18 マーレン目線 2
「あの、グラビティ様・・」
怯えるように声を掛けてきた彼女の声に完全に覚醒した俺は
「ああロード嬢、すまなかった。今夜君もきていると知っていたらエスコートを願い出たのだが」
「「えっ???」」
レッドとアリィの声が重なった。失言である。
心の中に閉じ込めていた気持ちが彼女の姿を見た瞬間に溢れ出てしまったようだ。
「いや・・すまない。ところで君には婚約者がいたと思うのだが?」
「・・・」
慌てて話題を変えたつもりが逆に場の空気を悪くしてしまった事に気付いたのはレッドの
「マーレンさまぁ・・・」
低い声だった。
「すみません、本来なら婚約者のジョージ・ヘルン様とご挨拶する所ですが・・」
「・・・」
彼女が目線をずらした為俺もそちらに目線を変えると、妹が他の子息と踊っているのを睨むように見ているヘルン子息だった。
そんなヘルン子息の周りではあきらかに彼を見て笑っている夫人たちや、陰口を叩いている子息たちがいた。それに便乗するかのように彼女の事も 妹に婚約者を取られて・・や、 お気の毒ねなどの声も聞こえてくる。
その声に対して、なぜ彼女が申し訳なさそうにしないといけないのか・・
彼女だって立場的に辛い筈なのに。
そう思ったのと行動がほぼ同時だったと思う。
「ロード嬢、上司である私と一曲踊ってはくれないか?」
自然と口から言葉が出ていた。
彼女はもちろん、レッドも驚いた顔をしていたがどこか嬉しそうな表情だった。
戸惑いを隠せない彼女に
「上司からのお願いだと思ってこの手を取って欲しい」
左手を彼女へと出す。周りの令嬢達からの悲鳴が聞こえてきたが無視だ。俺は今このチャンスを逃さないために必死なのだから。
「私で良ければ・・」
戸惑いを隠せないまま、上司命令と思った彼女は俺の手を取った。
正直ここまでとは思わなかった。
全てにおいて完璧にこなす彼女に俺は仕事仲間としても、一人の女性としても魅力を感じていた。
そして今、俺はまた一つ彼女の魅力に感動していた。
「あっ!!すみませんグラビティ様!!」
「・・いや大丈夫だ。その為に男の靴先は補強されているのだから・・」
「・・そんな感触はありませんが・・すみませんまたっっ」
踊り始めて何度目か・・靴先を踏まれている。
そう、何でも完璧にこなしている彼女は踊りは苦手だったようで、申し訳なさそうにしながらも踊っている。
「ふっ、ふふ」
「すみません、私踊りだけは苦手と言いますか・・身体を動かす事が苦手でして・・」
申し訳なさそうに謝ってくる。そんな彼女の姿さえも愛おしく想える俺はおかしいのだろうか。
「いや、貴女の意外な姿を見られて俺は嬉しく思うよ。ダンスは練習すれば イテッ! 踊れるようになる。時間を作って俺かレッドで練習しよう」
曲が終わりレッドのいる所へと戻る。
レッドは笑いを堪えていたが堪えきれずに肩を震わせていた。
その隣にはアンドリューもいて同じように笑っていた。
「あの、何かすみませんでした・・私本当にダンスがダメで・・」
差し出した果実水入りのグラスを受け取りながら言った彼女に
「いやー、久しぶりに鍛えがいのある女性を見たよ。私はアンドリュー・ファーレン。マーレンとは旧知の仲なんだ。よろしくね」
「ファーレン伯爵家のアンドリューさまと言えば外交官の?」
アンドリューは おや? とした顔をしながらも嬉しそうに微笑んだ。
「貴女のような才女に名を覚えて貰えてるとは、大変な仕事を選んだ甲斐がありました」
そう言いながら彼女の左手をすくいキスを・・
「させるか!」
「・・大人気ないよ、マーレン」
咄嗟に彼女の手を握りしめながらアンドリューの手を払った。
「いや、その。そう!彼女には婚約者がいるんだ!だから勝手に・・」
「・・婚約者がいても、挨拶くらいはするだろう」
「マーレン様、気持ちが出ちゃってますよ・・」
アンドリューとレッドに呆れられてしまうが仕方ない。婚約者が同じホールにいるのに相手にされず佇む姿を見てしまうと、自分の気持ちを抑えられなくなる。
三人でそんなやり取りをしているとクスクスと可愛らいし笑い声が聞こえてきた。
そしてずっと彼女の手を握っている事に気付く。
「すまない、女たらしの魔の手から君を守ろうとして思わず!」
「いえ、大丈夫です!ありがとうございます。それよりもとても仲が良いのですね?グラビティ様とレッド様が仲良いのは仕事中でも気付いておりましたが」
「ええ、幼馴染になるんです。特にマーレンとは歳も同じですからね、何かとよく比べられたりしたんですよ」
俺が答える前にアンドリューが答えてしまった。遅れを取った理由が
「レッド様も幼馴染なんですか?」
「僕の場合は幼馴染と言うよりは護衛に近いですけどねー。でも幼馴染のが良かったですよ!大変ですからこの方の護衛は」
困った素ぶりのレッドに、彼女は名前で呼んでいたのだ!
レッド様!と。
俺の事はいまだに グラビティ様 なのに!
納得のいかない俺は夜会が終わったら問い詰めようと心に決めたのだった。




