40 幸せ
お互いの気持ちを確かめ合った私たちは、この数日の距離を縮めるかのように色々な話をした。
マーレン様は私を傷付けないように、出来るだけ言葉を選んで話してくれたが、私の中でジョージ様への気持ちは やっぱりそうだったんだな・・ としか湧かなかった。
「アリィの気持ちが分かったんだ、無理に思い出す必要はない。思い出して良い事は一つも無いからな」
「マーレン様への本当の気持ちが分かりますよ?」
「まるで今の気持ちは偽りのような言い方だな?」
そんな事はありません!と言い返しながら笑い合う。
こんな時間、ジョージ様とは一度も無かったな・・と、少しだけ寂しくなった。
でも相手の顔を見れば、相手も自分を見ていて視線が合う。たったそれだけの事でこんなにも胸が温まるなんて知らなかった。
相手に微笑まれるだけでこんなにも胸が苦しくなるなんて、知らなかった。
「マーレン様・・」
「なんだ?アリィ」
名を呼べば名を呼んでくれる。
当たり前なのかも知れないけれど、私は今まで知らなかった温もりに涙が出そうになる。
私はそれを誤魔化すように
「マーレン様、お慕いしております」
そう伝えればマーレン様からの温かいキスの雨が降る。
「頼むから俺を煽るな。これでも相当我慢しているんだからな。それに俺の方がアリィを愛しているよ」
色気のある顔と声でこんな言葉を言われたら、どんな令嬢でもイチコロだ!
「マーレン様こそ、私以外にそんな言葉言わないでくださいね。もう見てもらえないのは辛いですから」
「・・もちろんだよ。もしそうなっら俺がグラビティ侯爵家から追い出されるだろうな。両親は君の事を本当に気に入っているから」
「とても、嬉しいです」
マーレン様に抱きしめられていると、その心地良さに身も心もほぐされてしまう。
そして気付かなかったけれど、そんな私たちを少し離れた位置から見ていたグラビティ侯爵家の私兵たちと・・
「レッド様!どうやら上手くいったようですね!マーレン様もですが、アリィ様もお幸せになれて嬉しいです」
「ああ、アリィ嬢の記憶が無くなったと聞いた時は、天国から地獄に落とされた気持ちだったけど・・もともと想いあっていたから乗り越えれたんだなぁ」
「レッド様でもそんな言葉が出るんですねー」
マーレン様の護衛の俺とアリィ嬢の専属メイドのマギィで見ていたが、マギィは特に涙を流す勢いで見ている。
「それで?マギィはどうするの?アリィ嬢が侯爵家に嫁いだら君とは離れることになるよ?」
「・・それは考えていますが・・。どうしても乗り越えられない所がありまして・・悩んでいます」
「・・・」
マギィが悩んでいる所は知っている。
マギィの生家である男爵家は本来メイドになる家系ではない。理由は我がスレント家の一員だからだ。
スレント家はグラビティ侯爵家の護衛兼諜報だ。
主一家を守りつつ主人に役立つ情報を持ってくるのだ。当然マギィの一家も同じで、主の仕事は諜報。
今回はマーレン様の指示で、子爵家のアリィ嬢を護衛出来る女性。との依頼でマギィを推薦した。
もともと護衛の教育はしていなかったが、その日の為に俺自ら指導してその訓練は今も続いている。
その成果は前回の襲撃事件でも成果は上げている。のだが・・
「侯爵家のただのメイドなら私でも働けますが、アリィ様の専属となると私では・・」
「マギィはアリィ嬢の側にいたい?」
俺の問いかけに 当たり前じゃ無いですか!! と怒りながら言ってきた。
「許されるのならアリィ様が侯爵家に嫁がれた後もお側でお仕えしたいです!でも・・そんな前例ありませんから・・」
身の程は弁えてます・・
とギリギリ聞こえるほどの小声でつぶやいた。
[侯爵夫人の専属侍女]
まず、侯爵家には侍女とメイドの二種役割があり、その仕事は異なる。
メイドの仕事は主に家事作業。主一家の料理、掃除、洗濯等がメインだ。
一方侍女の仕事はより主一家に近くなり、身の回りの世話が主になる。
ドレスや宝飾品の管理、化粧や髪のセット、身支度全般が仕事だ。
そして一番の問題は侍女は 子爵家以上の貴族令嬢 と決められている。
特に公爵家や王宮では特に厳しくなる。
理由は扱う宝飾品の規模が違うから・・
王族の方たちが身に付ける物は全てが一流。装飾品に関してはその全てが国宝級なため高位貴族の女性でないと扱わせない。
となっている。
今は子爵家の令嬢の為、マギィが主となって全てのことをマギィがこなしてはいるが侯爵夫人となればそれは別。
「護衛でも良いからお側にいたいですが、それも無理なんですよね・・」
「・・・」
「大丈夫ですよレッド様。ちゃんと弁えてますから。離れていてもお守り出来ますから・・」
アリィ嬢が目を離さずに言ったマギィの気持ちを考えると、切なくなった。
「なぁマギィ、君の悩みを解消する手があるとしたら・・どうする?」
「その手にもよりますよ?下手な男の嫁になる位なら、今のままが良いですから」
「・・誰かに言われたのか?」
マギィは少し悲しそうに
「父に相談したら言われました。子爵家以上の方に嫁げば侍女になれると・・ちょうど後妻に入ってくれる人を探している伯爵がいると・・。お断りしましたけどねー」
ははは、と感情のない笑い声をあげた。
もし、もし俺が君にプロポーズしたら・・
君は受けてくれるのだろうか?
この気持ちをどう伝えたら、君は命令では無く本心で受けてくれるのだろう・・
マギィの横顔を見ながら、幸せそうに笑い合う主人と婚約者を遠くから見守った。
マーレンもそうですが、部下のレッドもまた一途に一人の女性を想う男でした。
レッドとマギィの話はまた、連載終了後に書きたいと想います!




