30.心ゆくまで暴れよう
「ちっ…やっぱりハルバはこれぐらいじゃやられない、か…」
「当たり前だ。やられるようならとっくに死んでいるか、もしくはその前に狩人を止めている」
踊るように放たれた二振りの剣の斬撃は、全てハルバの武器―戦槌『氷柱(つらら)』が出した氷の盾で防がれていた。
今も、ハルバの全身は氷の鎧に包まれている。
その冷気は決して主を苦しめることは無く、ただ相手にのみ牙をむく。
対峙する2人の本物の闘志を感じ取った村人達は、息をするのも忘れて見入った。
「「…………」」
静かに武器を構える2人だが、どちらもそれ以上は動かない。
酒が回っているはずだというのに、そこに一切乱れは無かった。
しばらくして…村の中心で焚かれていた篝火で、一本、木の棒が音を立てて折れた。
「はぁっ!!」「ふっ!」
それと同時に、ライニィは気合いと共に、ハルバは短く息を吐いて駆け出した。
そこからは祭りは2人のモノだった。
ライニィは荒々しくも一糸乱れぬ剣技を次々に繰り出し、ハルバは無理やり氷で受け止めながら『氷柱』を的確に打ち込む。
剣と鎚の通った後には金と紅と白が織り混ざり、鍔迫り合いとなった時の火花は更に美しさを引き立てた。
「流石にハルバの魔力は…なら、これで決めるわよ!」
「お前だって無茶苦茶だろうに!」
ライニィは魔力を一気に注ぎ込み、『稲光』と『陽炎』の勢いを強める。
「雷炎舞、其の一っ!」
「くっ…!させるか、縛·霜柱!」
ライニィの剣が氷の鎧を一気に打ち砕き、ハルバに切っ先が届こうという所で、ライニィは動きを止めた。
見るとハルバは飛び上がり、彼がいたところからライニィの足下まで地面が凍りついている。
ハルバが『氷柱』に魔力を注ぎ込むと、淡く水色の光を纏い始めた。
それを見て、ライニィは両手の剣に再び魔力をこめ始める。
「っ!まだ終わらない!」
「いい加減終わらせたいんだがねっ!轟·霰(あられ)!」
振るわれた『氷柱』から無数の氷の塊が、ライニィの周り目掛けて飛んでゆく。
ライニィは『稲光』と『陽炎』を握り締め、魔力が刀身から溢れ出す程までため込ませた状態で、交差して腰の横に下ろされた腕を×字型に振り払った。
瞬間、込められた魔力が全て雷と炎に変わる。
「行け、電火雪崩っ!」
「うおっ!?…全部消し飛ばしやがった!」
全ての氷が打ち砕かれ、氷片が空中で月光に照り輝く。
「遅いっ、電光石火!!」
「な…ぐうっ!!」
光が視界を若干遮られた中、ライニィは少量の魔力で剣を振るった。
放たれた小さな雷球と火球は、あやまたずハルバに直撃した。
ハルバは大技の後で鎧を創っていなかったため、まともにくらってしまう。
「私が…勝つっ!!」
「ちったぁ…落ち着けやぁ!!」
2人は言うと同時に駆け出し、ぶつかり合う。
「っぐ…!」「がっ…!」
そして、双方が相手の武器の攻撃を至近距離から受け、正反対に吹き飛ぶ。
そのまま2人はしばらく地面に寝転がった後に、どちらからともなく笑い声を上げた。
「…あははっ、ま~た引き分けね!」
「…はははっ、まだまだ引き分けは続きそうだな!何せ、これで…」
『159回目!!』
そして、2人はその場で寝てしまった。
『…うぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
村上達は叫ぶことで、若き狩人2人を讃えたのだった。