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ひこうき雲  作者: 三毛
第一章 宣戦布告
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第六話 死相

正体不明の新型機に襲われ、壊滅的なダメージを受けた第125戦闘飛行隊、アキも被弾し空母へ緊急着艦する。

「アキ、オサム、ソラ、負けんじゃねぇぞ!」


隊長は拳を突き上げて叫んだ、不思議と顔は笑っていた。隊長の機体は機首が下がり切っており、もう上昇するエネルギーは無かった。


「…ふぅ…アーセナル艦長へ…戦闘中にこんな私事の通信はいけないがこれだけは言わせてくれ、あの三人を任せたぞ」


相手が武器をこちらへ向けてきた、なんの躊躇いもなく引き金を引いた。


「ふっ…カッコつけやがって、お前らしくねぇよ」


「ハハッ」


交信終了と同時にレーダーには「LOST」と表示された。


「アルファリーダーロスト!救助隊を向かわせろ!」


「やめておけ」


「しかし!!──!?」


有り得ない発言に戸惑い、艦長の顔を見た。


「良いから!あいつはそう言うのが嫌いなんだ」


◯(回想)


--5年前 大衆酒場ラトナ


2人は週末になると、街へ飲みにいくほど仲ぎ良かった。ユーマは酒にめっぽう弱く、数杯でベロベロになってしまう、その日もすぐに酔っ払っていた。


「なぁ」


「なんだ」


「もし──俺が死んでも、遺骨とか拾わなくていいからな」


急に言われた為に、口に運んでいた刺身を醤油の中へ落としてしまった。


「うーわ最悪だ、服につきやがった。ったく──何を言い出したかと思えば、ユーマ冗談よしてくれよ、俺はお前の事拾うつもりだ」


笑いながら一口ポテトを食べた、少し真剣な表情でこっちを見ている、──いつものベロベロのユーマじゃない感じがして気持ち悪かった。


「急にどうしたんだよ、お前らしく無い」


表情が一変し、真剣な表情が一気に崩れ落ちた。


「かっこいいじゃんかよぉ、死に際ぐれぇスターになりてぇよ」


「くだらんな──だが軍のルールだ、俺はそれに従う」


「相変わらずお堅ぇ野郎だ、お前がアーセナルの艦長とは、先行きが心配だぜ。それよりも今日はオサムとソラがな!」


また部下の話だ、これがまた長い。閉店まで拘束された事もあった、今日も恐らく日を跨ぐ。


◯(回想終わり)



艦長の頬から一本涙が滴っていた、本当は拾ってやりたいがユーマとの長い付き合いの中、これが親友に対して出来る精一杯の事だった事に、苛立ちすらも覚えていた。


「エマージェンシーコール!FG15が3機!緊急着艦!その内1機は、大破炎上中!」


艦橋から見えたのは、爆煙を纏っているFG15戦闘機だった。もう飛ぶものやっとな程の損傷を受けていた。


「来たか…俺が面倒を見てやる、よし!緊急着艦に備えて消防システムを起動!アレスティングネットを展開!甲板作業員は直ちに退避せよ!」


(第125と言えば…()()()()()()()()()()()()()()()())


──ホンダ艦長は目を細めた、7年前に起きた事が少し気になっていた。


飛行甲板が一気に慌ただしくなった。アレスティングネットが広がり、ブームが伸びた、自動消火システムがアキの戦闘機をロックした。


「アキくん!しっかりして!」


「おい!しっかりしろ!」


「あっ…ぐぁ…いっ意識が…血が…」


アキは大量に出血し意識が朦朧としていた、頭を上げることもできず、計器類は赤く染まりそれを手袋で拭ってなんとか高度と水平を保っていた。


「オサム隊員とソラ隊員は3番4番滑走路に着艦せよ!アキ隊員は1番滑走路に着艦!いま、救急隊が駆けつけている!」


アキにはもう応答する気力さえなかった、1番3番4番滑走路からリードアングルが出てきた、ソラとオサムは着艦アプローチに入る、ソラはアキの事が気になって仕方がなかった。


