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義姉の身代わりで変態侯爵に嫁ぐはずが囚われました〜助けた人は騎士団長で溺愛してきます〜

作者: 涙乃

ブクマや評価いただけますと嬉しいです

宜しくお願い致しますm(_ _)m

「お姉様が……死んだ……?」



「何てことを言うの⁉︎ この役立たずが!」


「《《なくなった》》と言ったのが聞こえなかったのか‼︎ お前は耳までグズだな!」


ハワード伯爵邸の一室で、レオン・ハワード伯爵と夫人のメアリーは、娘であるルーナに罵声を浴びせていた。

艶のある銀色の髪、透き通るような肌、そして、この国では珍しいアメジストのような瞳。まるで天使のような愛くるしい容姿をもって産まれたルーナを見て、ハワード伯爵は大喜びだった。


というのも、ハワード伯爵はルーナの母レディシアの容姿に惚れ込み、金に物を言わせて強引に婚姻を結んだのだ。

レティシアの実家ソルフェール男爵家は、事業を営んでいた。ある時、古くから付き合いのある取引先まで一斉に今後はもう取引をしないと断られたのだ。急に取引先を失って、経営を続けていくことが困難となり、急なキャンセルも重なりあっという間に借金が膨らみ困窮していった。その時にハワード伯爵が借金を全額肩代わりしたのだ。その代償としてレティシアを妻に欲したのだ。当時、ハワード伯爵が裏で手を回していたという黒い噂もあったが、伯爵家の申し出を断ることができなかった。


そういう経緯もあり、ハワード伯爵はレティシアの容姿を受け継ぐルーナを見てほくそ笑んでいた。この容姿なら、いずれは王族にも見初められるかもしれないと。

だがその目論みはすぐに打ち砕かれる。

ルーナに魔力がないことが判明したからだ。貴族なら誰でも魔力があるのが常識の世界で、致命的な欠陥だ。早々に身限り次の子を作ろうとする。けれど、その後懐妊の兆しは現れなかった。


そんなハワード伯爵の思惑にレティシアはショックを受け、ルーナの今後を想い自分を責めた。そうして、心身共に衰弱し、亡くなった。ルーナが五歳の時だった。


すぐに後妻としてやって来たのがメアリーと娘のステラだった。後妻の連れ子がルーナより一つ年上。


その事実に幼いルーナの心は深く傷つけられた。


お母様を裏切っていたんだわ。許せない

ルーナの記憶の中には、悲愴感漂う母の姿しかない。

ルーナの姿を見ると涙を流していた母。

母を哀しませたくなくて、あまり近づかないようにしていた。


お母さま……


弱っていた母を置いて、自分は愛人の元へ通っていたなんて許せない。


強い憎しみの感情を抱いたルーナだったが、メアリー夫人とステラによって更に傷つけられることになる。



魔力がなくても、その容姿は使えると判断されていたルーナは、それなりに貴族令嬢として扱われていた。そのことがステラは気に食わなかった。

ピンク色の髪を持ち、二重瞼にぱっちりとしたブラウンの瞳、微笑むと笑くぼができるステラは、誰からもかわいいと言われて育った。誰からも愛される自分は、世界で一番かわいいと思っていた。

それなのに……。


ある時、母から父と暮らせるようになったから引っ越すと言われて連れて行かれたお邸の豪華さには驚いた。時々家にやってくる父が貴族なのだとは知っていたけれど、想像を超える暮らしだったから。そして、対面した義妹ルーナ。珍しい瞳の色で、同性ながらに綺麗だと思った。こんな豪華な

お邸に住んで、綺麗なドレスを着て、私の父と贅沢に暮らしていたなんて許せない!

この子の母親のせいで、私たちがここで暮らせなかったんだわ。なのに、なんで、のうのうと暮らしているの!図々しい。こんなの、家族なんかじゃないわ!


