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ひこうき雲  作者: 三毛
第七章 nostalgic
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第五十六話 暗闇

アキは悪魔にうなされていた。


「あんたに私の旦那は殺されたんだ!」


「家族を返せ!」


今まで撃墜してきた兵士の家族だろうか、殺気しか感じられない。アキにとっては忘れられた存在だが、その遺族にとっては一生の敵である。だが、今さらどうすることも出来ない、やらなければ殺される。

人では無く、敵。綺麗事なんて言っていられる暇なんてなかった。


アキは遺族に対して謝ることしか出来なかった──。


「ごめんなさい!でもそうしないと殺されるんだ!」


「うるさい!お前も旦那の様に苦しめて殺してやる」


「殺す、許さない」


グイグイと相手がやって来た、逃げ腰だったがアキはふと思いついた。


(こいつらを殺せば俺が楽になれる)


アキは不気味な笑顔を見せながら立ち上がり、ホルスターに手を当て、拳銃を向けた。相手は動揺していたがなんの躊躇いも無く、引き金を引いた。


「ははっ……これで自由だ」


何発も何発も撃ち込んだ、相手の息はもうすでに無かった。



「うわぁぁぁぁ!」


大声を出しながら起き上がった、自分の手を見るなり頬を引っ叩いた。


「イッテェ!」


(ゆっ…夢でよかった…)


安心したからか、身体中から汗が溢れ出てきた。

その後はいつもの様に朝食を済まし、1時間ほど格納庫でアーマーフレームの整備をしていた。



「おう、元気かよ」


格納庫の前で空を眺めているアキに話しかけた。


「あぁ」


「ペガサス戦略爆撃機がベース001に到着したらしい、当日に支援してくれるんだと」


「また更地にする気かよ、もうウンザリだ」


「もう少し()()()の気持ちも考えて欲しいもんだぜ」


「全く……ソラはアカネ少尉と喧嘩するし、セト隊長はパイロットが出来ない──これからどうなるんだ」


「さぁな、なにせやるしか無いんだ、俺たち」


アキは深くため息を吐いた──ストレスからか脱力している雰囲気だった。オサムはそれが気になって仕方がない。


「アキくん!」


2人が格納庫の前で黄昏ていると、聞き慣れた声で名前を呼ばれた、振り向こうとすると足音が2人分に聞こえた。その光景にアキとオサムは目を疑った。


 アカネ少尉とソラが仲良く話しながらこちらへ向かってくるのだ──。


(えっ……混ぜるな危険が……)


