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ひこうき雲  作者: 三毛
第七章 nostalgic
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第五十四話  過去

「戦いは」


ソラの腕を掴み、泣きながら袖を握り締めた、ソラは驚きつつもすぐに冷静になり、力強く握っている手に優しく手をかぶせた、痛みからかアキの手はブルブルと小刻みに震えている。


「もう終わったよ、また負けちゃったみたい、ちょうどアーセナル・ヴァルキリーが来たんだ」


アキは包帯まみれの身体を見渡した、ソラにも2箇所絆創膏が貼られていた、髪もやはりボサッとしている、ここ最近まともな休暇がない、みんな極限だった。


「そうか…セト隊長は!?」


「大丈夫、ただ、もうパイロットは出来ない」


意味がわからない、生きているのにもうアーマーフレームに乗れない、理由がわからなかった──と言うより分かりたくなかった。

ソラの目から静かに涙が出てきた。


「セト隊長…腕が……」


「……」


部屋を誰かがノックしている、ソラが出迎えるとホンダ艦長だった、少し落ち込んでいる様子でゆっくりと椅子に腰掛けた。


「久しぶりだな、待たせてすまなかった、少しの時間だが休んでくれ」


ふと、サイガに言われたことを思い出した、ホンダを見ると何か知っている様な顔だ、おそらくヤサカ大尉からいろいろ聞いたのだろう、アキは話しかけようと口を開けたが、ホンダ艦長が先に話し始めた。


「──フィサリア、お前忘れてたんだって?…あの時はまだ中学か小学高学年か?無理も無いさ」


「すみません…」


アキは8年前のフィサリア襲撃時、ショックで当時の状況が思い出せずにいた、そもそもアキは8年前の戦争についてあまり詳しく話す事がなかった。今までアキが話さなかった理由がようやく分かったソラは、より真剣に話を聞く姿勢を取った。


「あの時、お前は俺たちの乗っているヘリコプターに向かって、泣きながら白旗を振ってたんだ、それも血まみれの()()T()()()()でな、見てるこっちまでが辛かったよ。ユーマは帰投してすぐにお前のいる施設に向かった、よっぽどユーマ自身も心に来るものがあったんだろうさ」


──次々とあの日の情景が浮かんでくる、ボロボロのフィサリア、黒く濁った空、そこら中に倒れた人、アキにとってあの日以上に最悪な日は無い。


◯(回想)


反国連軍の戦闘機を追い払った後、ユーマが後退した。それと入れ替わるように、救助ヘリが現地へ突入しアキの元へ向かう。アキはメインローターの風切り音が大きくなるにつれて、身体の震えも大きくなっていく。


「あっ…あぁ…」


(殺される)


また攻撃される──無我夢中に旗を振った、白旗なんてただの布切れ、そう思ってしまっていたアキだが、降らざるを得なかった、敵なのか味方なのか、当時のアキにはどうでもいい、生きたい。ただそう願い、白旗をコックピット目掛けて目一杯振った。


「おい、あの子」


「早く回収するぞ、()()()あの子に重すぎる」


ゆっくりと着陸体制に入った、機首をアキからずらし、風圧でアキが吹き飛ばされないように少し遠くへ。その一連の動きを見て、アキは疲れ果て脱力する様に座った。

ホンダはすぐにアキを回収し、ヘリは国連防衛軍の避難所へ向かう。


「可哀想に、こんな歳の子が」


「…俺たち──大人のせいだ、今の()()()は子供達より幼稚だ、しっかり責任を取らないとな」


「そうだな…」


◯(回想終わり)


「すまない、嫌な思い出を」


「いいえ、むしろ忘れちゃならない事なんだ──」


ホンダは申し訳無さそうな顔をしていた。


「……2週間後、旧国連防衛軍基地サイサリス及びフィサリア奪還作戦が決行される、参加する艦隊は新第二艦隊、それと ──俺たち、新第一艦隊だ」


それを聞いた途端アキの表情が変わった、両手でホンダの肩を押さえつけ、歯を食いしばりながら目から涙を流し、ホンダへ訴えた。


「……参加します!!!!これが俺の、最初で最後の親孝行です!!」


ソラも頷き、ホンダを見つめる。


「分かった、オサムはすでに参加する気でいる様だ、二週間後、我々はフィサリア奪還作戦を開始する。しっかりと身体を休めておく様に!」


「はっ!!」


--海域不明 反国連軍基地ポイント・ゼロ付近


反国連軍基地ポイント・ゼロ キラーホエール補給のための基地である。50kmにもわたる巨大水上要塞で世界に4つあるキラーホエール専用基地だ。


青い海の中に、スクラップヤードかと思える程の量の国連防衛軍艦隊の残骸が浮いている、一隻、黒煙を吐きつつもかろうじて浮いている艦がいた、マストは折れ、火器類は全て使い物にならなくなっていた。

