第三話 複雑
もしかしたら戦争になるかも知らない、もしかしたら初の戦闘になるかも知れない、何をしても時間だけが過ぎてゆく。
「ふぅ…よしっ」
***
「隊長、FG15の定期整備完了しました、弾薬整備部隊へ引き継ぎます」
整備を終え、アキがハンガー横にある待機室に行くと、そこには125隊が集まっていた。
――空気が非常に重く、敷居を跨ぐのを躊躇ってしまう程で、皆、一つの書類に取り憑かれた様に見入っていた。
「アキ、この出撃装備指示書を見てくれ」
「…これは」
そこに書かれていたのは、対艦ミサイルの装備指示だった。基本、スクランブルや訓練の際は空対空装備しかしない為、余計に生々しく感じた。
「ついに始まるかも知らないんですね…」
「…」
待機室の空気がどんどん悪くなっている、アキは酸欠になりそうな気分だった。
「――よし、隊長命令だ。お前等ひよっこ共はやばいと思ったらすぐに退避する様に、すでにベース113トクマツ基地から、護衛艦しぐれ、あさぎり、空母アーセナルが緊急出航している、そこにいけば助かるはずだ。実は、アーセナルの艦長は昔からの知り合いでな、よくサバゲーしたり川遊びしたもんだ」
何かを悟った様なセリフ、その言葉が1番重かった。
『AWACS及び戦闘哨戒機離陸、続いて第125戦闘飛行隊出撃準備!15分後に発進する!』
「おっと、もうそんな時間か」
隊長は軽く腰を揺らし気持ちよさげにストレッチしている、まるで腹を括り、死にいく様な態度だ、最悪の状況が頭をよぎる。
「隊長、帰ってきたら続き頼みますよ」
「あぁ、幾らでも話してやるよ!」
その言葉にアキは少し気が楽になった、ソラやオサムも表情がほんの少し柔らかくなっていた。
「さぁ!いくよ!アキくん!」
「良い声かけだ、みんなコックピットに乗ってくれ!」
「了解!」
全員が担当機へ乗り込むなか、アキは隊長の背中が悲しそうな感じがして仕方がなかった。
「そう言えばアキ、お前ソラの事好きだろ」
思いもよらない言葉にアキは驚きを隠せなかった。
「えっ!?ちょっ…はぁ!?」
「俺も絶対そうだと思うぜ、なぁ!隊長」
「あぁ、俺もそう思うぜ」
「なんだなんだ?隠し事はいけねぇなぁ、俺たち幼馴染だろぉ?」
「隊長!何言ってんですか!マルクス中尉!エリス少尉!揶揄うのはやめてくださいよぉ!オサムも!」
みんなが笑う中ソラは顔を真っ赤にして俯いていた、アキも恥ずかしさのあまり、さっきまでの事はすっかり忘れていた、地上作業員が出てきて大きく手を振った時、戦闘機のエアインテーク周りから、聞くに耐えないほどの轟音が辺りに広がっていった。
「各機エンジン良好!第125戦闘飛行隊!発進だ!」
マルクスとエリスはかなりの実力者で腕の立つパイロットみたいですよ