10.ノーベルト日記·2
○月◇日。曇り時々晴れ。
いよいよ今日は出発の日、護衛のアイツ等が来る日だ。
昨日までは片っぽが大怪我しただか何だかで会えなかったが、今日はちゃんと来るそうだ。
…そういえば昨晩村に響いたあの鈍い音は、何だったのだろう?
まあ、深くは考えまい。
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「ノーベルトさん、早速お出ましだ!」
「出発して1時間もせずにリザードラットの群れ、か。じゃあ頼むぜ、2人とも」
「了解しました。さ、行くわよハルバ。氷の魔石は準備した?」
「ああ、大丈夫だ。『村喰いの炎』だろうが何だろうが、キッチリ守ってやるさ!」
「よし、お前たち、前衛は2人に任せて、弓矢で後方から援護しろ!接近戦はリザードラットと戦える自信があるヤツのみ!2人の足を引っ張るなよ!」
『はいっ!!』
「さて…ネズミちゃんたち?」
「寝床に帰るか、ここでくたばって寝るか、選びなぁっ!」
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それは、戦闘とは程遠いモノであった。
リザードラットの異名、『村喰いの炎』は決して伊達ではなく、武器、防具において改良に改良を重ねてようやく人が対等に相手を出来るようになった獣である。
身に微弱な火気を纏っているリザードラットは触れた物に否応なく熱を浴びせ、遥か古代に混じったとされる竜の血により身につけた、強固な鱗で半端な攻撃を全て弾く。
群れが通った跡は、全てが紅く染め上げられ、その紅がまるで村を食らうようだとまで言われる。
が、しかし。
この場においてそのような異名は、2人の戦士には何の意味も持たなかった。
少女の手では片手剣二振りが煌めき、少年の頭上では彼の背丈の半分はあるであろう、巨大な戦鎚が鈍く光る。
2人が過ぎた後には、真っ二つにされた赤黒い血液にまみれた胴体か、潰れて原型を留めていない凍りついた物体のみが残った。