32 王宮での夜会 2
ドアボーイの声と共に開かれた扉の向こうでは、一斉にこちらを見ている人の数に足が震えて動けなくなってしまった。
そんな私に気付いたマーレン様は
「大丈夫だから、ゆっくり一歩足を出してごらん」
優しく言われ勇気を出す。
「行くよ」
お義父様とお義母様も見守ってくれている。
一歩一歩前に進むと、あっという間に人だかりが出来る。
マーレン様とお義父様お義母様は、私を守るように
「後で王様よりご挨拶がありますので」
と、掻き分けて奥へと進む。
五家門の侯爵家の入場が終わると、三家門の公爵家の入場だ。
公爵家と言っても前王の弟、王弟が臣籍降下をして賜った爵位なので半分は王族だ。
現王弟殿下家族、王女殿下、第二王子殿下、王太子・妃両殿下、最後に
「王様、並びに王妃様、ご入場!!」
全員が頭を下げて迎える。
爵位的にこんなに近くで王様王妃様を見かける事も無いため、緊張で身体が震えてくる。
王様からの挨拶が終わる時、思い出したかのようにお義父様が呼ばれる。
「グラビティ侯爵、今宵は何やら嬉しい報告があると聞いたが?」
「はい王様。この度我が家の嫡男マーレンが良きご縁をいただき婚約致しました」
「そうか!そちらのご令嬢が婚約者殿か?」
私はマーレン様に腰を支えられながら王様王妃様の前に出る。
臣下の礼と淑女の礼にて挨拶をする。
足の震えが止まらない・・
「王様王妃様にご挨拶申し上げます。この度ロード子爵家令嬢、アリィ殿と婚約を結ぶ事となりました。どうかお見知りおきを」
マーレン様が挨拶をすると、楽にしなさい。 とお声がかかる。
「ふふ、やっと良い令嬢と出会えたかマーレン。相手はロード子爵家と言ったか?」
「はい」
「そうか、ロード子爵家と言えば他にも報告を受けているが?」
まるで口裏を合わせたかのように会話が進んでいる。
気付くと直ぐ後ろに両親とお姉様、トゥーエがそれぞれの婚約者と共に礼をしていた。
「ロード子爵、紹介してくれるか?」
「この場を借りてご報告致します。わたくしこの度、ロード子爵を長女チェリーへ譲る事と致しました。そして、ファーレン伯爵家次男アンドリューと婚約しロード家を継いで行く事となりました」
お父様の挨拶の後、お姉様とアンドリュー様が一歩前に出る。
「この度父よりロード子爵家の爵位を継承いたしましたチェリー・ロードと申します。ファーレン伯爵家次男アンドリュー様と婚姻後は力を合わせロード家を盛り立てて行く所存です」
「社交界の華が手折られたと聞いたが、手折ったのはアンドリューだったのか!」
ハハハ
ホホホ と笑い合う。
「それから?」
モルダン様がトゥーエを伴って前に出ると
「ガーライン伯爵家嫡男モルダンとロード子爵家三女トゥーエ嬢もこの度婚約を結ぶ事となりました」
「王太子の秘書だったか?噂は王太子から聞いておる。皆、良き縁に恵まれた様で喜ばしい!!」
会場内から大きな拍手に震えと感動でもう屋敷へ帰りたくなった。
王様王妃様のダンスに続き王族の方たちのダンスが始まるとマーレン様に誘われた。
「アリィ、私と踊ってくれませんか?」
「もちろん喜んで!」
手を取り中央まで移動すると、マーレン様のリードで踊り始める。
「マーレン様と踊ると、自分まで上手になった気がします。」
「何だかんだと一緒に踊る事が多かったからな」
マーレン様はいつも一人壁の花になっている私を気にかけ、こうして誘ってくれた。
マーレン様が上司で無かったら、私は今もジョージ様に相手にされず壁の花になっていただろう。
「マーレン様」
「何だ?」
「ありがとうございます。そして、お慕いしております」
「!!!」
マーレン様が珍しくステップを間違えた。
私は心配になり顔を見上げるとそこには、真っ赤な顔をしたマーレン様が私を軽く睨むように見ていた。
「どうかされましたか?お顔が赤く・・」
心配して声をかけると 無自覚か・・ と、小声で言ったかと思えば、
「後で二人きりになった時、覚えておけ」
と、耳元で囁かれた。
ダンスが終わり皆の元へと戻ると、待っていました!と言わんばかりの令嬢達がマーレン様を取り囲む。マーレン様は困った顔をしたが、
「今夜は婚約者との初めての夜会。どうか私達の邪魔をしないで頂きたい」
そう言うと私の腰を支え歩き出した。
「あの、マーレン様!宜しいのですか?」
私の問いかけに不機嫌そうな顔をしながら
「俺はもともと君以外の令嬢とは踊らない。婚約して壁が低くなったと勘違いしたのだろう」
君しか見えていないのにな、と私の額にキスをする。
これは他の子息、令嬢への牽制だな!
悪い気はしないから良いけど・・
そうして皆の所へ行くと真剣な顔で話している五人。どうしたの?と声をかけるとレッド様が
「今、我が家の者から報告でジョージ殿が王宮へ入り込んだと・・」
「「えっ!!」」
今回ヘルン子爵家は欠席のはず・・
「間違い無いのか?」
レッド様は頷くと
「マギィに取り急ぎ準備をさせております。出来次第アリィ嬢の側に付かせます!」
「そうか!」
暫くすると動きやすそうなドレスに身を包んだマギィが私の側まで来た。
お仕着せ以外の姿を見たのは初めてで、新鮮かつ可愛い!!と思ってしまった。
「ジョージが何の目的で入ったのかわからないが、マギィはしっかりアリィを守ってくれ!」
「承知致しました」
誰に会うために来たのか・・
マーレン様と私の婚約が気に入らず、壊すためなのか・・
私はマギィの側から離れないよう、大人しくソファーに腰掛けて待つことにした。




