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第四話

遅くなって大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!

何卒お許しをぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 荒れた自身の机上で何やら片付けの様な作業を行う柊寧々。

 その光景を視界に捉えた瞬間。


「、、、何をやっているの?」


 ポツリと溢れたセリフ。

 だがそれもきっと仕方のない事なのだろう。


 なにせ時刻は既に夕暮れ時。

 そもそも自身以外の生徒が教室に残っている事すら想定していなかったのだから。


 するとそんな溢れ出たセリフに対して。


「、、、あっ、、、え〜とっ」


 此方へ振り向くと同時に、目を泳がせながら気まずそうな反応を見せる柊寧々。

 どうやら先程の漏れ出たセリフが威圧的に感じた様で、完全に萎縮させてしまった様子。


 しまった!


 だが桜木花音的には、萎縮させたかった訳では無い。

 その為、慌ててフォローする。


「ごめんなさい!脅かせたかった訳ではないの!ただ純粋に何をやってるのかが気になって」


「あっ、、、そうだったんですね」


 するとそう言って、ほっと胸を撫で下ろす柊寧々。

 どうやら誤解は解けた様子だった。


 良かった。まずは一安心だな。


 柊寧々と同じく、胸を撫で下ろす桜木花音。


「え〜っと、貴女は、、、?」


「同じクラスの桜木花音よ。話すのは初めてかしら?」


「そうですね。えっと、私の名前は、、、」


「柊寧々さんよね?」


「えっ、、、。知っていたんですか?」


「勿論よ。だって同じクラスだもの」


 それに有名人だしね。


「えっと、、、。それはすみませんでした」


 バツの悪そうな表情を浮かべた柊寧々。

 どうやら自分だけが、相手の名前を知らなかった事を謝っている様子。


 だがそれも仕方のない事だろう。


 なにせまだ入学した直後。

 たまたま柊寧々が有名人であったが為に桜木花音も認知していただけであって、桜木花音だってクラスメイト全員の名前を覚えている訳ではない。


 つまりは仕方のない事なのだ。


「いいのよ。そんな事よりも、、、」


 それに大事なのは名前ではない。


「こんな時間にこんな場所で何をしていたの?」


 重要なのは柊寧々が、『今』『この時』に『この場所』で何をしていたかだ。


 一見すると、荒らされた桜木花音の机を片付けていたかの様に見えた。


 だがそれは本人から直接聞いた話ではない。

 もしかしたら桜木花音の勘違いで、よからぬ事をしていたという可能性も大いにあり得る、


 その為、正確な状況を把握する為にも、本人への確認は絶対に必要不可欠だった。


 、、、すると。


「え〜っと、、、。たまたま教室の前を通ったら花瓶が倒れている事に気付いたので片付けてました」


 そう言って、ぽかんとした表情のまま、あっけらかんとして答える柊寧々。


 その内容自体は、前述でも説明した様に、視界に広がる光景から何となく予想していた事だった。


 、、、良かった。


 まずはよからぬ予想が的中しなかった事に安堵して、ふっと一呼吸を置く桜木花音。


 しかし。


「なんで?」


「?」


「なんで片付けていたの?」


 仮にそうだったとしても、桜木花音には理由が分からなかった。


 なにせ彼女がイジメを受けているという話はクラス内で広まっている事。

 つまりは柊寧々も知っているであろう話なのだ。


 にも関わらず柊寧々は、桜木花音の机を片付けたと言った。

 それはつまり桜木花音への虐めを、間接的にだが庇ったという事になる。


 虐めを庇った者がどうなるか。

 それは等しく『次のターゲットにされる』と決まっている。


 柊寧々だって馬鹿ではないだろう。

 ならばきっとその程度の常識など、知っている筈だ。


 なのに柊寧々は、桜木花音を虐めから庇ったのだ。

 自らの安全を顧みず、見ず知らずの相手の為に。


 それは桜木花音にとって到底理解できない事実だった。


 本当に、、、なんで、、、?

 なんで、、、私なんかを、、、? 


 だがそんな桜木花音の思考や動揺を打ち砕くかの様に。


「えっ、、、?何でと言われましても、、、。教室が汚れていたら片付けるのは当然の事だと思うんですけど、、、」


 ぽかんとした顔のまま、なんて事のない様に『当然』と答える柊寧々。


 、、、。


 えっ?


「汚れていたからって、、、。でもそんな事をしたら貴女が!」


 次のターゲットにされてしまうかもしれないのに!


