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「奥様、お嬢様。グラビティ侯子様がアリィお嬢様の様子を気にされております」
執事のフレッドがお母様の元にマーレン様からの言伝を伝えに来た。お母様は一瞬考えたが
「アリィ、侯子様が貴女の様子を気にされています。どうしますか?お会いしますか?」
「あら、せっかくですものお会いしたら?侯子様もこのまま帰っても心配で眠れないと思うわ」
今なら私たちもおりますもの。 お姉様がこう言ってくれたので頷く事が出来た。私一人だったら今頃は静かに悔し涙を流すだけだったかも知れない。
「ではグラビティ侯子様をお連れ致します」
フレッドが下がって直にマーレン様とレッド様が私の部屋へ訪れた。マーレン様は私の顔を見ると悔しそうな顔をしながらも
「大丈夫か?痛みは?」
と聞いてきた。 少し・・と小さく答えると
「直ぐに冷やしたとは言え腫れるだろう。明日も休むといい。君の分の仕事はレッドが片付けるから心配いらない」
優しく言ってくれたマーレン様の後ろでレッド様の驚いた顔が見えた。が、仕方ないか・・と、私に目で答えてくれた。
マーレン様とレッド様が帰るとお姉様とトゥーエも私の部屋から下がって行った。部屋には私とマギィの二人である。
マギィは私の身体を確かめるように着替えを手伝ってくれた。本来ならお風呂に入るのだがジョージ様に打たれた際に床に身体を思い切り打ち付けたので、念のためお風呂は中止となってしまった。
「アリィ様・・本日は申し訳ありませんでした」
寝巻きに着替えソファーに腰掛けると突然マギィが頭を下げる。
「なぜ謝るの?」
「本来なら私がアリィ様から離れるべきではありませんでした。そのせいでアリィ様はヘルン子爵令息にあんな仕打ちを・・」
頭を下げ続けるマギィに私は隣のソファーへ腰掛けるようにポンポンッ!とソファーを叩いた。
マギィは始め躊躇ったが、ゆっくりと近付き腰掛けた。私は淹れられたお茶を一口飲むとカップをテーブルに置いた。
「私は貴女に感謝する事はあっても、怒ることなんて何もないわよ?」
「ですが・・専属でありながらお側を離れるなんてあってはならぬ事です。そのせいで・・」
堪えていたのか、涙がポタポタと溢れ落ちている。常に私の側を離れないマギィがあの瞬間だけ、私の側を離れなたのは・・
「私の勘だけど、マギィはマーレン様の依頼でこの屋敷に来たの?」
「・・・」
「何となく、何となくだけどそう思える時があったの。もしかしたらそうなのかなぁって思たんだけど・・」
マギィは私の顔を見るとゆっくり頭を横に振った。
「グラビティ侯子様ではありません。レッド様です」
「・・えっ?」
レッド様がなぜ?
私は黙ってマギィを見つめると、言いにくそうにしながらも涙を拭き話し始めた。
「レッド様、スレント子爵家は代々グラビティ侯爵家に仕える一族なのです。主の仕事は護衛と諜報です」
「・・うん」
「・・マーレン様とレッド様は幼馴染でありながら主従関係でもありまして、その・・」
「大丈夫だから話して?」
少し話しにくそうにしていたマギィに話すように促す。おそらく話しにくい部分はきっと、マーレン様の私への恋慕・・・
「アリィ様どうされましたか?その、お顔がとても赤く・・」
「何でもないわ・・続けて?」
マーレン様の言葉を思い出し顔が熱くなってしまった。
「未来の侯爵夫人をお守りする大役を、スレント子爵家の遠縁である我が男爵家にお話を頂きました。スレント子爵様と父は再従兄弟ですがとても仲が良く、アリィ様と歳の近い私に白羽の矢が立ったのです」
この頃にはマギィの涙も止まり、逆に話に力がこもっていた。マギィが我が子爵家に来たのはいつだったのだろう・・それよりも
「未来の侯爵夫人?」
思わず通り過ぎてしまいそうだった単語を繰り返した。マギィは あっ! と口に手を当てたがもう遅い。むしろその態度が聞き間違いでは無かったと証明された。
「マギィは何か知っているのよね?」
「あっ、その、えーと・・」
何とか誤魔化そうとしていたがここで引き下がるわけにはいかず詰め寄るが
「これ以上はご容赦ください!すみません!おやすみなさいませ!!」
そう言い終わると私が引きとめる前に部屋から出て行ってしまった。
私は明日もお休みとなったため、この先の話を誰に聞いたら良いのかと・・考えてしまった。
「まぁ、明日の朝またマギィに聞けば良いわね」
と呑気に思っていたら、
「昨夜ご実家に用事が出来たと言って、今日明日とお休みになりました」
マギィの代わりに別のメイドが部屋へと訪れたのだった。