「ソラ!着艦だぞ!集中しろ!」


「うん…そうだね…!」


アキのFG15はフラフラと1番滑走路に侵入し、機体を叩きつける様に着艦した、まるで黒板を引っ掻いた様な雑音と火花を散らしながら着艦ネットへと突っ込んで行った。


「あいつ!ギアを下げずに降りてきたぞ!」


「パイロットは無事なのか!?」


「いいから救護と消化だ!いそげ!」


現場が騒然としている、救護班がアキの元へ駆けつけ担架に乗せようとしていた。ソラは戦闘機を止めた途端、足場を使わずにコックピットから飛び降りた。その際ソラの頭についていた髪留めが落ちたがソラは気にも止めていなかった。オサムはその髪留めを静かに拾った。


「アギぐん!アギぐん!いやだ!じなないで!いやだぁぁぁぁぁ!!!!」


「……」


あまりに生々しく残酷過ぎる風景に、アーセナルの飛行甲板には心臓を締め付けられる様な空気感でいっぱいだった。

大粒の涙と解けた髪がアキの顔を埋め尽くす、担架は煤汚れとアキの血の色が混ざってどす黒くなっていった。


「その子、まだ生きてると思うよ」


「カリヤ大尉!」


ソラに話しかけたのは白衣を羽織った女性の医者だった、

落ち着いた様子でアキの手を取り脈を測る。


「よし、A103集中治療室にこの子を運んで!今すぐに!」


「了解!3…2…1、せーのっ!」


アキはICUに入って行った、ブザーが鳴り治療中のランプが光った、その場が一気に静まり返った様だった。

辺りは暗くなり、火災も鎮圧された頃、オサムがICUの前に行くとそこにずっと俯いたままのソラがいた。


「ホレ、落としてんぞコレ、あとこれもやるよ」


オサムが渡したのは髪留めと缶コーヒーだった。まだ髪はボサっとしており、落ち着かない様子だった。


「ありがと…」


「ちょっとは落ち着いたか?あんまり考えすぎるなよ」


「この髪留めね、アキがくれたんだ。7年前、私の両親は爆撃で死んだ、その時に国連軍に拾われて避難所に連れて行かれたの、その時にアキくんと出会ってそこで貰ったんだ」


◯(回想)

「おい!誰かいないか!…っ!?子供!?」


「…」


「まだ子供なのに…おい!この子を軍の避難所に連れて行ってやってくれ!!あと俺の弁当を分けてやってくれ!」


空爆を受けた直後ソラは恐怖のあまり約三日、ご飯も食べれずにいた。国連防衛軍兵士は国連の避難所までソラを連れて行き、そこで世話をする事にした。

すると一人男の子が近づいてきた。


「ん?君、どうして服も髪もそんなボロボロなの?」


「空爆」


「そうなんだ、何歳?僕は13だよ」


「私も13だと思う」


するとアキはニコニコして走り去っていった、しばらくするとアキが戻ってきた。


「これ君にあげるよ」


手に持っていたのは髪留めだった。


「あり…がとう、でも男の子でしょ?どうして髪留めなんか持ってるの?」


「これおばあちゃんのなんだ、おばあちゃんも空襲で死んじゃった、だから大切にしてくれそうな君にあげる!そういえば名前は?」


アキはそう言いながらソラの髪を整えて髪留めをつけた、ソラは恥ずかしくなりながらも答えた。


「ソ…ソラ…!!私の名前はソラ!」


「ソラか…可愛いね!これからよろしくね!ソラ!」


(回想終わり)


「そうかぁだからずっと離さずに持ってたのか」


「うん…!」


ソラは頬を赤らめながら頷いた。


もう時間はすでに4時間は経過していた、ICUのランプが消えカリヤ医師が出てきた。


「えっ…ここで4時間ずっと待ってたの?流石はラブラブパイロットだな」


「…っ!ちっ…違くて…」


「ふふっまぁ良い、アキの容態は安定している、まもなくA403号室へアキを移動させる、今日はお前ら二人とも疲れただろ、早く休んでおけ」


「分かりました!ありがとうございました!」


二人は深々とお辞儀をした。


「んじゃ俺風に当たってくるから」


「うん!またね!」


オサムは一人飛行甲板下のキャットウォークへ向かい、胸ポケットからガムを取り出した、肩の荷が降りて今にも眠ってしまいそうなくらい疲れが出てきた。

水平線の向こう側から太陽の光がチラチラと見えている。


「朝日が眩しすぎるな」

見た目がぎゅうぎゅうなので、書き方を変えてみました。

※タバコの描写からガムへと変更しました。

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