20
マーレン様への気持ちに気付いた私は、以前はどうやって顔を見ていたのか思い出せなかった。
見たい、目を合わせたい!
そう思うのにいざ目が合うと避けてしまう。そしてそのせいで胸の鼓動も激しくなり、自分の体なのに違う人のようで困ってしまう。
「アリィお姉様どうかなさったの?」
食事の最中にトゥーエに声をかけられて意識を戻した。
家族が揃って食事をとる事が少ないため滅多にダイニングでの食事は無いのだが、今日は珍しくお父様とお母様がいる為ダイニングでの食事中だった。
「最近食事量が減ったと料理長がおっしゃってたわ」
「そうなの?まだ体調が戻って無いのでは?無理に行かなくても・・」
「だ、大丈夫です。すみません仕事の事でちょっと」
「まぁ!侯子は貴女が悩むほど働かせているの?!また直接・・」
「いえ!マーレン様はちゃんと休憩もくれますし、私がこなせる量のお仕事しか回してくれませんよ」
(私がマーレン様の事を考えていた事が間違って家族に伝わってしまった!気を付けないと!)
出された料理を口に運ぶと黙っていたお父様が口を開いた。
「ハルン子爵から手紙が来た。アリィとの婚約は解消すると・・あんなに拒否をしていたのに不思議だが」
「「「えっ?」」」
私以外の三人が同時に声を上げる。
それもそのばず、ハルン子爵はジョージ様の私への態度や最後の暴力を振るった事を伝えても
男なら仕方ない事
婚約者の気持ちを惹きつけるのも女性の役目
手を上げることもたまには・・
と、私への人格否定のような事を平気で言ってきたのだ!そんなヘルン子爵が手のひらを返すように私とジョージ様の婚約解消をすんなり受け入れた事に驚いていたのだ。
「アリィにはその・・今まで辛い思いをさせたな」
「・・いいえ、ヘルン子爵が言うように私にも落ち度があったのだと思います。トゥーエにも、ごめんなさいね」
「なぜアリィお姉様が謝るの?私は別に謝られるような・・」
トゥーエはそう言ったが実は私の為に我慢していた事があった。
「だって貴女、私の為にジョージ様が側に来るのを我慢していたのでしょう?」
「えっ?」
何故かお父様が声を上げた。
私達四人はお父様の顔を見た。
「トゥーエはその・・ジョージの事が好きでは無かったのか?」
「まさか!お父様まで勘違いをして!!」
お姉様が驚いたように声を上げた。お父様は何故か不思議そうな顔をしている。
その様子に気付いたお母様が
「まさかあなた、トゥーエが姉の婚約者を取るような子だと思ってらしたの?」
お父様は黙って一枚の便箋を懐から出して、お母様へと渡す。
お母様はその便箋を受け取り読み始めるが、直ぐにワナワナと震え始めた。
そのお母様の様子を見て、今度はお姉様が読み始め
「何なのこの内容は!お父様、もしかして本気に取ったのではありませんわよね?」
お姉様の怒り口調に私もトゥーエも驚いた。
でもお姉様の言葉にお父様は 違うのか? と聞き返した。
「トゥーエは何度も言ってましたわよね?ジョージ様が側に来るのは 男避け だと!」
「だがトゥーエもジョージが側に来るのを嫌がってはおらんかったでは・・」
お姉様が大きなため息を吐く。
「トゥーエがジョージ様が側に来るのを我慢していたのは、半分は男避けだと思いますがもう半分はアリィの為ですわよ!」
お父様はお姉様の言ってる事が本気で気付いていない様だった。
「トゥーエはジョージ様のアリィへの態度に本気で嫌っていました。でも、自分がジョージ様へ嫌な態度を取ればどうなります?その矛先はアリィに向くのですよ?」
「えっ?彼はそんなにもアリィへ当たっていたのか?」
お父様は私を見た。が、何も言い返せなかった自分も悪いのだと説明をした。
「なのに、何を勘違いしてこんな手紙を・・」
お母様の怒りは収まらない。
私とトゥーエは顔を見合わせながらどんな内容なのかが気になった。
お姉様は
「ヘルン子爵はジョージ様とトゥーエが本当は愛し合っている仲だから、この二人を婚約させてはどうか?と言ってきてるの」
「えっ!嫌ですわ私・・」
「分かってるわよ。だって貴女、ジョージ様のご友人のガーライン伯爵の子息の事を・・」
「キャーお姉様!!」
二人のやり取りを聞いたお父様は驚きを通り越している。お母様は アラッ! と嬉しそうな顔をしながらどう話を持って行こうか考えている様子だった。
それもそのはず、ガーライン伯爵家のモルダン様は王太子殿下の秘書でマーレン様の後輩にあたる方だ。
家格は伯爵だが王太子殿下に可愛がられていて、次代の有望株だと噂されている。
伯爵家の嫡男であるが、未だ婚約者がいないマーレン様に次ぐ有料物件なのだ。
「お父様、最近のトゥーエはガーライン伯爵子息としか踊ってはおりませんわよ?」
「それは、ジョージの友人だからだと・・」
「・・ジョージ様とも踊ってはおりませんよ?」
「・・」
完全に言葉を失ったお父様に私たちはそれ以上何も言えなかった・・
お父様は何も見えていない人でした。




