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08

フランソワーズは、今日という日が待ち遠しくて仕方なかった。

マドレーヌの計画をひっくり返せたのは清々しい気分だ。


フランソワーズは城にあるフランソワーズ専用の部屋へと足を踏み入れる。

ドレスを脱ぎ捨ててから、簡易的なワンピースに着替えた。

今日のために自分で着脱可能なドレスにしたり、侍女たちの手捌きを見て脱ぎ方を学んでおいて正解だったといえるだろう。


(早く準備をして外に出なくちゃ……!)


この日のために準備していた大きなカバンを背負い込んでいく。

ヒールから歩きやすい編み上げのブーツを履いてからフランソワーズは部屋から顔を出す。

人がいないことを確かめてから部屋を出る。

このまま裏口を使って、外に出ようとした時だった。



「どこにいくんだい? フランソワーズ嬢」


「……ッ!」



あまりの不意打ちにフランソワーズの肩は大きく跳ねる。

シトラスの爽やかな香りが鼻を掠めた。

声がした方に視線を向けると、艶やかな黒髪がサラリと流れている。

サファイアのような青く透き通った瞳が細まったのを見て、一目で誰かわかってしまった。


(ステファン・ル・フェーブル……隣国のフェーブル王国の王太子。彼がどうしてこんなところにいるの?)


フランソワーズは別人を装おうとするものの、先ほど名前を呼ばれたことを思い出して断念することになる。

フランソワーズは平静を装いつつも、逃げ場のない状況に焦りを感じていた。


何より思ったことが表情に出やすいセドリックと違い、ステファンはいつも笑顔だ。

ミステリアスな雰囲気で、考えが読めないことがフランソワーズの記憶から見て取れる。

そういえばと、次巻の小説の舞台にフェーブル王国が関わっていることを思い出す。

そして次の巻の内容を知らないフランソワーズには彼が結局何者なのかはわからない。



「ステファン殿下、ごきげんよう」


「この状況で普通に挨拶を返してくるところが、君らしいというべきだろうか?」


「何か御用でしょうか? 用がないようでしたら、わたくしは急いでいるので失礼いたします」



ステファンに頭を下げて、足早に立ち去ろうとしたフランソワーズは手首を掴まれて引き止められてしまう。

フランソワーズは振り返りつつ、手首を見ながら訴えかけるように視線を送る。



「……離してくださいませ」


「もう一度問うよ。どこに行こうとしているのか聞いてもいいかな?」



ステファンは珍しく焦っているように見える。 


(ステファン殿下はいつも紳士的だけれど、今日は随分と強引なのね)


ステファンは常に笑顔でいて紳士的な対応をしている。

中性的な端正な顔立ちとは逆の細身ではあるが引き締まった肉体。

ひたすらに己を鍛え上げて剣を極めており獰猛な猛獣を一人で倒してしまうほど強いそうだ。

噂では彼の体には黒い刺青のようなものが入っているそうで、常に血に飢えている恐ろしい一面があるという。


そんなギャップも相まってか、シュバリタイア王国の令嬢たちからも大人気だったことを思い出す。

フェーブル王国という大国の王太子である彼に婚約者はいない。

婚約者はおろか、特定の女性と親しくしているところも見かけない。


しかしフランソワーズには度々、声をかけてくれていた。

いつもセドリックとパーティーに出ている際に、一人でいるステファンを見てフランソワーズは不思議に思っていたのだ。

モテる彼ならば相手に困らないだろうし、誠実そうなので婚約者を幸せにしそうだ。

そんな彼が、このタイミングでフランソワーズに接触したことが意外だった。



「どこにいくのかは……内緒ですわ」


「……そうか」


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