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07


塔の最上階で宝玉を守り続けているフランソワーズは、表立って何もしていないように感じるのだろうか。

実際、曇りや雨の日、新月の日などは悪魔の力が強まる日だと言われている。

そんな時、フランソワーズは一日中、部屋に篭りっぱなしだった。

そんな過酷な労働環境の中でも妃教育やパーティー、お茶会などにも参加しなければならないのだからたまらない。

その苦しみをわかっているはずの王妃ですら、フランソワーズに任せきりで今までの分の我慢を発散するように遊びまくっている。

フランソワーズは、このまま婚約破棄されなければ過労死してしまっていただろう。



「他にも言いたいことはありますが、わたくしはセドリック殿下のお言葉に従いますわ」


「なっ……!」


「婚約の破棄でしょう? お父様も異論はないようですし、お受けいたします」



ザワリと湧き立つように会場からは声が上がる。

フランソワーズの行動を不思議に思うのも無理はない。

先ほどまで、フランソワーズは自分の身の潔白を証明しようと抵抗していたように見えたことだろう。

それなのに今度はセドリックから伝えられた処遇を受け入れたのだ。



「ああ、わたくしを国外に追放するのでしたのよね? 今すぐ出て行った方がよろしいかしら」


「……!」


「このような屈辱を受けて、ここにはいられませんもの。それにこんな方たちのために、ずっと祈りを捧げていたのだと思うと最悪な気分ですわ」


「なんだと?」


「その役目から解放されて心から嬉しいです」



とりあえずは言いたいことはすべて言ったためフランソワーズは満足だった。

こんな状況でも堂々と胸を張っていられるのは己の身が潔白だからだろう。

にっこりと嬉しそうな笑みを浮かべたフランソワーズにセドリックや父の顔が一気に曇る。



「大口を叩いておいて、結局罪を認めるのかっ!」


「認めていませんわよ? ですがセドリック殿下の言葉に逆らうわけにもいきませんから」


「……待てっ! とりあえずは父上に報告を」


「セドリック殿下こそ、ご自分の発言を撤回するおつもりですか? 随分と軽薄ですこと」


「なっ……!?」



フランソワーズに煽られたセドリックは、怒りからか顔を真っ赤にしている。

フランソワーズは「あらあら」と口元に手を当てる。



「セドリック殿下、公の場ではしたないですわよ」


「……貴様っ、俺を愚弄する気か!?」


「あら、お気に障りましたか。それはともかくマドレーヌとお幸せに」



フランソワーズは今まで培ってきた美しいカーテシーを披露する。



「では皆様、ごきげんよう」



悪役令嬢らしく口角を上げてクスリと笑ってから背を向けて、真っ赤な絨毯の上を歩いていく。



「アイツを今すぐに捕らえろっ!」



というセドリックの声が聞こえたような気がしたが、騎士たちもフランソワーズに手を出せないでいる。

フランソワーズが塔の最上階でずっと祈っていることを知っているのは護衛の騎士たちくらいだろう。


シュバリタイア国王もおらず、ベルナール公爵も何も言わないことから動こうか迷っているようにも見える。

こんな曖昧な状況でフランソワーズを捕らえるわけにはいかなかったのだろう。

そんな騎士たちを気にすることなくカツカツとヒールを鳴らしながら会場を後にする。


背後でバタリと音を立てて、重厚な扉が閉まる。

フランソワーズは前を向いて、足を進めていく。

人がいなくなるに連れて、その足取りはどんどんと軽くなっていく。


(ウフフ、うまくやれた。これでわたくしは自由よっ!)


フランソワーズはヒールを脱ぎ捨てて、手に持つとある場所に向かって走り出す。

今までフランソワーズのように感情を一切出さずに、彼女を演じて耐え続けるのは辛かった。


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