「お母さま! 私、あの子が嫌いだわ!」


貴族の血を引いているステラを切り札に、いつかは伯爵夫人の地位を手に入れたいと目論んでいたメアリー夫人は、やっと手に入れた夫人の座を維持するためにも、ルーナの存在は邪魔でしかなかった。ステラに悪魔の囁きをする。


「可愛いステラ。お父さまとお母さまと、ステラと三人で本当の家族になりましょう。そのために、あの子に思い知らさないと。ドレスだって宝石だって、あの子よりもステラが身につけた方が何倍もかわいいと思わない? ステラもそう思うでしょう?」


「はい!お母さま!そうよね、本当の家族じゃないあの子なんて追い出してしまえばいいいのよ」


それから、ルーナを取り巻く環境は徐々におかしくなった。




「お父さま、ルーナが突き飛ばしたの」

「お父さま、ルーナが服を破いたの」

「お父さま、ルーナが私のことを平民と言ってバカにするの。宝石をみせびらかすの」

「お父さまルーナが──」



ルーナが、ルーナが、ルーナが……。


ステラはことあるごとにルーナを貶める発言を周囲に吹き込んでいく。


火魔法を扱えるステラのことを、ハワード伯爵は溺愛しており、ステラをかわいがるあまりにルーナをぞんざいに扱うようになっていた。


「魔力もない、魔法も使えないお前など何の価値もない」と……。




ルーナの使っていた部屋はステラのものとなり、ドレスも、宝石もルーナのものは何一つなくなった。


屋根裏部屋に押し込められて、簡素なワンピースを身に纏い、息を潜めて暮らすようになった。


顔を合わせなくてすむので、ルーナにとってはむしろ好都合だった。

食事などは優しい使用人が交代でこっそりと運んでくれていた。


けれど、その生活も長くは続かなかった。


ステラを高位貴族に嫁がせようと躍起にるハワード伯爵と、贅沢な暮らしを満喫するメアリー夫人、ちやほやされることに無類の喜びを感じるステラ。全員、湯水のようにお金を費やす。 


最初こそ演技を続けていたステラも、邸の中ではぼろを出し始めていった。気に入らないと癇癪を起こし、当たり散らしクビにする始末。


給金も未払いになり、いつしか使用人が誰一人いなくなっていた。


それからというもの、ルーナは使用人のようにこき使われていた。


逃げようにも、ステラの足には鎖のアンクレットを嵌められていた。主に奴隷などに使うもので、この鎖は嵌めた主しか外せない。もしくは主よりも強い魔力の持ち主。遠隔で操作できる魔力のスイッチを主が持っており、逃亡したとき、もしくは主の一存でスイッチを押すと鎖から炎がでる。ステラの両足には、火傷の跡がついている。



全てに失望し、虚空をみつめるような眼差しで、日々を過ごしていたステラに対して、本日、いなくなったステラの代わりにイエール侯爵の元へと嫁げと命じたのだ。



もうじき50になるイエール侯爵は、5回目の結婚となる。嗜虐趣味があるという噂で、耐えきれずに次々と嫁いだ女性は亡くなっているそうだ。若い女性が大好物らしく、多額の結納金を既に受け取っていると。


遂に、そんな人に頼らなければならないくらいに困窮していたのね……

お姉さま……嫌で逃げたのね?

もしくは、最初から私を嫁がせるつもりだったのかも。

お姉さまを指名してきたものだから、自分たちが責められないための茶番なのかもしれないわね。


「よいか、イエール侯爵にはステラはなくなったというのだぞ!それ以外に余計なことは言うな!グズのお前でもそれくらいできるだろう、お前が侯爵家に嫁いだら、その鎖を外してやる!分かったな!」



「何かあっても責任はお前一人で負いなさい。今まで面倒みてあげたのだから、感謝なさい!」


口元にあてていた扇子をパチンと激しく音を立てながら閉じると、メアリー夫人はルーナをその扇子で叩く。


「っ!お義母さま……」


「お黙りなさい!私の娘はステラ一人です。お前がどうなろうと知ったことではありません。とにかく、なくなったというの!後は向こうが勝手に勘違いするだろうから、ステラが見つかっても騙したことにはならないわ。ぜーんぶ、お前の責任だから。それにしても臭いわね、そのきったない身体を洗ってからさっさと出ていって!」



