表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/119

32.その頃そこでは

「………………」

村はずれ、村を囲う塀の南門に、その人影はあった。

影が纏う黒装束は、その身を夜闇によく隠している。

影は、腰から月光によく映える刃を取り出し、その具合を確かめると、ゆっくりと周囲に気を配りながら歩き始めた。

スゥ…スゥ…。

まるで本当に影であるように…気配を断ちながら、地面に寝転がるその人物に近寄る。

そして、距離を確認して飛びかかろうとした、その時。

「止めとけよ、後悔するだけだぞ?失敗し、居場所を失う後悔と、……の後悔、2つな」

「………………」

影は何も言わず、屋根の上に視線を向ける。

そこには、淡く光を放つ白髪の青年。

見下ろす金色は、全てを知っているかのような、心まで見透かしてしまうような、涼やかな輝きを持っていた。

「ああ、言葉は要らない。お前が心で問いかければ、俺はそれに応えよう」

一瞬。

黒装束は、じりっ…という音を出して後ずさり、次の瞬間には青年に飛びかかっていた。

しかし、その結果は全く動いた様子の無い屋根の上の青年と、地に這いつくばる黒装束だった。

「……っ!?」

数瞬を経て何が起きたかを思考し始め、同時に激しい熱が痛覚に訴えかけてくる。

「…っ、ぁ…!!」

その様子を、青年は蔑むでもなく、貶すでもなく、ただ慈悲深き瞳で見つめていた。

悶える中でその金色を見た黒装束は、ふらふらと立ち上がり、すぅっ…と夜に溶け込んでいった。




「…よろしかったのですか?」

「ああ。…お前だったらどうしてた?」

いつの間にか青年の隣に立っていた女性は、艶やかな肢体で青年を後ろから抱きすくめ、青年の耳元で口を開く。

「勿論…貴方様と同じ、です」

「だろう?」

そんな女性を咎めること無く、さも当然であるような口調で応える青年を、女性は更に強く抱きしめる。

「ちょっと痛いんだが」

「良いではないですか、暫く会えなかったのですから…」

青年の瞳よりも薄い金色の髪から漏れる、女性の甘えた声に青年はため息をつき…ふいに夜空を見上げた。

「こんな夜は…アイツを思い出す…」

「…はい」

2人は満月を見上げ、同時に呟いた。

■ □ ■ □ ■ □

「そういえば…あの時も…」

「…ふにゅ…アレクス…お兄ちゃん…」

膝の上に頭を乗せて眠っているアワユを優しく撫でながら、アレクスは呟く。

その言葉は、少し離れた場所の2人と重なった。

「…セクリ…」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