49.2人のお仕事 その7~騎士たちはゆく
「…してカイン、姫様はなんと?」
馬の上から、重々しい声が響いた。
呼びかけられた騎士…カインは、騎馬隊を先導するその者に答えた。
「魔竜族であることは違いない…」
「ふむ、ならば『闇竜』だろうか」
「…しかし、『ただの闇竜』でもない、と」
続けられた言葉に、騎士は真っ直ぐ前に向けていた目線を、カインへと動かした。
まだろくに整備されていない、砂利だらけの道を歩く馬たちの黒い蹄を、カインは視界の端に入れる。
「…伝説に唄われた『虹竜』であるやもしれぬ、と?」
「…感じられる魔力の属性が『虹竜』の持つそれとは違う。確かに闇属性を持つことから、体色は黒で相違ない、と仰った」
若き近衛騎士の言葉に、騎士は視線を前に戻して、兜の下の目でそれを見据える。
公国北方の森、ツクの森。
正規の兵士さえ近づくのを憚る、魔獣の領域。
「…今度、『魔獣大全』でも読み返してみるか。新しい記録になっていれば、今後対策も立てられる」
「…はい」
「報告ご苦労、姫様の馬車の護衛に戻ってくれ」
「はっ!では、失礼いたします」
馬の手綱を引いて後退してゆく護衛騎士を見ず、ひたすらに森を睨み続ける。
「…生きて帰ることが出来れば、な」
まだ上がりきらない日の下、ガタゴトと揺れる馬車を連れて、隊は静かに進んでゆく。
時折、何かの大きな鳴き声が、空に響くのが聞こえた。