「分かりました……メアリー夫人……」



この鎖を外してもらえるのなら、もしかしたら自由になれるかもしれない。

イエール侯爵家に到着して、鎖が外れた瞬間に、逃げよう。とにかく、ここからできるだけ遠い所へ。



頭を下げ退室したルーナだったが、背後にパサリと何かを投げられて振り向く。


これは……ステラお姉さまのドレス。


ステラの好みそうなフリフリとしたドレスが投げ捨てられていた。



これを、着て行けということなのでしょうね。


ため息をついたルーナはドレスを拾い上げ、屋根裏部屋に桶を取りに行く。


身体を洗う為に川に水を汲みにいくのだ。


魔力のないルーナは、浴室の蛇口は使えない。貴族邸の器具はほとんどが魔力で作動するものだった。

幸い洗面所は使用人部屋のものは魔力なくても作動する。けれど、浴室はダメだった。




「よいしょ、よいしょ」


何往復しただろうか。これで最後にしようと川の水を汲み上げたルーナは水面に映る自身の姿を見てぴたりと動きを止める。


埃まみれの灰色の髪は、所々絡まりボサボサだった。


「ひどい顔……」


頬は痩せこけ、瞳だけがぎろりと目立っており、初対面の人は怖がるであろう容姿だった。


母に似ていると言われたあの頃のルーナは、もういない。



桶を持ち上げて、踵をかえした瞬間、何かに足元を掬われて転倒した。



「きゃあ!」


「うぐっ!」


バシャーンと桶から水が溢れていき、ルーナと、行き倒れている人物にかかる。



「あ、あの、ごめんさい!だ、大丈夫ですか?あの、どこか具合が悪いのですか?」


地面にうつ伏せで倒れている人物の背中を、ゆさゆさと揺するものの返答はない。


真っ白な髪、スラリとした体躯


ご老人かしら? とにかく邸まで連れていこう



ルーナはその人物を抱え起こそうと必死だった。


「んん……」


うっすら意識があるようで、その人物はルーナの肩にもたれかかるように立ち上がると、一緒に邸の屋根裏部屋まで歩いてくれた。



「よいしょ」

ルーナはベッドに横たえると、濡れた衣服を脱がし始める。


プチプチとボタンを外し、露わになった肉体を見てルーナはぼっと赤面する。


スラリとした体躯は、意外に胸板が厚く腹筋も割れていたからだ。


男性に免疫のないルーナは、妙な汗も出て緊張してくる。


お、おじいさん、だもの……変に意識してはだめ……


自分に言い聞かせながら、身体をタオルで拭いて、邸の使用人部屋に残っていた衣服を着せ終える。



髪も拭こうとまじまじと男性の顔を見て不思議に思うルーナ。


髪は真っ白だけれど、顔に皺はない。

身体もまるで若者のよう。細マッチョという感じだった。


おじいさんよね……?



