96.その雨の夜は長く 6
「逃がすか…っ!」
「っ!」
黒装束が素早く立ち回り、追いかける炎と電気が雨の中で闇を照らしていく。
剣を受けはしないものの、黒装束は焦っていた。
(何で…弾かれるっ!)
ハルバにしたように体内で水を発生させようとするが、魔法を体内で発動させるための魔力が弾かれているのだった。
魔力を纏っているのか、はたまた何かそういった力を持つ物を身につけているのか。
「そんなものに…そんなものに、ハルバがっ!!」
「くっ…!」
とっさにナイフで防ぐが、振り上げられた『陽炎』が溶かし、斬る。
一瞬のみでは下がりきれなかった黒装束の目の前を、『稲光』が走った。
外れた『稲光』は、しかし、纏う雷で漆黒の布を焼き切った。
「!!」
「…シャムズ、さん?」
取り払われた布の下には、僅かに水色に輝く髪と強張った青年の顔。
「なんで、シャムズさんが…?」
「…それが…真実。そして…僕は君を消さなきゃ、ならない…っ!」
シャムズは得物を失った右腕を掲げ、雨水を頭上に収束させる。
ライニィは俯き、だらりと剣をぶら下げたようにしながら何事かつぶやいた。
「ハルバは………のに…」
「全てを砕け…裁きの激流…!」
そしてシャムズの右腕は、震えながらも力強く振り下ろされた。
「…アクア、パニッシャー!!」
「ハルバはあなたを…信じていたのにっ!!」
山の一角に、光と共に轟音が響き渡った。