12 マーレン目線
昨日は彼女のトンデモない発言に思わず自分の気持ちを伝えてしまった。
「マーレン様、アリィ嬢遅いですね?」
「・・」
いつもは誰よりも早く登城して、始まる前に必ず掃除をしている彼女が今日は何の連絡もなく遅刻している。
「マーレンさま・・昨夜何かあったのですか?」
レッドの視線が痛い。
コイツは何だかんだで彼女を妹のように思っている。
「何も無かった・・とは言えない・・」
弾みとはいえ感情で言ってしまった。
もし、それが原因で休んだとしたら・・それが彼女の答えだと思うと受け入れるしかないのだろう。
「失礼致しますわ!グラビティ卿!」
突然現れたのは彼女の姉でこの間俺にある提案をしてきた
「ロード嬢、どうしたんだ?」
「ええ、貴方様に伝える事がございまして、こうして足を運びましたの!」
ロード嬢はお付きのメイドに耳打ちすると、どこから出したのかお茶を淹れはじめた。
ロード嬢はソファーに腰掛けると俺にも腰掛けるよう扇子で指示を出す。
「まず、アリィは本日休ませました。昨夜遅くに帰ってきましてね、その時にはすでに身体は冷え切っており急いでお風呂へ入れたのですが」
一気に話した彼女は一口お茶を含むと
「夜中から熱を出しましたの。今まででも滅多に熱など出さない子が・・グラビティ様。何かありましたの?」
前から思っていたが彼女の勘は鋭い。
私がひた隠しにしていたこの気持ちを簡単に気付いたほどだ。
「・・・レッド、すまないが席を外してくれないか」
「わかりました。では、こちらの書類を宰相閣下へお渡しして来ます」
「ああ、ありがとう」
レッドが書類を胸に抱えて部屋から出て行くのを見守ると、今度は彼女のメイドが扉の前へと移動する。
お互いに気が無いとはいえ未婚の男女が部屋に二人きりはマズい。
「彼女は・・アリィ嬢は大丈夫なのか?」
「ええ、朝には熱も下がりましたが念のため休ませましたの。食事も摂れてるからご安心を」
いつも元気な彼女が伏せっている。気持ちとしては直ぐにでも駆けつけて様子を見たいが、今の自分にはそんな権利すらないのだ。
「昨夜彼女に・・自分の気持ちを伝えてしまったんだ。後悔はしていない!が、婚約者のいる彼女にしてみたら・・迷惑でしかないよな」
ロード嬢は黙って聞いている。
最初は挨拶が出来れば良かった。
それが一緒に仕事をして、普通に会話をして、気付けば誰よりも近くに居たいと欲が出てしまった。
俺はロード嬢の顔を見る事も出来ず下を見ていた。
どのくらい時間が過ぎたのかわからない。が、あの子は・・と声が聞こえてきた。
「あの子はわたくしの身代わりなんですの」
顔を上げると彼女と目が合う。
「本来ならわたくしが婿を取って跡をつぐのが世の常。でもわたくしの両親は成長するにつれ、アリィの才能に目を付けましたの。」
とても悔しそうな表情をしながら、苦しげに思い出していた。
彼女の話によれば最初は長女であるチェリー嬢に婿を取らせるつもりだった。が、成長するにつれ美しく育つ長女。
一方では姉と比べるとパッとしないが、経営や数字に強いアリィ嬢に跡を継がせた方が自分達も楽に生活出来ると思った。
「わたくしと末妹は高く買ってくれる方に嫁がせる。わたくし達からしたら、どっちも幸せにはなれませんわ」
現にチェリー嬢には貰い手として残り三名まで絞られたそうだ。
チェリー嬢の次はトゥーエ嬢だろう。
アリィは二人が嫁いだ後にジョージと領地でひっそりと式を挙げさせるのだと、両親が話しているのを聞いたらしい。
「あんな両親の思い通りにはさせたくない!だからこそ、グラビティ様のお力が必要なのです!」
「もちろん君の力にはなりたい。だがどうやって?彼女の気持ちは?」
「アリィはジョージへの気持ちなどありませんわ!これだけは断言出来ます!」
チェリー嬢は今までにない程ハッキリと答えた。貴族の婚姻はほとんどが政略だ。きっと彼女も何かしらの思惑があっての事なのはジョージの態度を見ればわかる。
「あの男は、ジョージ様はアリィの婚約者になる事で・・」
「トゥーエ嬢に近づいた・・か?」
言いにくそうな言葉を俺が言うと、今にも泣きそうな顔で見つめてきた。
「アリィも決して私たちに引けをとっていません。賢く思いやりのある子なのです。なのに・・」
涙を堪えているのだろう、声が震えている。
「貴女の言葉は信じるが、まずは私が直接アリィに気持ちを聞こうと思う。姉君は許してくださるだろうか?きっと・・大きな騒ぎになるだろうが」
俺の言葉を聞きチェリー嬢は顔を上げる。その際目頭から涙がこぼれ落ちた。
(ああ、綺麗だな。この涙は妹を愛し、案じている涙だから・・)
「妹たちは私が守ります!どうか、どうか私たちを助けてください」
「もちろん貴女にも守りを着けます。私の古くからの親友なので、しっかり守ってくれるでしょう」
まずはアリィの気持ちを確認しなくては・・
俺は久しぶりに全力で動ける嬉しさに、自然と笑みが溢れた。
「チェリーお嬢様、彼の方にアリィ様をお任せしてよろしいのですか?あの・・悪魔の様な笑顔を私は見た事がありません」
「彼の方は今まで自分を押さえに押さえてきたから、嬉しくて仕方が無いのでしょうね。そんな方だからこそ、アリィを任せられるの」
「トゥーエお嬢様は・・」
「あの子はちゃんと見つけていますよ!」
「えっ?」
帰りの馬車、チェリーお嬢様の言葉が気になったがそれ以上は口にされなかったのでその話はこれで終わった。
トゥーエの相手は誰なのでしょう?
私も気になります 笑




