギューと苦しくなる。


「三つ目はマギィ・・俺と結婚する事・・だ」

「・・・えっ?」


 聞き間違い?


「他家にはやれない。侍女見習いで入っても侍女にはなれない・・下手したら侯爵夫人が相手を見つけて来るかも知れない。そうなれば君も、私も断れない・・」

「だから?同情ですか?」


 私の言葉にレッド様は


「そんな訳あるか!何とも想って無いなら気にもしない!そもそも相手の領地にまで足を運ぶ事はしない」


 レッド様の手が私の頬に触れる。

 心地良い風が吹き、レッド様の髪も優しく揺れる・・


「君を誰にも渡したく無い。この先、私の隣にいて欲しいと願うのはマギィ、君だと気付いたんだ。だから来た」

「・・子爵夫妻も、侯爵夫妻も許してはくださいません!」


 夢に見た事もあった。

 でも、絶対に叶わないと思っていた相手。


 私はレッド様から目線を外そうと顔を横に向けたが、レッド様の両手に挟まれ前に向かされる。


「私の両親も、侯爵夫妻からも了解は得てきた。君は自分の価値を低く見過ぎだ」

「でも私は男爵令嬢で、取り柄だって・・」

「アリィ様がマギィを必要としているんだ。もちろん私が一番マギィを必要としているけどね」


 レッド様が真っ直ぐ私を見る。


「マギィ、私と結婚して欲しい。君となら次期侯爵夫妻を支えていける」

「その為ですか?・・レッド様の気持ちはそこに無いんですか?」


 嬉しい言葉なのに、レッド様の言葉に自身の気持ちが入っていない事に気付いてしまった。


「すまない、言い方を間違えてしまったな」


 レッド様は私から少し離れ・・片膝を付きながら右手を差し出した。


「マギィ・シルズ男爵令嬢。私レッド・スレントは貴女を愛しています。この先一緒に居たいのは貴女だけ。どうかこの手を取って頂けないでしょうか?」


 後から日の光を浴びているレッド様はとても眩しくて、そして美しい。


「私で良いのですか?レッド様ならもっと高位の方とも結婚出来ます」

「位なんて必要ない。私が求めるのは君だけだから・・マギィ」

「本心ですか?」


 レッド様は笑顔で頷く


「私!アリィ様の侍女になったら、レッド様よりもアリィ様を選びますよ!」

「それは私も一緒だ。だからこそ君が良いんだ」

「・・・」

「二人で次期侯爵夫妻を支えて、私たちも互いを支え合っていきたい」

「・・・」


 きっと私の顔は涙でぐちゃぐちゃだろう・・でも、もうこの気持ちを隠さなくても良いんだ。そう思ったら自然と


「とても嬉しいです。よろしくお願いします」


 と答えていた。



「奥様、お呼びでしょうか」

「ええ、大変な時にごめんなさい。ローランがファンを呼んでて・・」


 本日侯爵家主催のお茶会があり、その準備にメイドの手が取られていた。そんな時グラビティ侯爵家のご嫡男であるローラン様が私の娘を呼んでいると連絡が入った。

 現在二人目を妊娠中の私は産休中。

 夫のレッド様に任せる事も出来たけど、久しぶりに奥様に会いたくて娘のファンを連れて来た。


 ローラン様はファンを見るなり奥様から離れ、今は侍女と共に隣の部屋で二人で遊んでいる。


「マギィももう直ぐね。体調はどう?」

「最近はお腹の中での動きも少ないのでそろそろかな・・と。・・・」


 朝からチクチク痛みはあったけど、強くなってる気がする。


「貴女もしかして・・」

「奥様すみません、ファンは夫に預けて・・」

「貴女たち、急いで部屋の準備を!貴女はレッドを呼んで来て!マギィ、ここで産みなさい!道中で何かあったらどうするの?」

「ですが・・」


 今日は大切なお茶会が・・


「産まれそうになったらお開きにするわ!だから心配しないで」


 手際良く指示を出す奥様の姿を見て、私まで誇らしくなる。

 私は仲間の侍女と共に用意された部屋へと向かう。夫には連絡が入ったから直ぐに駆け付けてくれるだろう。


 ふふふっ


 あの頃の自分からは想像も出来ない幸せな日々。

 一時は命すら失う事もあったけれど、今は娘のファンと愛する夫。そして・・


「もう少しで会えるね。お父様とお姉ちゃん、そしてお母さまもアナタが産まれて来るのを待っていたわ」


 私は大きなお腹を優しく摩りながら、ゆっくりと話しかけた。

 


 


 

 


 

これにて 完 です。

最後までお付き合い頂きありがとうございました!

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