101.終わりと始まり
かなり間が空きました…。
読んでくださる方々に感謝ですm(u_u)m
「…言うことを、聞いてもらうわ」
そう言いながら、右肩を抑えるライニィは仰向けになっているシャムズを一瞥する。
「…暗殺者が…標、的を…治すと…?」
―お前にさせることができると思っているのか?
ライニィにはそう聞こえた。
「言ったはずよ。やれることはいくらでも、ってね…」
『陽炎』を鞘から抜いてシャムズに歩み寄ったライニィは、左腕を振り上げ…。
…ドズッ!ボオォッ!!
「…………」
自分のすぐ脇に熱を感じながらも、シャムズは疲れたような表情を動かすことはなかった。
チリチリと焦げる臭いがする中、ライニィの舌打ちが響いた。
「…これじゃ足りない?」
「…さあ、ね…」
突き立てられた『陽炎』の向こうにハルバを見ながら、シャムズは否定をしなかった。
段々と勢いを増す炎には、別段興味は無いようだったが。
それと対照に、ライニィの眉間の皺は深みを増し、無意味に成り下がった炎の勢いはどんどんと強くなっていく。
「傷自体は塞がってるけれど、そのままにできる時間なんて無い!活力をもたらす水の魔術が必要なのよ!」
叫び、ライニィはナイフが刺さったままのハルバを見る。
以前落下した時よりも、流れた血の量は微々たるものであるが、突き刺さった武器が心臓を捕らえている以上、ライニィの言うように余裕など微塵も無かった。
客観的に見れば、追いつめられ焦っているのはライニィであり、このまま時が経てば、最終的な敗者もまたライニィになるだろう。
…少なくとも、わざわざ雨の中を飛んできた真面目な伝書鳩がいなければ。
黒い上等なスカーフを着けられている鳩は、足に掴んでいた手紙を落とすと、近くの木にとまった。
シャムズはパサリ、と自分の体の上に落ちた手紙をゆっくり手に取り、広げた。
ライニィは忌々しげにシャムズを睨むものの、手紙を読むことを妨げることはしなかった。
そして、数瞬を経たのち、シャムズは手紙を『陽炎』の炎に投げ入れる。
一瞬で消し炭になった紙を見て、鳩は気だるげに飛び立ってゆき、それと同時にシャムズはため息をはいた。
「…今、この時を、もって…僕は……『シャムズ』だ」
「…?」
つぶやかれた言葉が理解できず、一瞬だけ思考したライニィは、続くシャムズの動きを止めるのに間に合わなかった。
「…ふっ!」
「なっ!?」
懐から新しいナイフを取り出し、着けていた黒い手袋ごと右手を貫いたのだ。
瞬間、ナイフが水色の光に包まれ、引き抜かれた後の右手は何もなかったように白い肌を晒していた。
「あなた、何を…」
「…治す。申し訳、ないけど…魔力を…いただくよ…」
「え…」
シャムズが右手を炎にかざすと、炎は赤い光になって手のひらに吸い込まれていった。
「癒やしよ…彼の者に…生ある、安らぎを…」
シャムズの言葉に呼応して、ハルバの体が先ほどと同じ水色の光に包まれる。
それは見る者の心も静める、まさに癒やしの光であった。
カラン、と内側から押し出されたナイフが、ハルバの横に転がる。
それと同時に、呆然としていたライニィが駆けだした。
「ハルバっ!…よかった、ハルバ…」
相棒の両頬を手のひらで包みながら、ライニィはうつむく。
その時に落ちた雫が、ハルバの額を濡らした。
(…こんな簡単に意見が変わるんだから…やっぱり…あなたの言った通り…向いてなかったみたいです…)
その様子を見ながら、シャムズは軋む体を起こす。
(あの道を示したのはあなたですが…今、こうしていられるのも…あなたのおかげです…)
雨があがり、木々が吹き飛んで見晴らしの良くなった空を見上げる。
先ほどの鳩が、視線をぶつけてきた。
「…さようなら」
鳩は聞いているのかいないのか、不意に明後日の方を見ると、パタパタと羽ばたいていった。