55 マドレーヌside2
「信じてくださいっ、セドリック殿下……!」
「答えろ、マドレーヌッ!」
「……ッ!」
マドレーヌが上目遣いでセドリックにアピールしても、彼は怒ったままだ。
苛立ちが収まらないのかセドリックは、マドレーヌを乱暴な口調で責め続けた。
しかし、マドレーヌも徐々に苛立ちが込み上げてくる。
(なによっ、わたしに惚れているくせに!このわたしと結婚できるんだから少しくらいいいでしょう?)
セドリックの身勝手な態度が許せずに、マドレーヌは唇を噛んだ。
「もしフランソワーズを冤罪で追い出したことがバレたらどうなるか、考えたくもないっ」
「……はっ!?」
「全部、お前のせいだからな! 責任は取れよ、マドレーヌ!」
その言葉にマドレーヌの中で張り詰めていた糸がプチリと切れた。
「何を言っているのよ! フランソワーズお姉様を追い出したのはセドリック殿下でしょう!?」
「何、だと……?」
「わたしは助けてとお願いしただけだもの! フランソワーズお姉様を追い出してなんて、一言も言っていないじゃない!」
「……っ!」
「あなたが勝手にやっただけなのに、わたしのせいにしないでよっ!」
そう言うとセドリックは血走った目でこちらを睨みつけている。
しかしマドレーヌは虐げられている、セドリックの婚約者だったらいいのにと言っただけだ。
ニヤリと歪むマドレーヌの唇。
これで自分の責任ではなくなる思っていたが、予想外のことが起こる。
「マドレーヌ、お前がフランソワーズよりも悪魔祓いの力が上だと言ったのは嘘なんだろう?」
「……ッ!」
「父上や母上の前でそう言ったんだ。王族を謀ったとなればどうなるのか……わかるだろうな?」
今度はセドリックの唇が弧を描く。
確かにマドレーヌは宝玉を壊せるとシュバリタリア国王と王妃の前で言ってしまった。
それは覆せない事実だ。
(だって原作ではマドレーヌが宝玉を壊していたじゃない。こんなことになるなんて私だって思わなかったもの、仕方ないことなのに、信じられないっ!)
マドレーヌが、こんなにも悪魔祓いの力が少ないなんて思わなかったのだ。
彼女は生まれ持って強い力を持っていたから、ここまで上り詰めたのだと思っていたのに。
マドレーヌはガリガリと爪を噛んだ。
「本当はそうなるはずだったのよ……! わたしは間違ってないわ」
「嘘がバレたらお前も共犯だ! 宝玉に祈りを長時間掛けたとしても浄化できもしない。この嘘つきめっ!」
「……っ!?」
セドリックの発言にマドレーヌは言葉を失っていた。
(ひどい……!なんてこと言うのよ)
あんなにも優しい言葉をかけてくれていたのに力がないとわかった途端、セドリックら手のひらを返した。
涙が溢れ出しそうになりながらも、マドレーヌは声を上げる。
「信じられないっ! 裏切り者っ」
「裏切り者はどっちだ!」
「もうこんな宝玉どうでもいいっ! 大っ嫌い」
「おい……!」
マドレーヌはそのまま逃げ帰るように、ベルナール公爵邸に帰った。
(こんな国を守るために力を使うことなんてないわ。あんなこと言うなんて許せない!)
マドレーヌは部屋に閉じこもって城に行くことはなくなった。
両親は扉越しに語りかけてくるが、それすらも煩わしい。
それからどんどんと真実が明かされていくたびに、扉を叩く音は強く、声色は恐ろしくなっていく。
「──マドレーヌ、マドレーヌッ!」
「マドレーヌッ、早く部屋から出て自分の役目を果たしなさいっ!」
数日の間、マドレーヌの代わりに王妃がつきっきりで宝玉に祈りを捧げていると聞いたが、苛立ちしか感じない。
今まではフランソワーズが一人でやっていた仕事だが、本来は王妃だってやらなければいけないことだ。
それを棚に上げて、マドレーヌにすべてを押し付けようとしていることが腹立たしい。




