29.酔いは血を騒がせて
「ハルバ、勝負よ!」
「いや、何で…っておおっ!?」
「ちっ、流石に勘がいい…」
「いいいいきなり雷剣『稲光(いなびかり)』はないだろう…っとおぅ!?」
「またよけた…大人しく当たるか私と闘うか、選びなさい、ハルバ!」
「いやいや、仕事とかに支障出るから止めようよライニィさん!」
「あ~もう問答なんか要らないっ!いくわよハルバ!!」
「だ~もうっ!止めろって…うひいっ!せめて雷剣と炎剣は無しにして!!」
「まだまだ~!!」
「もう充分!…くそ、太刀筋が単純とはいえ道具で動けなくさせるのは難しいし、そもそもライニィに効くかどうか分からないし…くっ!」
「ちょこまかと…もう我慢出来ない!」
「え、その構えっ!?」
「駆けろ『稲光』、踊れ『陽炎(かげろう)』!」
「う、うそっ!?まさか本気で…」
「疾駆剣劇、『翔炎雷』!!」
「ええぇぇぇぇぇぇ!!!?」
■ □ ■ □ ■ □
「あれは…ああ、酔っ払ったせいか」
「2人の性格が入れ替わった感じもするな…ライニィは暴れ、ハルバは思案する、か」
「ありゃあ思ったより影響があったみたいだなぁ…」
「神様、もうどうにもなりませんよ。それより、このお酒はどこから?」
「ああ、公国から取り寄せたらしいぞ、『豊穣の精』」
「まあ。…でも、神様と酌み交わせる日が来るとは思わなかったです」
「俺としてもまさか『豊穣』がこんな美人さんだとは思わなかったな…」
「あらあら、これでも神様が創造した世界の一部を担っているのですよ?強い力はより美しく、より安定する形を取るのです♪」
「はは、そうかそうか。うん、その長い金髪もなかなか」
「ふふ、ありがとうございます」
「…この人たち、酔い始めてる?神様は『豊穣』が寄ってきてるの気付いてないのか?そのせいで俺弾かれたし…」
「…神様…」
「ん~?」
「私(わたくし)のことは『豊穣』ではなく…ウィレイナとお呼び下さい…」
「…何故?」
「お願いします…神様…」
「…ウィレイナ」
「ありがとうございます♪それでは…呼んで下さった神様には、ご褒美です♪」
「え?…むぎゅ!?」
「うふふ、どうですか、私の胸は…」
「………………」
「神様固まってら。まあ分からないでもないな…完全に頭が埋まってるよ」
「ふふ、神様…」
「あ、熱い、一方的に…ここは退散させてもらいますぜ、神様…」
「………………」
■ □ ■ □ ■ □
祭はいよいよ盛り上がり、一方では激しい逃走劇が、一方では全く動かない静かで熱い状況が起こっていました。
アレクスは歩きながら満月を見上げると、いつかの美しい場所に向かって歩き出しましたとさ。