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05


というよりも虐げられていると言いながら、フランソワーズと一緒にいたことなどほとんどないではないか。


(これですべてが思い通りに終わると思っているんでしょうが……甘いのよ)


このまま原作通りならば、フランソワーズはマドレーヌに牙を向ける。

今まで溜め込んだ怒りを爆発させた彼女はテーブルにあったナイフを手に取りマドレーヌに襲いかかるのだ。

そして今まで積み上げてきたものをすべてを失ってしまい、永遠に宝玉を浄化することを命じられる。

そして悪魔の宝玉を黒く染め上げる。

だが、それが原作通りならばの話だ。


フランソワーズがテーブルにあったナイフを手にしようとした瞬間、会場がざわりと騒ぐ。

マドレーヌの唇が大きな弧を描いて、その視線は早く早くと訴えかけているようだ。


──カチャリ


フランソワーズはナイフを手に取ることはない。

代わりにスプーンを手に取って、わざとらしく上に掲げていた。



「あら……このスプーンは曇っていますわよ? まるでセドリック殿下の目のようですわ」


「なっ……!」



セドリックには嫌味が通じたようだが、マドレーヌは物語通りにいかないことに愕然としている。

その表情を見ているだけでも今日まで〝フランソワーズ〟を演じてきた甲斐があったというものだ。


フランソワーズは皆に見せつけるように、にっこりと笑みを浮かべた。

それにはセドリックもマドレーヌも開いた口が塞がらないといった様子だ。

今日まで、フランソワーズはこんな風に表情を露わにすることはなかったからだ。


(やっと自由になれるわ……!)


わざわざくだらない茶番劇に出席したのは、堂々と国を出ていくためだ。

だが、一方的な濡れ衣を着せられるだけでは腹立たしいので、少しは嘘をついた報いをうけてもらわなければ気が済まない。


(自分のついた嘘に苦しみなさい……こんな国のために祈り続けるなんてまっびらごめんだわ。わたくしはこの国を出て、自由になるのよ!)


フランソワーズはスプーンをテーブルに置いて問いかける。



「侍女や令嬢たちが証言したこと以外に、わたくしがマドレーヌを虐げたという証拠はあるのでしょうか?」


「──ッ!」


「そ、れは……」


「あるのは証言のみで証拠はない……それでわたくしをどう問い詰めようというのですか? 本当に彼女たちの証言だけでわたくしを国外追放にするおつもりで?」



フランソワーズの言葉に会場は静まり返る。



「では、その侍女と令嬢たちに、わたくしがいつ、どこで具体的に何をしたのか……証言をとってくださいませ」


「……!」


「もちろんマドレーヌと顔を合わせることなく、ですわよ? 口裏合わせは勘弁ですもの」


「ちょっ……そんなのっ」


「簡単なことですわ。セドリック殿下。パーティー会場でこのような大見得を切って〝嘘〟だなんて、ありえませんわよねぇ?」



狼狽えるマドレーヌとは違い、煽られたセドリックの額には青筋が浮かんでいる。

今までフランソワーズにこのように言われたことがないからだろう。

フランソワーズは何があっても、ただ黙ってすべてを受け入れていた。

どれだけ尽くしても彼女は愛されることはないのに。



「……いいだろう」


「ま、待ってください! セドリック殿下」


「どうした? マドレーヌ、自らの身の潔白を証明するチャンスだぞ?」


「そんなことやらなくても……本当に、わたしはっ! 信じてください。セドリック殿下っ」


「もちろん俺はマドレーヌを信じている。だからこそ真実を明らかにして、フランソワーズが悪なのだと、証明しなければならないのではないのか?」


「……っ!」



口ごもるマドレーヌを見るのは気分がいい。

今まで何をされても黙り続けていたフランソワーズのまさかの反撃に彼女はたじろいでいる。

そしてこの会話やマドレーヌの反応で大体、勘がいいものは気づき始めるだろう。

これが茶番劇であると……。


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