36 王宮での夜会6
目を覚ますと人の気配がした。顔を横に向けると椅子に腰掛けたお母様だった。
「お・・か・・」
お母様、と声を出そうとしたが口の中の痛みと乾燥で思うように声が出なかった。
「ケホッ」
バッ!とお母様が顔を上げると目が合うと、お母様の目から涙が溢れてくる。
「アリィ・・良かった・・」
お母様は涙をポロポロ流すしながら私を抱きしめた。
「マギィ!マギィ!お水をちょうだい!アリィが目を覚ましたわ!」
お母様の声に反応したマギィが扉を開けて入って来ると、手のお盆にはちゃんと水差しが乗っている。
「アリィ様・・お水です。ゆっくりお飲みください」
私はマギィからカップを受け取るとゆっくり水を飲んだ。
マギィの手の傷が気になり直ぐにでも聞きたかったが、乾燥で喉が痛かったので先ずは潤す事を優先した。
「アリィ、身体は大丈夫?痛いところはある?」
私は両手で頬を触る。
「痛みは・・あまりありません。が・・」
「・・まだ横になりなさい。皆心配しているから伝えて来るわね。マギィ、頼みましたよ」
「はい、奥様」
お母様が部屋から出て行くとマギィはゆっくりと私の身体を横にする。
私はマギィの手を取ると袖を捲る。
「マギィこの傷はどうしたの?」
「えっ?」
「どつして私は寝ていたの?口の中も痛いし、なぜか両頬も・・」
「アリィさま・・?覚えていらっしゃいますか?」
「何を?」
私は いてて! と言いながらベッドへ横になる。
マギィを見ると困惑したような顔をしていて、不安になる。
そう思いながら目を瞑ると、いつの間にか眠りについていた。
また目を覚ますと不安そうな顔をしたマーレン様が私を覗いていて驚いた。
でもなぜかマーレン様は泣きそうな顔をしていて・・
「マーレン様、どうかされたのですか?それよりも・・なぜ私の部屋に?」
婚約もしていない男女が、しかも寝室にいるなんて・・お父様もお母様も良く許したなぁと思いながら、急いで頭から布団を被った。
「アリィ、何も覚えていないのか?」
私はゆっくり顔を出すと
「君の・・君の婚約者の名前は?」
マーレン様が震える声で聞いてきた。
何で今更そんな事を?と思いながらも
「ジョージ様です。ジョージ・ヘルン子爵令息です」
「本気で言っているのか?」
マーレン様は泣きそうな・・泣きながら私の顔を見て来る。
「あの・・私」
何か間違ったかな?でも、ジョージ様とはまだ解消していないはず・・
マーレン様は立ち上がるとフラフラしながら扉から出て行った。
その後直ぐ、お姉様が部屋へと入ってきた。
「お姉様、なぜマーレン様が私の部屋に?泣いていらっしゃいましたし・・」
「アリィ・・本当に忘れてしまったの?」
「何をですか?」
なぜか不安になる。
何を忘れているのかも分からない事が、こんなに不安になるのかと・・
「お姉様、私は何を忘れているのですか?私に何が起きたのですか?」
不安が大きくてお姉様に聞いたが、お姉様は何も語らず
「今は混乱しているだけだから、ゆっくり休みなさい。身体が元に戻れば記憶もきっと戻るわ」
本当に?
あのマーレン様が泣いていた。
怒る顔、笑う顔、拗ねる顔、色々な顔を見てきたが泣き顔は初めてだった・・
「私は何を忘れたの?」
不安になりながらも、きっと明日の朝には戻っているだろう。と、また眠りについた。
「そう言えばジョージ様はどうされたのですか?いつもトゥーエの近くにいたのに見かけませんが・・」
食事の時に疑問に思った事を口にした。
私の仕事を手伝うわけでも無く、ただトゥーエの側にいる為にこの屋敷に来ていた婚約者。
正直私の事を嫌っているのだろうと思っていたが、マーレン様が屋敷に来た時に私の態度に怒ったジョージ様に頬を打たれ・・
「ジョージ・・は、今はちょっと遠くに行っている」
「遠く・・ですか?」
お父様は言葉を濁す。
見ればお母様たちも私から目を逸らす。
「やっぱり何かおかしい!マギィ、何を隠しているの?私が忘れた記憶って何なの?」
誰に聞いても教えてくれず、思わずメイドのマギィに当たってしまう。
「転んだ時に頭をぶつけてしまい、その衝撃でわすれてしまったのだとお医者様も仰ってたではないですか!時間が経てば思い出すとも・・」
もう何回も同じ会話をしている。
私はフーッと息を吐くと
「そろそろ仕事にも復帰しないと・・きっと私の仕事は全部レッド様にいってると思うから」
家族が話してくれないのならマーレン様に聞くしか無い!
マーレン様は私を揶揄う事はあっても、隠し事をする方では無いから!でも・・
「あの涙の理由は話してくれるのかしら・・」
私の部屋で目覚めた時、私の言葉で涙を流したマーレン様の顔が頭から離れない。
時間なんて待っていられない!
あの涙は私の記憶消失に関係しているのだと断言できるから!
「記憶を取り戻さなくちゃ!」




