番外編 レッド目線
レッドとマギィのお話ですが、レッド目線です。
初めて彼女と会った時、特別可愛くもない普通の女の子。という印象だった。
父の遠縁で友人。立場上彼女の父である男爵は我が子爵家の手足となって動く家門の一つだ。
「レッド様、この度はマーレン様の護衛に選ばれました事、お喜び申し上げます」
「・・ありがとうございます」
スレント子爵家の家門が集まった夜会は、上は伯爵家(婿入りした為爵位は上)から下は平民と幅が広い。
元はグラビティ侯爵家の枝分かれの一門だったが、度重なる戦で常に侯爵を支え護った唯一の家門だった。その為侯爵家からは特に目をかけられており、今では子爵家だが筆頭家門となりグラビティ侯爵家を支えている。
そんなスレント家門の主な仕事は護衛と諜報。
護衛はそのまま、主人たちを守る。
そして諜報は、主人たちに害が及ばないよう周辺の情報を集め管理する。
だから次期侯爵であるマーレン様の辺境伯領地での誘拐事件は、我がスレント家にとっても重大事件であり急いで調べろ!との命令が下った。
「侯爵様よりマーレン様付きの護衛の話を頂いた。一緒に剣の稽古も出来る相手も・・」
「・・父上の言いたい事は何となくですが察しています。僕、ですよね?」
「年齢も近いし、レッドも剣の稽古を始めたからちょうど良いだろう」
「もう決定しているじゃ無いですか。いつからですか?」
「明日から行って欲しい。辺境伯での報告もあるからな。一緒に向かってくれ」
「・・承知しました」
もともと良く顔は合わせているし、きっとそうなるだろうとは思っていた。
一人息子の侯爵家嫡男。時々会う時も常に侯爵夫妻に大切にされていて、何の苦労もせずチヤホヤされているんだろうと思えるほどの体型だった。
どうせ立場上の剣のけいこだから、少し痛い目に合わせてやろう!
そんな軽い気持ちで手合わせをした。
「レッド、俺に手加減するな!本気で向かって来て欲しい!」
「・・・」
何度手合わせをしてもマーレン様に勝てなかった。
「マーレン様、お強くなられましたね」
剣の稽古の後、二人で水浴びをした時に聞いてみた。マーレン様は少し恥ずかしそうにしながらも辺境伯領地で起きた事を話してくれた。
「マーレン様はその女の子の為に強くなろうと思われたのですか?」
「ああ、あの時の彼女は本当に心が強くて、また見ず知らずの俺に対しても優しかったんだ。だからもし彼女が危険な目にあったら、今度は俺が助けてあげたいんだ!」
きっとマーレン様にとって初恋だったのだろう。
名前はアリィ嬢と言っていた。
俺はさっそく父上に手紙を書き、アリィという名の令嬢を探してもらった。
これも主人のため。案の定マーレン様は喜んでくれ、まだ会う事も叶わない令嬢に心を躍らせていた。
「彼女が社交会デビューしたら、婚約の打診をする」
マーレン様のデビュー後、急に言い出した。私もまだ見ない彼女に会える事を楽しみにしていた。のに、デビューと同時にジョージ・ヘルン子爵子息と婚約を結んでしまった。
その時のマーレン様のショックは大きく、暫くの間夜会やパーティーに参加しなくなった。
そして彼女が父親と交代する形で王城で働く事となり、マーレン様の指示で彼女を俺たちと同じ部署へ移動させた。
直接関わるとアリィ嬢の優秀さが分かり、そして周りを見る余裕と労り、気配りなど、上に立つ人間特有の才能を見せつけられた。
ただこの才能はマーレン様の様な立場の方であれば好意的に見られるが、ジョージ卿のように才能の無い人間からしたら嫉妬の対象だろう。
「マーレン様、たまには夜会に顔を出したらどうですか?」
マーレン様の代理で出席させられる俺の気持ちを汲んで欲しいものだ!