自分も濡れた衣服を着替えようとした時に、勢いよく扉が開かれた


「まだいたのか!さっさと荷物をまとめるんだ!ん……?なんだそのじじいは⁉︎」


「お、お父さま……申し訳ありません…あの、倒れていたのです。この方が回復されるまでいさせていただけませんか?気を失っておられるようです。お医者さを……」



「医者を呼べだと⁉︎ そんな老人に払う金などないわ!」


「で、でしたら、私が看病しますので!どうか、この方が起き上がれるまでお願いします」



「イエール侯爵との約束がある。明日にはここから出て行けいいな!」



用件だけ言い終えるとハワード伯爵は去って行った。



明日まで……、時間がない、急がないと。



ルーナは急いで入浴を済ませると、厨房にいきスープを作り始める。


馬車が出て行く音がしたので、伯爵達は食事をしに出かけたのだろう。結納金も入り余裕がでてきたのだろう。


もう、あの人たちに食事を作らなくてもいいのね。



部屋に戻るとルーナは、男性に水を飲ませたり、スープを一口づつ飲ませたり、一晩中つきっきりで看病した。


久々に入浴して清潔になった髪の毛を、一本プチッと引き抜くと、男性の手首にリポン結びをする。そして、両手を胸の前で組み祈りを捧げる。


「どうか、元気になりますように」と。



この地方に伝わるおまじないだった。

本来はリボンを大切な人の手首に結び、祈りを捧げる。


戦地に赴くときや、病気の時、旅行に行く時、恋人や家族が相手の無事を祈ってリボンを手首に結ぶ。


ルーナはリボンを持っていないので、髪の毛を結んだ。



気持ち悪がられるかなという不安もあったけれど、なぜか、どうしてもそうしたい衝動に駆られたのだ。


そのおかげか翌朝にはすっかり元気を取り戻していた。けれど、声を発することができないようだった。


何度も頭を下げ感謝の気持ちを表す男性を見て、ルーナは回復して本当に良かったと微笑んだ。



「最後に人助けができてよかったです」



「最後?」


口の動きで言葉を読み取ったルーナは、もう二度とここへは戻らない覚悟を決めていたこともり、自分の境遇を愚痴るように打ち明け始めた。


ひと通り話し終えると、ポロポロと涙が溢れてくる。


「ご、ごめんなさい……私、私……」



心の内を見透かすような黄金色の瞳にみつめられて、ルーナは、己の境遇を嘆くことしかできなかった。


真っ白な髪に気を取られていたけれど、活力のある瞳の色に初めて気づいたルーナ。


男性も、また、ルーナを慈しむような表情を浮かべ、ガバリと抱きしめていた。



「っ!」


何が起こったのか分からないルーナだったが、ずっと求めていた人の温もりを感じて、押しのけることができないでいた。


よしよしと、優しく背中を撫でてくれる男性。



これは、きっと孫のように思ってくれているのかもしれない。

これ以上、心配をかけてはいけない。

例え、この胸の中に居心地の良さを感じていたとしても。



鍛えられた胸板。逞しい……


やだ、私ったら、この方はおじいさんなのに……。


イエール侯爵様も、こういう方だったらいいのに……。


ルーナは無理矢理に笑顔を作ると、顔を上げる。



「ごめんなさい!泣いてしまったけれど、もう大丈夫です!おじいさんもどうかお元気で!」



何か言いたそうな男性を無理矢理に玄関まで見送ると、ルーナは用意されたドレスに袖を通し、馬車へと乗り込んでいた。


邸に到着して、鎖が外れたのを確認したら、逃げるのよ。


極度の緊張から、心臓が飛び出てしまうのではないかというほどに激しく音を立てている。


大丈夫、私ならできる、大丈夫



自分を落ち着かせるように、暗示をかけて、足首の鎖を確認するためにドレスの裾を少し持ち上げる。


「え?うそ……」



ルーナは驚きのあまりドレスの裾を膝まで巻くし上げていた。


「ない!」



長年ルーナを縛り止めていた鎖が消えているのだ。痛々しい火傷の跡はあるものの、鎖は見当たらない。


お父さまが、こんなに早くに外してくれるなんて……


イエール侯爵様に見られるとまずいとでも思ったのかしら。


もう、いつでも逃げられる。飛び降りる?



一刻も早く逃げないといけないと思っていた所、突如馬車が急停車する。



何?


