45.2人のお仕事 その3~奇襲は有効な手段…?
すみません、ギリギリになってしまいました…。
今回は黒竜との戦闘開始です。
拙いとは思いますが、見てくださると嬉しいです。
では、どうぞ。
黒竜。
竜の一種であるその竜は、一般的には魔力を用いた攻撃をすると認識されている。
しかし、黒竜は『魔力によって攻撃しない竜』、竜族である。
魔竜族であれば魔力によって自分の口から火球を放ったり、翼に魔力を通して羽ばたきで敵を切り刻んだりする。
黒竜の場合、体内器官がそれらの攻撃を魔力無しで出来るように異常な発達をしており、それ故にそう誤認されがちなのだ。
また、黒竜の攻撃の中でも最も恐れられているのが、硫酸の吐息、公国内では通称『アシッドブレス』と呼ばれる、酸を激流のごとく吐き出す攻撃である。
それによって、黒竜の戦闘後には一帯の植物は1ヶ月は芽吹きすらしないという。
狩人が黒竜を相手にする時は、このアシッドブレスをどれだけ吐かせないか、はかせても危険が無い状況にするか、にかかっている。
自分が危ないのは当然だが、下手をすれば自分たちの食料を恵んでくれる森などもあっという間に消えてしまうからだ。
そして、ハルバとライニィが選んだ方法は、前者であった。
■ □ ■ □ ■ □
ズン…
重量感溢れる音が、森の獣に警戒を促す。
小鳥たちが一斉に飛び立ち、フロストベアやウィンド·ビーも我先にと駆けだしてゆく様子は、狩人たちの目には映ってはいなかった。
ただ1つ、たった今はっきりと分かった獲物の姿だけを見据える。
「黒竜…」
呟いたハルバは、無意識的に『氷柱』に魔力を送りこんだ。
それと同時に、ライニィは『陽炎』を抜いて後ろを向いた。
その視線の先には、真っ直ぐ伸びる縄。
「ハルバ、来たら…」
「ああ。そしたらとりあえず霜柱をかけてみる」
その返事にライニィは振り返っていた頭を元の向きに戻し、魔力の通っていない炎剣を前に突き出した。
ズン…ズン…
一歩ごとに、木々が僅かに揺れる。
瞬間を待つハルバとライニィの頬に、暑くもないのに汗が一粒、振動で流れ落ちた。
そして、2人のいる木を竜が通り過ぎた。
「…今っ!」「…っ!」
ハルバが言った正にその時、ライニィは剣を鋭く振り下ろした。
太い見た目とは裏腹に、何の音も無く縄は切られる。
次いで、2人の2つ隣の木の緑色から、数十本の矢が放たれた。
「グルァッ!」
それらは突き刺さりはしないものの、相手の鱗を傷つけ、注意をその木にいかせる。
「行くぞ!縛·霜柱!」
全く2人のいる場所とは違う方向を向く黒竜に、ハルバは太い枝を蹴って一気に肉薄、豪快に『氷柱』を地面に叩きつけた。
すると、そこから周辺が一瞬で凍りつき、不意をつかれた竜の下半身をも凍結させた。
「…雷炎牙!」
凍った自身を気にする間もなく、またもや不意に何者かの声を聞いた竜は、頭を上げたと同時に何かで頭を叩きつけられた。
それは、ライニィの両手の剣から伸びた、牙のごとき雷と炎の刃。
強かに打たれたもののすぐに頭を巡らした竜は、やっと狙うべき敵の姿を捉えた。
「おいおい、今のくらって鱗が焦げただけかよ…」
「もしかしたら焦げてすらいないかもね。黒竜はやたら鱗が堅いから…にしても、堅すぎだけど…」
2人は冷や汗が流れるのを確かに感じていた。
以前黒竜を相手にしたことがある2人には、その時はもっと効いていた覚えがある。
しかし、最早格が違う程に堅い鱗に、軽く呆れを感じていた。
敵を見た竜は、さっさと排除するためにその首をのけぞらせる。
「させるか!」
跳びあがったハルバは竜の顎に武器を打ち、無理やり開いた口を閉じさせようとした…が。
「! ハルバ、逃げてっ!」
「…!?」
打たれる寸前にさらに首を反らし、竜はその威力を減衰させていた。
そして、未だ宙にいる敵に向け、その口に溜めていた物を吐き出した。