一人、血だらけの兵士が操舵室に横たわりながら無線機を手にした。


「ハァッハァ…こっ、こちら第八護衛艦隊所属アカツキ、鯨と死神から攻撃を受け壊滅…って…聞こえる訳ねぇか…」


全ての電源がダウンしていた為に、無線など一切使い物にならなかった、しばらく操舵室の天井を眺めた後、胸ポケットから写真を取り出した、真ん中に自分、左右に今年4歳になる娘と妻が写った家族写真だ。

キラーホエールは105mm滑腔砲を発射、遠くから風切音が聞こえてくる。


「悪いなぁ…パパ、お家に帰れなくなっちまった…」


アカツキの周りに大量の水柱が上がった、操舵室にも穴が空き、内側から爆散した。アカツキは残った浮力で何とか耐えていたが、最後は105mm弾が貫通、艦首主砲の弾薬庫に引火、爆発しそのまま海の藻屑になった。


「敵艦爆沈しました、キラーホエール着水します」


「総員、対ショック姿勢」


キラーホエールは両舷からフロートを展開、海を切り裂きながら着水する。余りの重量に一瞬沈んだものの、とてつもない浮力に勢いよく再度浮上した、その姿は鯨が大きく跳ねた様だった。


「艦長、着岸完了しました」


「ご苦労、総員下船せよ」


兵士達がぞろぞろとキラーホエールから降りてきた、その中にオルカの姿は見えない、艦長はオルカのお気に入りの場所である、艦尾のキャットウォークへ向かう。


「おう、サイガが新第一艦隊と交戦したそうだな」


オルカは静かに海を眺めていた。


「なに──、どうなった」


「AF-02FBを二機、撃墜したそうだ」


くそっ──


オルカは叫んだ、上官の中で一番嫌いなのがサイガ少佐だった。

 あいつに出会い、俺の人生は壊れた。ここでも邪魔をしてくるか、サイガ──!!劣等感でどうにかなりそうだった。


「どうする、国連はどうせサイサリスを陥落させるつもりだろう、あの物量では流石のサイガでも」


「あんな奴、死ねばいいさ」


台詞を吐き捨て、立ち去ろうとするオルカを艦長は制止した。


「まてオルカ、アイツらも仲間だ、メイフライの時もそうだったが、軽々しく仲間を見捨てるな。辛い過去を引きずって生きるのも良いが、今は前を向くべきだ」


オルカは手を押しのけ、立ち去り間際に言葉を放った。


「あんたには分かるはずだ、あいつがどう言う人間か、──あいつは生きてちゃいけない人間だ、すまんが理解してくれヒリュウ艦長」


そう言い残しオルカはキャットウォークを後にした。


「全く……どいつもこいつもガキばっかしだ」


--サイサリス基地


サイガ少佐は先日の戦闘の記録をまとめ終え、司令室に向かう。入るや否やすぐに司令を出した。


「フィサリア全域にアーマーフレームを展開しろ」


「今……ですか?」


「あぁ、今日から最低4週間は第一種警戒体制だ」


不思議そうに見る部下を横目に。アキと交戦した記録と、国連防衛軍 新第一艦隊のデータを眺めていた。


「まさか、こんな結末になるとはな──」


--ベース78


ベース004を離陸した、大型輸送機SC-34スーパーキャリアが、ベース78へ到着した、30機の飛行編隊は敵に察知されない様に超低空を飛行してきた。


ホンダ艦長の誰かが部屋をノックしている。


「入れ」


「失礼します。ホンダ艦長、30機のSC-34スーパーキャリアが到着しました、整備を開始します」


「ん、よろしく頼む」


ホンダ艦長は、片手にコーヒーを持ち。難しそうな顔をしながら作戦司令書を読んでいる。

旧国連防衛軍基地サイサリス及びフィサリア奪還作戦は、国連防衛軍初のAFによる空挺降下作戦を実行する。


「ミサイルによる先制攻撃の後に、空挺降下作戦か…。相手はもちろん予測してくるだろうな、──さて、どーすっかな」


遂には天井を見始めた。


「甲板荷電粒子砲──か」


そう呟きそのまま天井を眺めていると、ポケットに入っている無線が鳴った。


『ホンダ艦長、新第二艦隊旗艦、戦艦アルタイルより入電、ベース78へ入港するとの事です』


「了解、後でそちらへ向かう」


ホンダ艦長が窓を開けると、イフリート級2番艦戦艦アルタイルが戦艦9隻巡洋艦30隻フリゲート艦90隻の大艦隊を引き連れてきた。


「やれやれ、物騒だねぇ。俺たちも変わんないけど」


アキ達三人は接近する大艦隊に視線を向けていた。


「2週間後、──遂に始まるんだな」


「返してもらう、俺たちの街を」

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