「・・俺の爵位目当ての令嬢にはうんざりだ」
「アリィ嬢も来ていますよ、家族で」
その言葉でマーレン様はアリィ嬢が出席する夜会だけに顔を出すようになった。
そしてその夜会でアリィ嬢の婚約者であるジョージ卿の態度に腹を立てたマーレン様が、夜会から帰るなりこう叫んだ。
「レッド!ロード子爵家にアリィ専属のメイドを送り込ませろ!なんなんだ?あの男は!アリィと言う婚約者が居ながらその姉妹にベッタリとは変じゃ無いか?周りの奴らも彼女の良さを何一つ知らずに!!」
俺は前々から思っていましたよ。
だから貴方様を夜会に連れ出したんです。僕だけでは守りきれなくなって来ましたからね・・
「直ぐに父に報告してロード家に送ります」
「・・送る前に一度そのメイドに会いたい」
「珍しいですね、マーレン様が直接お会いしたいなんて・・」
「あ〜、うん。彼女の側に送るんだ。絶対的に彼女の味方になって貰わないと・・」
なるほど・・
婚約者からは酷い扱いを受けているが、姉妹からは大切にされていると報告はあった。
「承知致しました。ではそのように父に伝えます」
そうして選ばれたのが彼女、マギィだった。
マギィは少し前から諜報員としての教育を始めたと連絡があり、子爵令嬢付きのメイドの教育も追加された。マギィがこちらにくる間のアリィ嬢を見ていたが、他の姉妹に対しては身なりや宝飾品は豪華だがアリィ嬢に対しては(婚約者がいるからなのか)どちらかと言えば地味。
まるで周りから隠すかのような扱いに、マーレン様を止めるのには骨が折れた。
「マーレン様、父からアリィ嬢付きのメイドをこちらに送ったと連絡がありました」
「そうか、いつ頃こちらに到着する?」
「そうですね、本人は馬で来るので明日か明後日には・・」
「馬に乗るのか?」
「?そのように訓練しますよ?諜報員が馬車で移動してたらお笑いでしょう」
「・・・」
マーレン様に報告をして自分の席へと戻る。
マギィか・・最後に会ったのはいつだったか?確か三年前のデビュー前だったな。
あの頃は地味でおとなしい雰囲気だったが、デビュー後は会っていないから少しは垢抜けたのではないか?
少し、ほんの少し楽しみに王都の屋敷へ行くと報告に来た二人の男の後ろに彼女はいた。
「お久しぶりでございますレッド様。シルズ男爵が娘マギィでございます」
「ああ・・」
頭を下げた挨拶をする彼女は、俺が想像していた以上に女性になっており少し驚いた。
「君には明日からロード子爵家に入ってもらう。三姉妹の次女で跡取りのアリィ様付きのメイドだ。出来たら専属となれるよう頑張って欲しい。詳しくはマーレン様より直接話があると思う」
承知致しました。と頭を深く下げた彼女をその時はまだ意識していなかった。
マギィの仕事ぶりは良く気付けばアリィ嬢に気に入られ、専属メイドとなっていた。
常にアリィ嬢の事を考え、付き従い、尊重した態度に俺もマーレン様も安心していた。
特にアリィ嬢の話になると俺を扉の前まで下がらせて、顔を赤らめながらマギィの話を聞いているマーレン様を微笑ましく見ていた。
「ヘルン子息がアリィに手を挙げただと!?」
ロード子爵と話をしていた時、チェリー嬢のメイドが部屋に飛び込んで来た時のマーレン様は本当に奴を殺しかねない形相だった。
駆け付けるとマギィを庇うようにうずくまるアリィ嬢に一瞬動けなかった。
マギィはただ守られてはおらず、足で奴のスネを蹴っておりどうしたらこの図になるんだ?と思ってしまった。
「申し訳ありませんでした。アリィ様を部屋の近くまで送り、忘れ物をしたため取りに行ってる間にアイツが・・」
部屋の中まで行けばこんな事にならなかったのに・・と、全身を震わしながら下を向いている。
