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話は少し遡りマーレン様がお父様に婚約の申し入れをした後、家同士の顔合わせ前に両親を紹介したいと言われた。
マーレン様と私の休みが合った今日、グラビティ侯爵家の馬車が我が家まで迎えに来てくれた。
ドレスはお姉様とトゥーエに選んで貰ったから変では無いはず。
髪も化粧もマギィが朝から頑張ってくれたから、いつもの私よりは可愛くなってるはず・・
「アリィ様は素材が良いのでもっと自信を持ってください!」
馬車の中で不安気な私にマギィが話しかけてきた。
そう言えばマギィはレッド様の遠縁とか何とか言っていたような・・
「マギィは侯爵夫妻をお見かけした事はあるの?」
「そうですねぇ、我が家はレッド様の分家になるので侯爵夫妻をお見かけしたのは私がデビューした時ですから・・今から二年程前ですね」
「デビューは王宮ではなくて?」
ほとんどの貴族令嬢は王宮でデビューする。
「我が家はスレント子爵家の分家になりますから、先ずはスレント家の主人である侯爵家に挨拶に行くのがしきたりなんです。そこで侯爵夫妻からお祝いの絹の手袋を頂いて・・」
領地を持たない主人のいる貴族はそうなのか・・と、また一つ勉強になったとマギィにお礼を言う。
マギィは驚いたように
「やっ、やめてくださいアリィ様!でもそのご縁でアリィ様のメイドになれた事は本当に嬉しく思っております。ご結婚後はグラビティ侯爵家の侍女がアリィ様付きになると伺っておりますが・・」
「えっ?マギィがこのまま私の専属になるのでは無いの?」
当然結婚後もマギィが付いてくれると思っていた。マギィは嬉しいです。と言ってはくれたが
「私では侯爵夫人の侍女にはなれないのです。その、男爵家なので・・」
その言葉に衝撃を受けてしまった。
私は結婚後もマギィが付いてくれると思い込んでいた。でも・・
「グラビティ侯爵家は王家の方たちとの交流もございますから、ちゃんと教育を受けた侍女でなければ侯爵家が恥をかいてしまいます」
マギィはそう笑って言ったが、私は今から侯爵夫妻に会う事よりもショックが大きかった。
それでも粗相があってはいけないため、心を切り替える。
「到着致しました」
呼びかけに答えると扉が開く。
見るとそこにはマーレン様が右手を差し出しながら立っていた。
「マーレン様」
私はマーレン様の手を取ると、ゆっくり馬車から降りた。
「両親はサロンでお待ちだ」
マーレン様にエスコートされながら屋敷へと入る。私はいけないと思いながらもキョロキョロと廊下に飾られた絵画や花瓶などに目がいってしまった。
「帰りにでもゆっくり説明しよう」
そう言われて恥ずかしくなり顔を伏せてしまう。通されたサロンにはすでに侯爵夫妻が待っていた。
私はお姉様に教わった淑女の最高礼をしながら挨拶をした。
夫妻はそんな私を見て 完璧ね と、褒めてくださりソファーへ腰掛けるよう勧めてくれた。
侍女が用意してくれたお茶からはいかにも高級な香りが漂い、これだけでも来た甲斐があったな!と思ってしまった。
侯爵夫妻からは子供の頃のお礼を言われてしまい、私の方が恐縮してしまう。
夫人からは
「私は体が弱く子供もマーレンしか産めなかったの。あの日、貴女がマーレンを助けてくれなければ・・」
貴族は後継問題が常に付きまとう。
もしあの時マーレン様の身に何かあれば侯爵は愛人を迎えるか、養子を取るかになっただろう。
侯爵夫妻は社交界でも珍しくおしどり夫婦だから、もしそうなってたら夫人はお辛かっただろう。
だからこそ、私がマーレン様をお助けした事は夫妻にとっては特別なことだったのだと、話してくれた。
「そんな貴女を選んだマーレンにも褒めてあげるわ」
夫人はとてもご機嫌だった。
いつか直接会ってお礼が言いたかったの!と。
その後も夫妻と昼食を共にし、夫人はまだ話し足りない!とマーレン様に文句を言っていたが、
「彼女も初めてで、緊張疲れをしているから」
と、今日はこれでお開きとなった。
帰り際に夫人からは
「母娘になる日を楽しみにしておりますわ。これからは遠慮なく遊びに来てね。侯爵家に入るマナーも伝えたいから」
と、笑顔で仰った。
帰りの馬車の中で私はマーレン様にあるお願いをした。
マギィを私の専属に付けることは出来ませんか?と。
マーレン様は今の立場では無理だ!と、ハッキリ言った。
「君が侯爵家に入る不安もわかるが、君に付く侍女はそれなりに経験や身分もある。子爵令嬢付きとは違うからな・・」
決して悪気があった訳ではない。
わかっている。
わかっているけれど・・
マギィと離れる事、侯爵家に入る事それぞれが私を不安にさせる。
マーレン様に見透かされぬよう取り繕うが、きっとバレているのだろう・・
「すまないが乗り越えてくれ」
そう言いながら私を強く抱きしめたマーレン様は、私の不安ごと包み込んでくれた。