アキは混乱し、オサムも目を見開いている。

楽しそうに本の話をしながら近づいてくる2人に、思わず後退りしてしまう。ソラとアカネはそれを見て頬を膨らませた。


「ちょっと!」


アキが錯乱し始めた──


「ひぃぃやめてくれ!また喧嘩か!」


「違うよ!」


「俺からしたら爆薬とライターだ!」


「そっ…そうだぜ2人とも、どうかしてるぜ」


「仲直りしたんだ!」


その瞬間、無の時間が過ぎた。風が気持ちよさそうに雑草を撫でる音が一面に広がった──


「仲直り!?」


「ダメ?」


アカネがしょんぼりしながら下から見上げる様にアキの顔を眺めた。キラキラと空の反射で光るその瞳が可愛らしかったが、アキは両手を広げながら後退りしている。


「いっいいよいいよ──むしろ有難い」


「そっか、なら良かった!」


「良かったね!」


ただそれを伝えに来ただけだった様だ──


2人仲良く立ち去っていく光景が斬新過ぎて、夢でも見てるかの様だった。アキはオサムの頬を引っ張った。


「イデデデ!」


「夢じゃないか」


「なんで俺なんだよ!」


吠えるオサムを横目にまた空を見上げた、満点の青空がアキ達を見守ってくれている。


「いーじゃんか!ほら行くぞ!」


手をオサムの肩に回しながら、とびっきりの笑顔で格納庫へと戻った。


その頃ホンダ艦長はアーセナル・ヴァルキリーの艦首カタパルトデッキで整備の見学に来ていた。艦首から綺麗な横筋の水平線を眺めていた時だった。


「艦長」


「ん?どうした」


「このアーセナル・ヴァルキリーの艦首に付いている突起、これって何です?」


横面の図面を開き、部下がボールペンで艦首の突起を指して来た。

ホンダはそれを見るなり腰に手を当て、自慢げな顔をした。


「まぁ、使う時のお楽しみだ。恐らく、空母に搭載した例は過去に一度もないかもな」


「なるほど、ますます興味深いです……」


ホンダは嬉しそうに言った──


「なんせ戦乙女(ヴァルキリー)だからな、この空母は」


「なんだが、この船といればフィサリアの攻略も、なんとかなりそうな気がします」


「皆の希望の船になればいいがな」


前を向くと綺麗な青い海が広がっている、暖かい日差しと少し冷たい潮風がとても気持ちよかった。


「あとは頼むわ」


「了解です、お任せください」


艦橋に戻る際にふと思いついた。


「今日の晩飯はいつもより豪華にさせるか」




その日の夜、艦隊のほぼ全員が空母プロメテウスとアーセナル・ヴァルキリーの格納庫にテーブルを並べただけの食堂へと集まった、アキ、オサム、ソラ、アカネはアーセナル・ヴァルキリーで一緒に食事をする事になった。モニターにはプロメテウスの食堂の様子が映し出され、互いに手を振ったり、乾杯する振りをしたりと双方楽しんでいた。

バイキング形式でソラはアカネと一緒に料理を漁りまくっている。皆、酒に酔っており、お祭りムードだった。

1人の兵士がテーブル上に立ち上がり叫び始めた。


「反国連軍がなんぼのもんじゃあ、この戦争に勝ってやる!」


「そうだそうだ!俺は嫁を殺された!」


「俺は彼女を殺された!」


皆、心の奥深くに閉じ込めていた感情を吐き出していた、ホンダ艦長はその光景をじっと見ていたが、止めようとはしなかった。


「UDF万歳!フィサリア攻略戦もこちらの勝利で終わらせる!」


アカネはその場の空気がどんどん悪くなっていくのを察していた、ソラは気分が悪そうなアカネを見て、夜風に辺りに行こうとした時だった。


「フィサリアごと空爆で吹っ飛ばしちまえ!」


嫌気が指している兵士は数名いたものの皆が我慢していた。だが流石のアキでもその言葉には耐えられなかった、黙って立ち上がり、テーブルへ向かう。オサムが抑制しようとしたが振り払われた。


「ちょ……アキくん!」


それを見たソラもアキの前に腕を広げて止めようとした。


どけ──


ただ怒りに身を任せた様なその言葉は、ソラの心に突き刺さった。ソラはアキに道を譲りその背中をただ見ていた、色んな感情が込み上げてきて、ポロポロと涙が出てきた。


「何がサイサリスだ!何がフィサリアだ!」


そう言った瞬間、その兵士は皆の視線から消えた──。

アキは足を掴み、テーブルから叩き落としたのだ。痛そうに踠いている相手に馬乗りになり叫んだ。


フィサリアは俺の故郷だ──。


「空爆でどうするんだよ!あぁ!?もう一度言ってみろ!」


相手の顔面を殴りまくった、殺してやろうか──。

本気でそう思った。周りは止める雰囲気では無い。


「喧嘩か?!」


「いいぞいいぞ!やっちまえ!」


「まっ、待ってくれ、悪かった!俺が悪かった!」


そう言う兵士をガン無視し、アキはまた拳を上げた。ソラもオサムも、これはヤバい、そう思った時だった。ホンダ艦長がアキを蹴り飛ばし、アキはテーブルに吹き飛んだ。


「ってぇ……」


一気に周りが静かになった。


「艦長……」


兵士は半泣きでホンダ艦長に縋ったが、ホンダはその兵士も殴り飛ばした。


「ひっ……」


「いい加減にしないか!!この艦にもフィサリア出身は居る、軽はずみな発言はするな!自分が辛いからって……皆んな同じ気持ちなんだぞ!」


「もっ、申し訳ございません!」


アキがヨロヨロと立ち上がり、再び殴りかかった。オサムは必死にそれを押さえ込んだ。


「待て!落ち着けバカ!」


「……」


「オサム、アキを連れて甲板に上がってろ」


「わかりました、オイ、行くぞ!」


ソラの瞳は大粒の涙が出っぱなしで止まらない。

数々の戦闘を経験したアキの性格が、どんどん悪くなってしまっているのに気づいてしまった。自分ではどうしようもできないのかもしれない、自らの力の無さに嫌悪感で溢れていた。


「ソラちゃん行こう」


「うん……」


オサムは無表情のアキを引きずる様に飛行甲板まで運んだ。


正直言ってめちゃくちゃ怖かった、なぜならアキは今まであんな怒り方はしなかった。どれだけ怒っても人の気持ちを考えるアキが、力任せにキレ散らかし、相手をボコボコにする。いつかとんでも無いことをするんじゃないか──、そう思っていた。



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