 だが。


「桜木さんの言いたい事も何となくわかります。ですがそんな事はどうでも良いと私は思います」


 、、、。


 、、、えっ?


「、、、どうでも、、、良いの?」


「はい」


 混乱する桜木花音に対して、はっきりとそう告げる柊寧々。


「でっ、、、!でもっ、、、!」


「それに私の手はもともと汚れていました。なのでこれ以上汚れた所で何も感じません」


「!!!」


 その一言に衝撃を覚える桜木花音。


 要するに柊寧々はこう言いたいのだ。

 もともと私の手は汚れているーーつまりは他の生徒達の恨みも買っている自覚がある為、今更その恨みが少し増えた所で大した誤差はないと。


 確かに柊寧々は入学して以来、様々な問題に首を突っ込んでは、問題を解決してきたと耳にした事がある。

 そしてその影響で、大半の生徒からはマドンナとして崇められている一方、ごく一部の生徒達ーーつまりはその問題の加害者達からは嫌われているという事も。


「、、、確かに桜木さんの意見も分かります」


「、、、」


「ですがそんな事よりも私は自分が正しいと思った事を大切にしたい。ただそれだけなんです」


「、、、」


 その後も柊寧々の言葉を、黙って聞き続ける桜木花音。

 すると。


「それにほら、、、。こうして手を汚すのは悪い事ばかりでもないんですよ、、、。現にこうして、、、」


 そう言って、先程までの真剣な雰囲気とは一変。

 僅かに顔を赤くして恥ずかしそうにモジモジする柊寧々。


 そしてそのまま桜木花音の顔を、上目遣いで見つめると。


「桜木さんみたいな、こんなにも可愛い人とお話ができたのですから」


 照れながらも、そう告げるのだった。


 、、、。


 その瞬間。


 !!!


 桜木花音の中で崩れ去った『何か』


 、、、。


 そうだ。彼女の言う通りだ。

 自分は今まで何をしていたのだろうか。


 理不尽なイジメに屈して、ウジウジするばかりで。

 何か自分の意思を持って、行動をしたことがあっただろうか。


 現に今、目の前には、自分よりも遥かに華奢な体格にも関わらず、周囲の加害者達に屈しない少女がいる。

 そんな少女と自身を比較した時に、恥ずかしくはないだろうか。


 否!恥ずかしいに決まっている!


 ならばこのままではダメだ!

 私も!彼女みたいに強くならなければ!


 、、、。


「確かにそうだね。柊さんの言う通りだよ」


 すると、先程までの弱々しい雰囲気とは一変。

 キリッとした表情で柊寧々の隣に立つと、同じく自身の机の片付けを始めた桜木花音。


「あっ。さ、桜木さんはやらなくても良いですよ、、、それに、花瓶も割れていて危険なので、、、」


「ふふっ、正しいと思った事をする、なんでしょ?なら私にもやらせてよ」


「そ、それは、、、」


 自らの言葉で揚げ足を取られたからなのか。

 気まずそうに狼狽える柊寧々。


 ふふっ。

 そんな姿も本当に可愛いね。マドンナと呼ばれる理由がよく分かったよ。


 だけど一緒に片付けさせてもらうよ。

 なにせ此処は私の机だしね。


「わ、分かりました。なら一緒にお願いします」


「了解!ならこっちを片付けるね!」


「はい。ありがとうございます」


「お礼を言うのはこっちだよ!ありがとね柊さん!」


「い、いえ私は何も、、、」


 ふふっ。


 そう言って、軽くコミュニケーションを取った後、手際良く片付けを進めた柊寧々と桜木花音。


 この日以来、桜木花音は変わった。


 虐めに屈する事もなくなり、必死に自分の意見を主張した結果、周囲の味方も増えた事で、遂には桜木花音に対する虐めが無くなったのだった。


 入学して以来、ずっと頭を悩ませてきた問題。

 その問題が、とある人の助言で綺麗さっぱり無くなったのだ。


 その為、そのキッカケとなった『あの日』の事を桜木花音が忘れる事は生涯ないだろう。

 件の少女ーー柊寧々に対する感謝と共に。


 それと同時に、桜木花音は胸の内で、とある一つの決意を固めるのだった。


 今回は私が彼女ーー柊寧々に助けられた。

 ならば今度からは、私が彼女の事を助けよう。


 例えどんな事があっても。誰が敵であってもね。


 そんな訳で桜木花音の、柊寧々に対する深い愛は、こうして始まったのだった。

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