93.その雨の夜は長く 3
かなり間が開いてしまいました…。
こんな状態でも読んでくださる方々には、感謝の極みです。
「はっ…はっ…」
葉と葉の間から、相手の様子をうかがう。
足場の枝は雨で滑りやすくなっているので、汗と雨が混じり合った手のひらで隣の枝を掴んでいる。
「はっ……はっ……」
呼吸を整え、ハルバは微動だにしない黒装束を見続ける。
なんとか一歩下がって刃をかわしたハルバは、すぐ近くの木に登って身をひそめていたのだった。
「…――」
「…?」
黒装束が何事かつぶやくと、雨が黒装束の頭上で球体になって集まり…はじけた。
その面攻撃により、ハルバは木から落とされてしまう。
「く…『氷柱』がありゃあ…!」
「…………」
ハルバを捕捉した黒装束は再び雨を集め、静かに手を前にかざした。
すると、水球は竜の形をかたどってハルバへと猛進する。
「なっ!?…ぐぶっ!?」
回避行動として木々の間を縫うように走るハルバだったが、黒装束に見つかってから再び内からせり上がってきた水を吐き出す。
呼吸が満足にできず、視界がぼやける中で見えるのは、木をものともせずなぎ倒しながら迫る水の竜。
(やらなきゃやられる、か…!)
爪を手のひらに食い込ませることで意識を引き戻したハルバは、竜と再び収束され始めた水球を見据える。
びくりと身を震わせた黒装束は、何かを感じ取ったのだろうか、まだ十分でない量のまま水をはじけさせた。
しかし、先に放った竜が標的に到達していない時点で、その行動は遅すぎる対応だった。
(…魔喰らい!)
水の竜を、水の壁を、自身の中で渦巻く水を、不可視の牙が噛み砕き、喰らう。
ただの水になった竜と壁は、音を立てて大地に堕ちた。
「!?…っ!!」
黒装束は驚愕したようだが、次の瞬間にはナイフを手にハルバに飛びかかっていた。
ハルバは右手の甲でナイフをそらすと、しぼられて力をため込んだ左腕を真っ直ぐ伸ばす。
その拳は空を切っていたが、わずかに黒装束の顔面の布をかすっている。
かわした黒装束は、無手にしておいた手をハルバの胴体に向け、発生させた水球を撃ちはなった。
しかし、その弾は振るわれた腕の勢いを殺さずに半回転した体には当たらない。
ハルバは距離を詰めようとするが、連続で撃たれた水球に阻まれている間に離れられてしまった。
―ザァァァァ…
「………………」
「ハァ…ハァ…」
ここで初めて真正面で対峙する2人は、強くなるばかりの雨に打たれながら沈黙した。