「中をあらためる!」


「きゃあ!」


「なっ‼︎」


突然馬車の扉を開け騎士が飛び込んでくると、なぜか膝丸出しのルーナの姿を見て言葉に詰まる。


自身のマントでルーナを包むと、抱き上げて、馬車から連れ出した。


◇ ◆ ◇


ルーナはとある部屋に連れて来られていた。



部屋には先程抱き抱えてくれて騎士とルーナのみ。向き合って座っている。


黒髪のスラリとした体躯の騎士だった。


初めてお姫様抱っこされた時のことを思いだすと恥ずかしくて体中が熱くなる。

鍛えられた胸板の感触が、生々しい。


男の人の温もり……。ふと、抱きしめられたお爺さんのことが頭をよぎる。


もしかしたら、私は、胸板に弱いのかも……。不埒な思考を追い払うようにふるふると首を振る。



「どこか、具合がわるいのか?」



低音ボイスで問いかけられて、ルーナはビクっと驚く。


「すまない、おどろかせてしまったかな。それで? どうして連れて来られたか分かるかい?」



怖がらせないように丁寧な口調ではあるけれど、明らかにこれは尋問だ。


もしかして、お父さま、遂に何かの犯罪を……。



「申し訳ありません……分かりません……」



「責めているのではないんだ。だめだ、どうしても気にいらない。とりあえず脱いでもらえないか」



「え? 身体検査ということでしょうか?何も隠したりしていません」



「いや、隠しているのを疑っているのではなくてだな……その、ドレスは、いささか、胸元が……」



黄金色の瞳を真っ直ぐに向けられて、ルーナは胸元を隠すように手で覆う。


確かにお姉さまに比べると、ガリガリに痩せているので、ドレスはダボダボだ。


「ルーナのドレスを用意しているので、着替えて欲しいと思ったんだ」



「え?どうして私の名前を……?」


目の前の騎士をまじまじと見つめたルーナ。



「この瞳を見て私が誰か分からない?」


「あ!ひょっとしてお爺さんの息子さんですか?」




「違う!」



騎士は勢いよく立ち上がりルーナの座っている椅子の横に跪くづく。



「私が、君の言うお爺さんだよ、正確にはお爺さんじゃなくて、私の名は、ウイリアム・カーサス。ここの騎士団長を勤めている。改めて、あの時はありがとう、ルーナ」



ウィリアムはルーナの手の甲に口づける。


「ウィリアム・カーサスさ…ま…ええっ!!」


ルーナは驚きのあまり二度見していた。

この国、カーサス王国の名をもつということは王族を意味するからだ。


「お、お、お、王子さまだったのですか?お、お爺さんが……も、も、も、申し訳ありません! わ、わ、私、とんでもないことを……」



王族の身体に勝手に触れ、食事まで口に運んでしまったのだ。


許可なく触れ、それも末端貴族のルーナに許される行為ではない。


だから、捕まったのね……。


「怖がらないで、ルーナ。今ルーナが考えていることは何も心配いらないから。ほら、髪の色もこんなに元通りになって、声も戻って、ルーナは命の恩人だよ。手首に巻いてくれた髪はルーナでしょ?このおかげで助かったんだ」



「私の髪の毛で?」


「あぁ、ルーナ、君は古の魔女の血を引いている。」



「古の魔女……?でも、私には魔力がなくて……」



「古の魔女はね、媒介を必要とするんだ。私達魔力のあるものは魔法を使える。古の魔女は自身の血や髪など媒介を通してしか魔法を使えないんだ。だから魔力は判定されない。もう、途絶えてしまったと思っていたのだが、口外せずに暮らしていたんだね。血筋だからといって、必ず古の魔女が産まれる訳ではないから。

あの日は、ちょっと無茶をしすぎてしまって、魔力が枯渇してしまったんだ……。魔力が枯渇すると、髪から色素が抜けて、声もでなくなり、いずれは死ぬ。

もう、ダメかと思った時に、父から宝物庫の中に行くように言われてね。命の危機に直面した時にのみ入れる場所があるんだ。そしたら、光に吸い込まれたかと思ったら、どこかに倒れていて、君に助けられたんだ。古の魔女のみ、枯渇した魔力を回復させることができるんだ。ルーナ、本当にありがとう。とにかく、君の力はしられる訳にはいかない。私に守らせてほしい。命の恩人のルーナを、今度は私が一生をかけて守るから」



ルーナは情報過多で混乱しており、よく分からないままこくんと頷く。


「ありがとう、受け入れてくれるんだね」



「んん!!」


ルーナの唇に柔らかな感触が遅いかかる。


「ここには誰も来ないから心配いらない」


またもお姫様抱きにされてルーナは隣室の寝台へと寝かされる。


「ルーナ、今日は、私の選んだドレスを着てもらおうと思っていたんだけど、あいにく女性が誰もいなくてね、だから、全部私に任せてもらえるね?(女性騎士は逃亡していたステラ嬢に回したし、その他は休暇を与えたけどね)」



「え? 待ってください、まだ、早くないですか?」


「かわいそうに、痛いだろう……鎖はすぐに外したが、この跡は治癒を何度か行わないと消えないな。心の傷は……(ハワード伯爵と夫人も捕らえたよ。ルーナの耳には入れないけど)私が全部癒すから…」



ウィリアムはゆっくりと、柔らかな唇で口づけていく。

「ウィリアムさま……」


「ウィルだ、ルーナ。ウィルと呼んで?」


「ウィル……」



「ルーナ、もう、何も心配いらないからね」


こくんとルーナは頷くと、まっすぐにウィリアムを見つめる。


潤んだアメジストの瞳には、熱を帯びた眼差しを向けるウィリアムが映っていた。


ルーナは全てを受け入れるように、ウィリアムの背中へと手を回し身を委ねた。





◇ ◆ ◇


ハワード伯爵家は察しの通り、そんな家があったのかと忘れ去られるくらいに、きれいさっぱりと消え去った。



ルーナは母の実家の籍に入り、その後、ウィリアムと結婚した。祖父母はハワード伯爵よりルーナと会うことを禁止されていたので、ルーナの境遇を知り、悲しみ、救ってくれたことに大喜びだった。


盛大な結婚式を挙げ、ウィリアムはルーナを言葉通り一生守り寵愛した。



四人の子供が生まれてからも、その溺愛ぶりは加速する一方だった。





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