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「職権濫用・・」
隣から小さな声が聞こえ思わず笑ってしまった。
マーレン様もどこと無く機嫌が良いので、きっと姉様と話が弾んだのだろう。
マーレン様が機嫌が良いとこちらの仕事もはかどるので、私とレッド様は目を合わせ急いで仕事に取り掛かった。
(あっ、これ室長のサインが抜けてる)
その書類は被服室からの書類で、王太子殿下の隣国への視察の為の衣装代の申請書だった。
私はマーレン様の席まで移動し不備のあった書類を渡す。
「マーレン様、被服室からの書類に不備がありましたので今から行って来ますが」
「レッド、お前が行け!」
えーーーーー!!
書類に目を通した後、急に振られたレッド様が不満気に叫ふが聞こえないフリをして ついでにこれも渡してこい! と、また別の場所の書類をヒラヒラとさせた。
「マーレン様私が行って来ますよ!」
「君には急いでやってもらわないといけない案件があるから残ってくれ」
そう言われると私もレッド様も言い返せず、レッド様は渋々部屋から出て行った。
「マーレン様、急ぎの案件とは・・」
言い終わる前にマーレン様は椅子から立ち上がり、私を見下ろした。
その威圧に思わず後ずさる。
「なぜ帰った?」
「えっ?」
「昨夜はなぜ何も言わずに帰ったんだ?と聞いている」
これは・・怒っているな。なぜここまで怒るんだ?と考えたら一つ思い浮かんだ事があった。
「あっ!すみません、私ったらチェリーをちゃんと紹介せずに」
「違う!君の姉上の事は関係ない。」
あの時の二人はとても距離も近く、誰が見てもお似合いの二人だった。私が二人の邪魔をしてはいけないと、気を利かせて帰ったのだが・・
「どうせ変に気を利かせたのだろうが、君が思っているような感情は彼女には無い!むしろ提案を・・」
「えっ?姉が何か失礼な事でも言ったんですか?」
もしそうなら大問題である!
ただの子爵家が侯爵家の跡取りに牙を剥くなんて、あってはならない事だから!
「いや、大丈夫だ。君に迷惑はかけないから・・」
「ですがマーレン様が口ごもるなんて今まででも無かったことです!」
姉の不始末は私が何とかしなければ!
私は逆にマーレン様に詰め寄るように前屈みになる。そんな私の態度に今度はマーレン様が後ろに下がるように椅子へ腰掛けた。
マーレン様は何か困ったような顔をしたが
「まぁ・・困った事があれば、また相談する」
マーレン様の言葉に私は頷き
「何かあれば直ぐに言ってくださいね!姉だからとか関係ありませんから!」
で?急ぎの案件とは? とマーレン様から仕事を受け取ると自分の席へと戻った。席に戻る前に
「私はマーレン様の味方ですからね!」
と伝えると今度はマーレン様が黙って頷き、それを見た私は安心して席へと戻った。
帰ったらお姉様に話を聞かなきゃ!と、急いで仕事を片付けた。




