第一節 それは助長
八つの島国が数珠繋がりに連なっていた。
水の国、土の国、風の国、虫の国、太陽の国、雲の国、時の国、空の国
各国の国々には、その国を守護する存在、巫女と聖獣が邪なる異形な存在から、国や民を守っていたがある夜、星が瞬いた時に災いが起きようとしていた。
含みのある、壮年の男は憂いていた。
天を仰ぎ、己の行動に問題はないか確認せずにはいられない。
男のいる場所は、時の国の本土から少し離れた小島、刻百島
この島は国の大事な守護の要、結界を維持する為の社が鎮座している。
社はあくまでも、結界を国全土に行き渡らせる装置に過ぎず
結界を生み出すのは巫女の役目であった。
その巫女を守護し力の増長を促してくれる聖獣が寿命を迎え、天に召されてしまった。
本来であれば、後継ぎの獣が現役の聖獣から力を受け継ぎ聖獣へとなるのだが、後継ぎの獣が見つからず聖獣になる為の力を渡される事無く、終わりを迎えてしまったのだ。
「なんてことだ…このことがお上に知られたら…。」
つい、独り言を述べてしまう。
如何せんこれは、私とあいつだけが知っている事だ。
それにあの事だけは、誰にも知られてなることか…!
口が裂けても誰にも言うまい。
渡り廊下で考えふけていたときに、廊下の端から近付いてくる人物に気付けずにいた。
その人物は、壮年の男の真後ろに立つと
「考え事に没頭していると、命がいくつあっても足りませぬぞ宮司殿」
「貴様!どうやってこの場所へ入ってきた⁉」
「なに、ちょっと裏道を使ったにすぎませぬ」
「…まぁ良い、ところで例の物は仕上がったのか?」
「はい、ご期待に添える品をご用意出来たかと…」
「では、いつもの場所でその品を見定めさせてもらうぞ」
「用意は既に済んでおりますので、お気遣いなく」
この高年の男、不気味で好かん
目元は、眼窩で黒くまるで髑髏の風貌
聖獣が亡くなった後にに音もなく忽然と今のように姿を現した
名はガシャと名乗ったか…こ奴何が目的なのだ、金銭だろうが他にも何かあるに違いない。
だがこいつが使えることは、身を挺して分かりきっている。
又、考え事にふけてしまっていたときだった。
「需籠様、ジン様の神和の儀式の準備が整いまいした。」
そう言われて、声の方に振り向けば小間使いが佇んでいた。
辺りを見渡すが、既にガシャの姿は見当たらない
需籠は、小間使いに直ぐに向かうと返事を返した。
その頃、神和の儀式を執り行う御神体が祀られている
鏡の間では、ジンと呼ばれている巫女が顔を伏せて
巫女鈴を両手で掲げ、御供が用意された土俵に入る、それを合図に雅楽の演奏が始まった。
雅楽の演奏に合わせて神楽を講じる
神和の儀式は、結界を新たに張り浄化と強固にする為の大切な儀式である
だが現在は、結界を新たに構築し清浄しても頑丈さが無かった。
今現在巫女の力を増幅し守護する存在、聖獣が不在なのが
この場にいる皆の不安を煽いだ。
儀式が終了すると、需籠が労いの言葉かける
「つづがなく儀式は、済んで何よりジンお役目ご苦労様です、禊が終わったら自室で休みなさい。それと明日の明朝に皆に話がありますので、剣の間で待っていなさい。」
そう言うや早くその場を後にして何処か、急ぎ足でその場を去ってしまう需籠
ジンは、我関せずで言われた通りに禊をする為に向かうようだ
その一部始終を見ていた、雅楽の演奏者の一人の青年がジンの後を追うように見つめていた
「ジン様が気になるからと言って、禊について行ってはいかんぞ龍希」
「な⁉そんなことする訳ないだろ!|漢源、禊は誰一人とて立ち入ってはいけない神聖なる行事だぞ⁉」
「分かっているなら良いんだよ、そんな見つめていては、ジン様に失礼だぞ?」
「いや、確かに見つめていたのは失礼だったが、やはり気落ちされていらっしゃるかと思ってな…。」
「無理もなかろう、白夜狗様が行方不明なのだから…。」
「それもだが、俺は一度もジン様が話している所を見たことがなくてな、漢源は話されている所を見たことあるか?」
「う~ん…ないな俺も、まぁ元々無口な方なんだろ?俺達が気にしても致し方なかろうが、需籠様が明日の明朝話があると仰っていたし、何かしら策を講じられているんじゃないか?」
「だと良いのだがな…。」
「……話が変わるが龍希、中庭にある枯れ井戸の事知っているか?」
「枯れ井戸?あぁ…そう言えばあったな、鉄柵がしてあって使えない様になっていたあれか?」
「そうそう、それだよ!その枯れ井戸なんだけどな、最近夜な夜な不気味な唸り声が聞こえてくるんだとさ…。」
そう言うと漢源は、両手を前に垂らして見せた
龍希は、即座にその両手を思いっきりはたき落としてやった。
「そんな訳あるか!ここは神聖な社だぞ⁉時と場所考えて発言しろ、この馬鹿!」
「何だよ⁉はたくこと無いだろ⁉俺は雰囲気変えようとしただけだろ!」
二人の間に手を叩きながら入ってきた人物は、巫女のお目付け役の年若い女性
「はいはい!そこの馬鹿二人止めなさい!」
「「真那」」
「全くあんた達は、声が大きいのよ!本当、時と場所を考えて発言して欲しいわ」
「「すまない…。」」
「分かったならよろしい、不安なのは分かるけど程々にね」
「真那、ジン様に付いていかなくて大丈夫なのか?」
「それがね龍希、禊の場の洞窟までの付き添いは、兵士達になったのよ」
「な⁉兵士になったのか?でも一緒にお目付け役がいても問題ないんじゃないか?」
「そう思うでしょ漢源?念の為に警備を強化するのにお目付け役がいると、足手纏いになるから社の外には、付いて来るなって言われたの…。」
「それは、何というか…。」
「良いのよ気にしないで、致し方無い事だから弁えている積りよ私…それじゃあジン様がお部屋に戻って来られる前に、準備があるからもう行くわね」
「あぁ分かったまた後でな」
「止めてくれてありがとう」
「いいえ、どういたしまして。もぅ喧嘩しないでよ?あなた達、じゃあね」
真那はそう言い残すとその場を去った。
「その…漢源、気を遣って貰ったのにすまなかった…。」
「いや、軽率な事を言った…すまん。この重苦しい雰囲気俺はどうにも辛抱ならん…。」
「そうだな、俺も今の雰囲気は息が詰まって辛抱ならない。」
そぅ言い合った二人は、深いため息を同時に吐いた。
禊を行う場所は、社から北側に進んだ所に洞窟がありその洞窟内には、水池が存在する。
そこで、歴代の巫女達は己の身を清めていた。
そして現代の巫女、ジンも例外ではない
水池に入り、身を清めていた。
ただし、洞窟内は巫女以外立ち入り禁止の筈だが、巫女のジンの他に人影がその場にあった。
次回予告
第二節 これは必然的に