第三話
今回もよろしくお願いします!
入学して早々、桜木花音はイジメを受けていた。
それも普通なら学校に行くのが嫌になってしまう程の陰湿なイジメを。
キッカケは些細な事だった。
クラスの一軍女子達から人気を博していた、とあるイケメン男子生徒。
そんな彼が桜木花音へと告白した事でイジメは始まった。
要は妬みによるイジメだ。
「、、、はぁ」
今日も今日とて、重たい溜め息を吐きながら、教室へと続く廊下を遅い足取りで進む桜木花音。
時刻は放課後。
彼女が歩みを進める廊下には、綺麗な夕焼けが差し込んでいる。
下校時間から既に数刻が経過した事もあり、他の生徒は一切居ない。
にも関わらず、彼女が学校へと残っている理由。
それは他でもない。
自らがイジメで受けた被害の後片付けを行う為だった。
、、、はぁ、今日は何も壊されていないと良いな。
彼女が受けているイジメ。最初は些細な内容だった。
例えば話し掛けても特定の生徒には無視されるだとか、クラスでグループを作る際に一人だけ余ってしまう、などの様に。
精神的には辛かったが、それでも学校生活に支障が出るレベルではなかった。
しかしそんなイジメも、日が経過する毎に内容がエスカレート。
徐々に深刻な内容へと悪化して行き、ついには私物を破壊される迄に至ってしまったのだ。
彼女自身も精神的に虐げられるのみなら辛いが我慢できた。
所詮は高校生活も三年のみ。この三年を耐えてしまえば主犯達とも会う事は無くなると。
しかし私物を破壊されたとなれば話は変わってくる。
彼女が使用している私物。これらは全て彼女の両親や祖父母たちが彼女の高校入学を祝して買ってくれた物だったのだ。
大好きな家族達の愛情が沢山詰まった数多くの私物。
それらが破壊された姿を見ると、申し訳なさも合わさって、どうにも涙が出てきてしまうのだ。
その為、彼女はこうして放課後も学校へと残り、どうしても学校へ残して行かなければならない私物を主犯達から守った上で、帰宅する様になっていたのだった。
、、、はぁ。
再び溜め息を吐きながら、自身の教室へと続く廊下をトボトボと進み続ける。
溜め息が漏れてしまうのも仕方のない事だろう。
上記で説明した様に、私物を守り始めて以降は、当然の事ながら私物への愚行は無くなった。
それはとても良い事だ。
しかしながら、その代わりに別の嫌がらせが始まったのだった。
それが彼女の机や椅子といった、学校からの支給品を狙った嫌がらせだ。
例を上げれば、彼女の机や椅子に油性のマジックで記載された『◯ね』や『ク◯女』の文字。
そして同じく机や椅子に汚らしく貼り付けられた食べ掛けのガムや飴など。
その全てが人間性を疑う様な陰湿な内容。
勿論これでは学校側にも損益が出てしまう為、教師達には一連の内容を全て説明した。
自身はイジメられており、学校生活にも支障が出そうだと。
しかしながらその主張が通る事はなかった。
何故なら皮肉にも主犯達は良家の出身。家柄を気にした学校側が彼女の主張をなかった事にしたからだ。
当然ながら桜木花音にとっては許せない判断。
しかしながら一人の一般生徒でしかない彼女には、どうする事もできなかった。
その為、彼女は今日も今日とて、諦めた表情で誰も居ない教室へと向かう。
自身の私物を元の場所へと戻す為。そして自分の机や椅子を綺麗にする為に。
さて、今日も早く終わらせて帰ろう。
明日も朝早いからね。
、、、てな訳で。
そんな思いを改めて胸に、普段通り静かになった教室で黙々と作業を行う為、教室の扉を開け放った、、、。
次の瞬間。
衝撃の光景が彼女の視界へと飛び込んできたのだった。
自身の机上にぶちまけられた、泥や水といった花瓶の中身。
ここまでは普段通りの光景だ。
しかしながら普段と違うのは、そんな自身の机上で何やら片付けの様な作業を行う一人の生徒の存在。
小動物感を漂わせる華奢な体とふわふわの髪。
そして誰もが羨む様な美貌を併せ持った奇跡の様な少女。
そう、それは紛う事なき、、、。
、、、柊さん?
この学園で早くもマドンナと呼ばれ始めた少女。
クラスメイトの柊寧々だった。