「君は良くやっている。アリィからも君の献身的な態度を誉めていたから、これからも引き続き彼女の支えになってくれ」
マーレン様から労いの言葉をもらい直ぐにでも子爵家へ帰ろうとしていたが、折角だから休んでいきなさいと部屋を用意させた。
部屋へ送っている間もずっと悔しそうな顔をしている彼女。本来メイドや侍女は主人や主人家族に対し感情を持たないよう教育される。
感情が入ると口も出る。
昔、侯爵令嬢付きの侍女が令嬢の婚約者を奪った事件が起きた。令嬢は信じていた侍女に裏切られたショックで精神をやられ自殺してしまったのだ。
その事は侯爵家だけでは無く他の貴族でも起きており、それ以降メイドと侍女の教育が徹底されたのだ。
だからマギィの行動は褒められるが、感情は褒められない。
「このまま部屋に行っても眠れないだろう。稽古を付けてやる。着替えたら練習場へ来い」
マギィは顔を上げると大きく頷き、急いで部屋へと入って行った。
その後アリィ嬢とヘルン子息の婚約が解消され、マーレン様との婚約が決まった。
グラビティ侯爵家も、それに連なる家門も一同大喜びだ!次期侯爵がやっと相手を見つけたのだからお祭り騒ぎになるのも仕方ない。
俺もその一人だ。
アリィ嬢を側で見てきたが全てにおいて合格点。この素晴らしい方が小さな子爵領の領主に留まるのは惜しい!と思っていたからマーレン様の勇気に感謝だ!
だが、そんな中一人だけ浮かない顔をしている女性がいる。アリィ嬢の専属メイドのマギィだ。
「どうした?嬉しくないのか?」
マギィは頭を横に振りながら
「とても嬉しいです。マーレン様ならお嬢様を大切にしてくださると信じております」
「だったら何故そんな泣きそうな顔をしている?」
俺の言葉を合図に、ハラハラと泣き出した。
「レッド様・・私はいつまでお嬢様の側にいられますか?」
「・・・」
「わかっています。私は男爵令嬢なので次期侯爵夫人となられるお嬢様の側にはいられないと・・」
そう言うと頭を深く下げてその場を離れて行った。
マギィが離れた後、何故か胸の辺りがドキドキし始め、その理由が分からずモヤモヤしてしまった。
マギィの泣き顔があまりに綺麗だったから・・?
「レッド様、今宜しいですか?どうされました?お顔があか・・」
「今から俺の相手をしろ!!!」
用があって声をかけてきた部下に思わず当たってしまったが、何故かこの気持ちを知られるのも恥ずかしく誤魔化すように走り出した。
王宮の夜会に参加が決まり、マーレン様と侯爵夫人とでアリィ嬢のドレスを決めていた。
(今回でマギィが最後の付き添いだったな。着る事は無いかも知れないが・・一応用意しておくか)
着る事は無いと思っていたドレスを身につけた彼女は、完全に女性として俺の目に焼き付いた。
アリィ嬢に比べたら劣るが、それでも充分すぎる程で独身子息の目にどう映るかばかり気になった。
アリィ嬢の元婚約者のジョージ・ヘルンが王宮に忍び込んだ緊急事態なのに、何故か彼女が気になってしまった。
それがこんな事になるなんて・・
「マギィ、目を開けてくれ」
アリィ嬢を守るため、たった一人で刺客と戦ったマギィは意識を無くす直前まで主人を護った。
女性なのに全身傷だらけになるまで戦ったのに、主人との別れが近づいている。
マギィの願いを叶えるには俺の想いを利用する事になる。いや、逆か?
どちらでも良い。
俺の気持ちは決まった。
両親に気持ちを伝えると喜んでくれた。
グラビティ侯爵家との繋がりも深くなるし、嫡男の俺も心を決めた事に。
マギィの両親には母が伝えると嬉しそうにペンを取った。
君を手離すつもりは無いからな。
次はマギィ目線となります。




