第八話 入港
怪我も治り、みんなも精神的ストレスから解放された、だがあの積乱雲だけは気味が悪い。
あの日から三日たった、アキの怪我は良くなってきていて、歩けるようになっていた。徐々に水平線の奥からトクマツの軍港が見えてきた、1時間後には目の前まで接近していた、皆飛行甲板からトクマツの様子を観察していた。
『本艦はこれより!トクマツ基地に入港する!総員、下船準備!現在時刻は05:00入港予定は06:30下船時刻は08:30!只今の天気は快晴!』
アーセナルは警笛を目一杯鳴らした、ヴォー!っと言う重たい音が、トクマツ市全体へと広がっていく、漁師や観光船の乗客はアーセナルに手や帽子を振っていた、まるで気分は有名人だった。
アーセナル艦内から喧騒が聞こえてくる、布団が恋しかったが仕方なく起き上がり、食堂へ向かうとホンダ艦長がコーヒーを熱そうに飲んでいた。
「おはよう、眠れたか?」
「ホンダ艦長、おはようございます、なんだか慌ただしくて、いつもより早起きです」
「ハハッそりゃいい事だ、うちの艦は朝が早いやつが多くてな、入港となるとお祭り騒さ、──そうそう君たちの寝床はトクマツ基地の第3管区Dの501にある、これ、入室用のカードキーだ、後でソラくんオサムくんにも渡しておいてくれるか?」
「分かりました、ありがとうございます」
「さぁさぁ!入港入港!君たちも荷物の整理をしておきな!」
「はっ!」
艦長は食堂を後にし、艦橋へ状況確認へと向かう。
「おい、あれ!第6艦隊の弩級空母ナイチンゲールと戦艦オロチじゃないのか!?しかも勢揃いだ、初めてみた!」
そこにはナイチンゲールを旗艦とする第6艦隊が入港していた、ナイチンゲールだけでも全長1,200mを超える大型艦だが驚いたのは、その艦艇の数だった、ベース143──通称トクマツ基地は全長16kmあるが、それを目一杯埋め尽くすほどの艦艇数で、アーセナル乗組員は大興奮だ。
「──うーん」
「どうした、レーダーに何か反応があるのか?」
隊員が指したのは一つの雲だった。
「この積乱雲いつ消えるんだろう、ずっといるんだよな」
「いつからだ?」
まるで引き寄せられた磁石の様にレーダーを確認する。
「開戦の日からです」
「…分かった、そのまま監視を続けろ」
艦長はアキ達の部屋へ向かった、ドアを開けるとみんな窓越しから空を見ていた。
「あっ艦長」
彼等は立ち上がり敬礼する。
「少し聞きたい事がある、このレーダーに写っている積乱雲だ」
「…!!」
艦長は写真を見せた、するとソラはあの時の記憶が鮮明に出てきた、信じてくれるのか分からなかったが、考える間もなくソラは勝手に喋っていた。
「この雲…おかしいんです、私はあの日この雲から白い翼の様なものが見えました、報告しようとしましたがその直後に攻撃を受けました」
「──なるほど、分かったこちらでいま監視を続けている、この事は混乱を防ぐ為にも、口外は一切しないでくれ」
「信じてくれるんですか?」
艦長は何も答えず立ち上がり、部屋を出る際に一言だけ放った。
「まぁお前達だからな」
その後は何事も無かったかのようにアーセナルはトクマツ基地へ入港した。接岸し後部隔壁が開いていく、久しぶりの地上だ。
「んん〜!やっと陸地だぁぁぁ」
オサムは下りた途端背伸びをした、400mあるとは言え閉鎖的空間から解放された彼はすごく気持ちよさそうだった、三人は荷物を置いてから市内へ観光に向かった。
「トクマツって何が有名なんだ?」
「とんかつ!」
ソラは目をキラキラさせ、ワクワクしながらパンフレットを持っていた。空に訓練中のFG15が飛んでいた、しかし目線はトクマツの観光地や夜景、美味しいものなど、戦闘機には一切目もくれなかった、彼等は今が有事である事をすっかり忘れてリフレッシュしていた。
二週間後──
休暇最後の日に三人の通信機器にメッセージが入る。
「明日機体が到着する、朝の07:00にはアーセナルに乗り込むように」
間違いなくそれはAF-01の事だった。
『SC-34スーパーキャリアー確認!着艦を許可します!乗船中の乗組員は揺れに注意せよ!』
アキ達が船に乗り込もうとすると、轟音と共にものすごい大きな輸送機が降りてきた。後部ハッチが開き、ねずみ色のシートに隠れた積荷が降りてきた。
「来たな、新型!」
新型は人型ですけど、戦闘機もまだまだ活躍しますよ!