43.2人のお仕事 その1~今日の獲物は?
朝。
まだ日が昇ったばかりの頃、フィエンゴの長の家に、3人はいた。
涼やかな冷気を放つ鎚を背負う少年の後ろには、二振りの剣を腰に携える少女と、その身から親しみやすさと少しの威厳を感じる男。
少年が2人に背を向ける形になっている中、ふいに少女が口を開いた。
「…やっぱり暑い日はこれに限るわね。」
「全くだ。…ハルバ、もう少し冷気出せ。」
「了解。…で、俺はアダガフさんの家を冷やしに来たんだっけ?」
少年は振り返って、涼む2人に首を傾げた。
少し凍りついている白い首から、パラパラと氷の粒が落ちる。
「いいえ、今日は大物が出たそうだから話を聞きに来たのよ」
「ああ、そっか~。じゃあ聞かせてよ、アダガフさん」
「あと5分涼んだらな」
「は~い。ところで、なんか首が動かしにくいんだけど何でだろ?」
「「…………」」
その言葉に涼む2人は沈黙し、涼ませる1人は再び首を傾げたのだった。
■ □ ■ □ ■ □
「…で、今回の情報だが。東のオアゼ山付近に黒竜を見たそうだ」
2人の目がすっ、と細められ、アダガフに2つの視線が集中する。
それらにある鋭さや微かな殺気を何ら気にしていないように、アダガフは話を続けた。
「巣は確認していないが、他の大陸からこの場所に戻ってきた、と考えられる。それだけにここに居着く可能性が無いとは言い切れない」
「もしかしたら他の竜も来るかもしれませんね…」
「赤竜は勘弁だな…。他の竜の3倍の速さらしいから」
「…それホントか?」
「さあ?商人隊で噂されてただけだから、本当のところは分からん」
その言葉の後、しばらく場は静まり…やがてライニィが艶やかに唇を開いた。
「…とりあえず、張り込みましょう。どういう風に移動しているか、本当にここに居着くか、きちんと見極める必要があるわ」
その発言に2人は頷き、狩人たちは互いに見合う。
その瞳にあるのは、燃える闘志。
「よし、じゃあ頼むぞ、2人とも!」
「「はいっ!」」
若き狩人たちは今日、大物を狩りにゆく。
その頃、どこか遠くで大きな鳴き声が響いていた。