44.2人のお仕事 その2~実地調査は大事です
フィエンゴからしばらく東に進むと、行き着くのはオアゼ山のすそ野。
そこの森は、南のツクの森やさらに南の大老樹林に規模は劣るものの、生態系の多様さは同等以上であり、薬草においてはむしろ優っている。
そして、今は2人の狩人がその中を歩いていた。
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「…どうだ?」
「どうやらこの辺りでも食事をしたみたいね。…でも、やっぱり二度以上来た形跡は無いわ」
「むう…感じる残存魔力は確かに黒竜にしちゃ少ないな」
「どういうことかしら…リザードラットだって沢山いるのに、むしろほとんど襲撃された様子は無いし…」
「そんなに少食なのかねぇ~?」
「そんなワケないでしょ。とりあえず罠でも張っておかなきゃ。」
「でも嫌だよな、落とし穴が無意味なんてさ。大丈夫ならすぐにでも掘るのに!」
「仕方ないわ。何せ魔力で常時浮遊してるんだから。縄張るから手伝って」
「あいよ~」
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「…で、本当のところはどうなの?」
罠を張り終えた後、ライニィはハルバに尋ねた。
今、2人は罠の見える木の枝に待機している。
「ん?何が?」
本当に分かりません、といった表情にため息をついて、手を額にあてるライニィ。
ハルバはその様子をじっと見ている。
「…黒竜のことよ。本当に、目撃されたのは、黒竜なの?」
その言葉に、ハルバの眉間にしわが寄った。
「それは…多分違う。黒竜は結構暴食するから、確かに群れに入ったりはしないで単独でいるんだけど…今回は逆に少食。食事跡に何度も来ないで1回きり、しかも全部違う種類の獣がいる場所なのに、代わる代わる食いに行った感じもしない」
「そこまでは私も分かるわ。来たのが何時かにもよるけど、生きるための食事、という意味でもあの巨体にしては少ない…」推論を交わしながら、しかし、その目と感覚は全て周りに注がれている。
今、2人の脳裏には、自分たちの5倍以上の高さを持つ黒い竜が、悠然と空ではばたく姿が浮かんでいた。
だが、片方の想像は少し違うものになっている。
「それと…臭い。黒竜に近いけど、微妙に違う…気がする」
「それだけで充分よ。私は『使ってない』から臭いでは分からなかったけど…やっぱり違うのね。だったら、今回の獲物の正体は…?」
ライニィが1つの結論に達する、その直前だった。
にわかに、2人の視線が空の一点に集中する。
その先にいたのは…鱗で太陽の光を反射している黒い巨体。
ギャオォォォォォン…!
まだ距離があるものの、その鳴き声は2人の肌にビリビリと響く。
2人の目が、緊張感ではなく闘志に染まった。
そして、どちらからともなく声が漏れ出る。
「獲物が来た…!」