第五十三話 先刻
思い出した過去
──手が震え出した、あの日、家族や友人を失い、青い空まで奪われたあの日の事をアキは思い出した。全てを奪った戦闘機のパイロットが目の前にいる、アキは歯を目一杯食いしばり、ギリギリと嫌な音が立っていた。
不明機のパイロットは、薄気味悪く口角を上げ、アキ達、フィサリアでの被害者を嘲笑うかの様な態度を取った。
「そうかそうかぁ…お前ら──あの日の奴らか…クックク…」
「殺す…お前は殺す…」
「まて!落ち着けアキ!」
アキは我を失ってしまっていた、高度はすでに3000mを切っている、フィサリアはまだ肉眼で捉えられる距離だ、怒りが込み上げてオーバーフローしている。アキはAFのブースターを最大出力で固定、リミッターをカットされたAF-02FBはとんでもない速さで攻撃を開始した。
「お前らがぁ!殺す!殺す!」
「所詮──怒りに身を任せているだけだ」
次々と訳の分からない攻撃を繰り出すアキに、少し押され気味だったが、熟練の感覚によりかわす事は容易だった。
落ち着いた様子で照準を定めた。
「アキくんよく見て!」
「は…っ」
全力で突っ込んでくるアキに向け、ショットガンを放つ。アキの機体は被弾し、左腕が崩壊、バックパックにも亀裂が入った。黒煙を吹き出しよろけるAFに追い打ちをかける様に弾丸を発射する。
「まずい!プロメテウス対空ミサイル発射!」
「味方に当たってしまいます!」
「そんな流暢な事言ってる場合か!!撃て!」
ソラは急いでアキを回収へ向かった、両脚は破損、左腕崩壊、バックパックも使い物にならなかった、文字通りの撃墜だった。被弾した影響で回線が切れ、コックピットへ通信ができなかった。
ソラは今にも溢れそうな涙を抑え、アグレス隊と交代し、その場を後にした。
「終わりだ」
ソラヘショットガンを向けた時だった、右モニターから
CAUTIONと表示された、サイガが後ろへ下がると青い光が目の前を通り過ぎた。
「チッ…なんだ」
奥からとんでもない数の艦隊が接近、IFFはNEO 1th FREET、新第一艦隊だった、一筋の道が出来ており、そこにアーセナル・ヴァルキリーの姿が見えた。
甲板左に88cm自走レールガンを空母用に改造した、88cm甲板荷電粒子砲を搭載していた、空母単体での火力としては国連防衛軍最大だ。
「こんな時に…」
『サイガ少佐、そろそろお時間です』
「了解、帰投する」
下方から真っ黒の機体が接近してくる。アカネ少尉の乗るAF-117EEGだ。刀を取り出し、ありったけの弾をばら撒いている。
「私が相手だ!」
(アカネ少尉!?待機じゃなかったの?)
切り掛かり盾に命中するも、あまりの硬さに断ち切れなかった、サイガはショットガンをアカネ向けた、本能的にアカネは回避の姿勢を取る。その隙に後方から接近してくるミサイルを破壊し始め、その爆煙を煙幕の様に利用し、後退した。
(強い、センスが違いすぎる…倒せなかった…)
「新型か、パイロットが未熟だな、国連の連中はこればっかしだ」
プロメテウスから発射されたミサイルを全て撃ち落としつつ、優雅に飛び回っている。この時プロメテウスより、全機帰投命令が下された。
UNSAFP(国際連合防衛軍宇宙進出計画)は中止、ただちに反抗作戦を計画する。
「この基地もいずれ破壊してやる、あのフィサリアの様にな!!!!」
そう言いソラヘ背中を向け、サイガは後退して行った、新第一艦隊の大敗である。悔しくて仕方がなかった、レバーを握りしめて、混乱と悔しさから頭がどうにかなりそうだった。
「くっ……ソラ少尉帰投します……」
--10分前 新第一艦隊 空母プロメテウス甲板上
「隊長!しっかりして下さい!空母管制!セト隊長がやられた!こちらは第303技術戦闘隊オサム少尉!」
「了解、着艦を許可する」
飛び降りる様に着艦した、アキが撃墜され、ユーマ隊長が戦死した、あの日と全く同じだった。消火ブームが伸び、こちらをロックしている、救護班はすでに待機している。
あの日と違う所を探す方が難しかった、違うのは空母の大きさとAFである事だけ。必死になって相違点を探した、それで気持ちを落ち着かせたかった。
最悪の状況が頭をよぎる、むしろそれしか頭になかった。
「うわぁ…今すぐストレッチャーを!」
救護班の兵士が唖然としていた、セト隊長の意識はまだある様だ、ストレッチャーに乗せられたセト隊長を見て、オサムは言葉を失った。
(うっ…腕がない………!?)
唐突な吐き気に襲われた、上空ではアキとソラが戦っている、今までの敵とはまるで戦い方が違うと嫌なほど思い知らされた、まさに極悪非道、これが戦争、改めて脳裏に焼き付けられる。
『アキ少尉LOST!救護班は待機せよ!ソラ少尉が回収した!』
──えっ…
思いもよらない報告に冷や汗が止まらなかった、最悪だ。
上を見ると黒煙がまた一つ増えていた、サイガの撤退を確認後、空母プロメテウスは全機撤退を指示、艦隊は後退を開始した。無線が徐々に復旧していく、痛々しいソラの声がどんどんクリアになっていった。
「管制!!!アキくんが!!!応答しません!アキくんがぁぁ!!」
「落ち着けソラ少尉、今救護班が待機している」
ソラがアプローチに入った、フラフラしており明らかに混乱している。
今まで何のために戦ってきたのか、青い空とは何なんだろうか、現実はそう甘くはなかった、見えるのは大量に流れる血だけだった。
「うっ…うぅ….くそったれ!」
オサムは自身で頬を殴った、自分の技術の無さ、周りの人間に助けられて生きてきた事への思い、自分の為に犠牲になってくれた人達に顔負けなど到底できない、心の底から自分の弱さを憎んだ。
「また息がある!今すぐICUに放り込め!」
ソラは降りてこなかった、と言うより降りてこれなかった。現実から逃げたかった、コックピットを開けた瞬間そこに自分の望んでいない景色が広がっているのが怖くて仕方がなかった。
「アキ、アキ」
(俺死んだのか?)
自分は死んだと思っていた、相変わらず誰かが呼んでいる、ソラでもオサムでもない。暖かい感じあたりは白かった、それまで見てきた景色とはまるで違う、天国の様な空間だった。アキは声のする方に向かう。
「母さん…父さん!?」
アキの家族だった、8年前フィサリアでアキは目の前で親を失った。8年ぶりの再会だった。涙がボロボロと出てくる、止められない。触れようと手を伸ばすが触れる事ができない、何とも言えない感覚がアキを混乱させていた。
「アキ、今はまだここへ来るべきでない、しっかりと夢を追い続けなさい、必ず道は開く」
「でも…俺は…」
母が近づいてくる、軍人とは思えないがアキは泣きながら腰から崩れ、母を見上げた。
「貴方なら大丈夫、みんな貴方に助けられている、いつも私たちは見ているわ」
「うっ…母さん…父さん……」
アキの頭を優しく撫で、薄らと消えていく。静かに立ち上がり、今までで一番綺麗な敬礼を二人に送った。
急に場面は白い空間から灰色の天井に変わった。
「ん?夢か、夢だよな」
「あっ…アキくん!!!!うわぁぁぁ!!死んだかと思ったぁぁぁ!」




