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ステファンのおかげで、いつもフランソワーズが祈っていた位置まで辿り着くことができた。
宝玉はほとんどが黒く染まっている。
上部のわずかな部分だけが透明だが、それも時間の問題だろう。
(…………やるしかないわ!)
そしてフランソワーズはいつものように跪いて手を合わせた。
背後ではステファンがフランソワーズが吹き飛ばされないように支えてくれている。
ノアとイザークも暴れるマドレーヌを必死に抑えてくれていた。
フランソワーズが意識を集中させるとキーンという頭が割れそうなほどの高音が響き渡る。
耳をつんざく音と共に背後からは悲鳴が聞こえた。
マドレーヌが地べたをのたうち回って苦しんでいる。
どうやらフランソワーズの祈りは、まだ悪魔の宝玉に届くようだ。
集中して手を合わせていると次第に風が弱まっていくのを感じていた。
フランソワーズは更に力を込めて祈りを捧げていく。
(いつもよりも宝玉を抑える力が強いような気がする。どうしてかしら……)
長い時間、祈り続けることで宝玉を守っていた。
しかし、今は長時間祈らなくても力が宝玉に届いている確かな手応えを感じていた。
(……どうしてこんな風に〝フランソワーズ〟の力が強くなっているの?)
マドレーヌよりも力がなかったフランソワーズだが、今はそうは思わない。
フランソワーズは物語のマドレーヌのことを思い出していた。
マドレーヌも色々な人たちを助けるために、聖女の力を使って悪魔を祓っていた。
それで聖女としての力を底上げして強くなっていたことを思い出したのだ。
そしてフランソワーズもフェーブル王国の悪魔を片っ端から浄化していったことで、以前よりも力が強まったのかもしれない。
(もしかしたら、このまま宝玉を壊すことができるかもしれない……!)
宝玉の中の悪魔も抵抗しているのか、力で押し返される感覚がした。
次第に足元が大きく揺れていることに気づく。
フランソワーズは足を取られないようにグッと唇を噛んで、力を込め続けた。
背後からはステファンが支えてくれている。
「……っ!」
「フランソワーズ、僕がそばにいるよ」
「はい!」
風が止んだため、フランソワーズの肩に手を置いて抱きしめるように立つステファン。
それだけでどんどんと力が湧いてくるような気がした。
祈りを捧げているフランソワーズの左手の薬指にはステファンからプレゼントされた指輪が見えた。
不思議と負ける気がしない。
(わたくしが、絶対に皆を守ってみせる……!)
そこからは何も考えることなく、ただ祈り続けていた。
* * *
「──フランソワーズ、フランソワーズッ!」
「ん……?」
「フランソワーズ、大丈夫かい?」
「……ステファン、殿下?」
ステファンに名前を呼ばれたフランソワーズは、瞼をゆっくりと開く。
「わたくしは……?」
「フランソワーズ、見てくれ」
ステファンが指をさす方へ視線を向ける。
先ほどまで真っ黒だった宝玉の澱みは、いつの間にかなくなっているではないか。
そしてフランソワーズが何度か瞬きをした時だった。
パキッという音と共に宝玉は真っ二つに割れる。
(嘘……宝玉が割れたの?)
フランソワーズは信じられない気分だった。
それと同時に大きな窓から見える暗雲から、徐々に光が漏れていく。
太陽の光の温かさを感じて、フランソワーズは涙ぐむ。
フランソワーズが安心感からフラリと倒れ込むのをステファンが支えてくれた。
真っ二つに割れてしまった宝玉は、みるみるうちに灰になっていく。
それと同時にマドレーヌの悲鳴が部屋の中に響き渡る。
何事かと思い、背後を振り返ると……。
「いやあああっ! 消えたくないっ、消えたくない!」




