19 マーレン目線 3
「アリィ?どうし・・」
「お姉様!」
彼女の名を呼ぶ声が聞こえ皆で振り向くと、彼女の姉でロード家の長女チェリー・ロード嬢が探していたのかドレスの裾を持ち上げながら近づいて来た。
「アリィ探したわよ、急に居なくなって!」
「ごめんなさいお姉様。上司であるマーレン・グラビティ様とレッド・スレント様、アンドリュー・ファーレン様とおりましたの。私の姉で長女の」
「チェリー・ロードと申します。妹アリィがお世話になっている様で」
噂になるはすだ!と思わせる程の綺麗な所作で挨拶をするロード嬢に、二人の男は釘付けだ。
「いや、こちらこそ彼女には大変世話になっている。彼女のおかげで山になっていた書類もほとんど片付いたんだ」
「そうですか・・そう言っていただけた事ロード家にとっても嬉しい限りですわ。頑張っているのね、アリィ」
そう言ってアリィに微笑む顔は普通の姉の顔だった。
「ロード嬢は」
「「はい」」
俺の呼び掛けに二人が同時に返事をする。
それに気付いたアリィは
「グラビティ様!私の事はアリィとお呼びください」
「ならば君も俺の事はマーレンと呼んでくれ」
それは!と言いかけた彼女に その方が私も呼びやすい と言えば、彼女は素直に頷いた。
「ところでお姉様、何か御用でもありましたか?」
「いいえ、ダンスが終わって戻れば貴女が居なかったから。ジョージ様に聞いても知らない!って言うから慌てたわ!」
ごめんなさい と謝る彼女に
「すまない、私が彼女に一曲付き合ってもらったから離れてしまった様だ」
「それを言うなら先に私がアリィ嬢に声をかけてしまいましたから。ご家族に心配かけました事お詫び致します」
「スレント様!頭をお上げください!!」
姉のチェリーはレッドに対し慌てたように声をかける。同じ子爵家でもロード家よりスレント家のほうが家格が上なのだ。
「ではロード嬢、私と一曲お願い出来ますか?」
俺が声をかけると 喜んで と返事が来る。
俺は彼女の手を取りホールへと誘導した。
「さすが社交界で有名な令嬢だけあるな」
「フフ、アリィは頭を使う事は得意でも身体を動かす事は苦手ですからね。ジョージ様にも良く怒られていましたわ」
「・・・」
何やら意味深な言い方をしてきた。
「ならば教えれば良いこと。彼女の婚約者殿は何をしていたのだ?」
「そうですわね・・あの方はアリィの良い所を見つけられない残念なお方ですの」
まるで 貴方はどうかしら? と、言われている気がした。ダンスの曲が終わると
「ロード嬢、私とも一曲いかがですか?」
とアンドリューが声をかけてきた。
ロード嬢は もちろん喜んで と、今度はアンドリューと踊り始めた。
「?!」
アリィとレッドの元へ戻る際、誰かの視線に気付いた俺は振り返り視線の元を探した。
「マーレン様?」
見るとアリィの婚約者であるジョージ・ヘルン子息が、睨むようにこちらを見ていた。
まるでアリィの周りに人がいる事が気に入らない!とでも言うように・・
その後アリィとロード嬢は家族の元へと戻って行った。その際ロード嬢からは
「一度ゆっくり二人でお話させていただきたいですわ。アリィの事で・・」
と、俺にしか聞こえない声で言い残して行った。
その後も彼女が出席する夜会には出来るだけ参加するようになり、いつしか俺がロード嬢を狙っている!と言う変な噂が流れるようになった。
それも仕方ない事。
ダンスを踊る時に彼女からアリィの話が聞けるのだから、彼女の誘いを断る事が出来なかったのだ。
ロード嬢から聞く子爵家でのアリィは、聞くに耐えない扱いだった。
美しい姉と愛らしい妹。
両親はどうしても二人に力を入れている様で、跡取り娘のアリィに対してはあまり関心が無いようだった。
婚約者でもあるヘルン子息も彼女より妹のトゥーエ嬢に関心があり、アリィよりもトゥーエ嬢との時間を作ろうと必死だと言っていた。
「そもそも婚約者ではない女性に馴れ馴れしく近付くのは、男としてどう思う?レッド」
アリィが休みのため仕事の量が増えたレッドは、高く積まれた書類で顔が見えない。もちろん自分の机の上も同じ事が起きている。
「そうですね・・自分にはまだお相手がいないので何とも言えませんが・・寂しい思いだけはさせたく無いですね」
「そうだな、俺も同じ気持ちだ」
レッドにしてはまともな事を言った。
そもそも婚約者がいながら何故他の女性の気を惹こうとするのか・・
俺がアリィの婚約者だったら贈り物も沢山して、食事やお茶にといっぱい美味しい店を回り、もっと二人きりの時間を大切にするのにな。
と、手を動かしながら頭でアリィの事を思い書類の整理をすすめた。
アリィとヘルン子息の婚約は間違いなく解消されるだろう。どうやって彼女の気持ちを俺に向けるか・・
この時の俺はその事ばかりに気を取られていて、彼女を失いかけるだなんて思いもいていなかった。




