梅竹義人の憂鬱
33歳童貞、独身ヒーロー『ホッグ・ノーズ』の世迷い言。
幼馴染2人の結婚式。何事もなく式は終わり、帰宅した梅竹義人はノートパソコンに文字を打つ。
私はなりたかった。誰かの特別になりたかった――。
これはホッグ・ノーズという形でそれを叶えた男の愚痴、魂の叫びである。
だが、成ってみて気付く。これは私であって私ではない。私の望む形ではなかった。私はただ、器を作ったに過ぎないのである。
私はなりたかった。誰かの特別になりたかった。それはある意味叶った。だが、成ってみて気付く。これは私であって私ではない。私の望む形ではなかった。私はただ、器を作ったに過ぎないのである。
しかし、気づいた時にはもう遅い。引き返せないところまで来てしまっていた。
誰かに読ませる気もないが、そもそも読ませることなどできないが、これは30過ぎたもうどうしようもない、うだつの上がらない童貞独身おっさんの世迷い言である。何かの手違いで読んでいるなら止めてくれ。そっと閉じて、見なかったことにして欲しい。読んでも面白くなんてない。ただダラダラと思いつくままに指を動かしているだけなのだから面白くなんてなる訳がない。読み手の存在など考慮していないのだから面白くしようとも思わない。だから読んでも憂鬱になるだけである。止めてくれ。
突然だが、憂鬱と言えばサンタクロースだろう。うちにサンタクロースが来たのは思い返せばただの一度だけであった。プレゼントは望んだ物ではなかったが、馬鹿みたいにはしゃいだことを覚えている。ゲームボーイカラーのカセットだ。今更このことについてとやかく言うつもりはないが、なぜ両親は『サンタクロースなどいない』と言わなかったのだろうか。子供の夢を壊したくなかったのだろうか。『いい子にしていなかったから』。そう言えば済むと思っていたのだろうか。確かめる気などないし、確かめようなどとは思わない。掘り返したところで何になるというのだ。老いた両親を前にどうしようもない過去のことを根掘り葉掘り聞くことなどできやしない。過去は過去だ。振り返ったところで何が変わるというのだ。過去に囚われたくはない。前だけ向いていればいいのだ。時間はあっという間に過ぎて行く。思い出すだけ、辛い過去ばかりであった。それにそもそも子供を持つことなどない、持つことなどできない自分にとっては知る必要のない無駄な知識だ。どうせ将来に備えて貯蓄をしたかったのだろう。金を稼ぐ大変さを嫌というほど学んだ今であれば理解できる。
そんな私はいつまで想像上の赤服じーさんのことを信じていたのだろうか。もう思い出すこともできない。いる、いないを反復横跳びしていたように思う。キョンのうちには来ていたのだろうか。根拠などないただの勘だが、毎年来ていたように思う。望んだ物を置いてくれたかどうかは別として。
彼にとって人生のターニングポイントはどこであろうか。考えるまでもない。高校入学初日、涼宮ハルヒと出会ったことである。認めやしないだろうが確実にそうであろう。ある意味私も彼女や彼との出会いは人生における重要なターニングポイントである。そういう意味では同じ穴の狢だ。我々世代は大抵そうであろう。それだけ出会った時の衝撃は忘れられない。薦めてくれた友人に感謝だ。出会わなければこうしてパソコンに文字を打つことなどしなかったのだから。これがなければとうに私は潰れていただろう。
もう一つのターニングポイントは当たり前だが超人になったことである。優人の家に行き、庭に小さな小さな隕石が落ちて来て中から黒い物体が飛び出すと、私たちの中に入り込んで来た。そして目が覚めると超人になっていたのだ。自分の体が熱く、確実に何かが変わっていることに戸惑いはしたが、隣で倒れている優人が息をしておらず心臓も止まっていた時は本当に恐ろしかった。無我夢中で心臓マッサージをし、救急車を呼んだ。あの時の感触は今も忘れることができない。呼び掛けには応じず、これで正しいのかと考える余裕もなく何時だったか習った通り、心臓目掛けて全体重を掛けて押す。『死ぬな』、『生きろ』等と考えたりはしない。ただ必死になって心臓を押し続ける。救急車のけたたましいサイレンの音が聞こえた時は『ああ、助かった……』と安堵したのを覚えている。こうして俺たちは病院へと辿り着いた。
病院に着いてからは優人のご両親はもちろんのこと、色々な立場の大人たちが入れ替わり立ち替わりやって来ては同じことを繰り返し聞いてきた。『何があったのか』。俺は何度も正直に答えた。もう優人のことなど考える余裕はない。そんなことよりも俺はこれからどうなるのか。そんなことで頭がいっぱいだった。
こうして俺たちは人類史上初の超人になる。正直、嬉しくなんてなかった。
なぜこんな昔話を書いているのか。それは今日、優人と七杜さん、もう笹川さんか。ゆかりさんの結婚式があったからだろう。内々の小さな結婚式。綺麗だった。とても幸せそうだった。羨ましい。とても眩しい。劣等感を刺激される1日であった。昔から良く知る2人だ。おめでとう、おめでたい。祝福の気持ちはもちろんあったが、心の何処かでこの場から早く居なくなりたい。自分が劣っている。自分の不出来さを見せつけられているようで嫌な気持ちになった。なぜ素直に祝福できないのか。自分は自分とは思えないのか。それが出来れば苦労はしない。そんなことを改めて思わされる1日であった。とても疲れた。2人は今頃盛り上がっていることだろう。羨ましい限りである。俺はどうだ。狭い部屋で独り、ノートパソコンとにらめっこ。職場と自宅の往復。ホント嫌になる。こんな毎日があと何日続くのか。死ににくい体の俺はきっと長生きするだろう。ぞっとする。呪いだなコレは。憂鬱だ。早く終わりにしたい。終わって欲しい。それが俺の今の願いだ。こんなんだから駄目なのだろう。自分で自分のことが嫌になる。どうすればいいんだろうか。能力者を辞めるか? 辞めれる訳がない。2人に全部押し付けて逃げ出すような真似はできない。
俺は昔、2人を助けた。クリスマス当日、デート中の中学生2人を俺は助けた。確か犯人は今の俺と同じように独りもんでどうしようもない孤独を抱えていた。死のうとしていたアイツは超人化薬に手を出した。というより、向こうから近付いて来た。何処ぞの工作員に唆されてしまったのだ。そして死ぬこともできず能力者となり、それが引き金となって暴れ回っていたのであった。当時も今も気持ちは解る。幸せそうな顔をした連中が妬ましかったのだろう。憎たらしかったのだろう。止めた後、アイツが死んだ後、報道でだがアイツの抱えていた物を知った。俺と同じだった。今もそうだが俺はこういう奴だ。それなのに皆、俺のことをヨイショする。本当に止めて欲しい。俺はどうしようもないただの豚だ。正義の味方なんてなりたくもない。俺はヒーローなんかじゃない。勘弁してくれ。俺はただの童貞だ。名声なんていらない。そもそも俺に向けられた物じゃない。『ホッグ・ノーズ』にだ。皆が望む子供たちの手本となるようなヒーロー、ホッグ・ノーズにだ。なんでこうなってしまったんだろう。超人になんてなりたくなかった。過去の自分を殴ってやりたい。お前の進むべき道はそっちではないと。ただの人間で良かったんだ。特別になったところで擦り切れるまでいいように使われるだけである。
彼女が欲しい。セックスしたい。おっぱい触りたい、しゃぶりたい、揉んでみたい。おっぱい!! おっぱい!! お尻!! 生足!!
END