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そう言ったステファンは困ったように笑った。
フランソワーズは彼のこの顔に弱い。
ステファンの可愛らしい一面は、きっとフランソワーズしか知らないのだろう。
恥ずかしさを隠すように下唇をキュッと噛んだ。
視線を逸らすフランソワーズを逃がさないと言いたげに、ステファンが顔を近づける。
「フランソワーズにドレスを贈れるなんて夢みたいだ」
「……え?」
「なんでもないよ」
聞き返すも、笑顔で誤魔化されてしまう。
ステファンはフランソワーズをエスコートしながら歩いていく。
そして共にソファに腰を掛けた。
「それに、こんな風に女性に何か贈りたいと思ったのは初めてなんだ。迷惑だったかな?」
「いえ……そんな」
ステファンの声が耳元で聞こえる。
嬉しいことばかり言われるため、心臓が跳ねるように高鳴っていた。
(こんなことを言われたら、断れるわけないわ)
それにフランソワーズもセドリックと買い物に行ったり、ドレスを選んだことがないため初めての経験となる。
ステファンに流されるままドレスを選ぶことになったのだが、フランソワーズの前に並べられる見たことがないほどの高級ドレスの数々。
わかってはいたが、大国のフェーブル王国とシュルベルツ王国ではレベルが違うようだ。
フランソワーズは次々とあてがわれるドレスを見ながら、呆然としていた。
「この色もフランソワーズによく似合う。だが、こちらのデザインも捨て難いね……」
ステファンの手にはチュールが重なっている薄ピンク色の生地に色とりどりの花の刺繍がされているドレス。
もう一着は肌触りのよさそうな光沢のある水色の生地に胸元や裾に美しいレースが施されている。
「あの……ステファン殿下」
「フランソワーズ、この色は好きかい?」
「はい、好きですけど……」
「そうか。なら、これももらおう。もう一着も包んでくれ」
「ありがとうございます。ステファン殿下」
「え……!?」
真剣な表情で店員と共にドレスを選ぶステファンに声を掛けたとしても、その手は止まらない。
「フランソワーズ、他に欲しいものはある?」
「な、ないですわ!」
「そうか……なら、こちらのワンピースもここから、ここまで頼む。フランソワーズによく似合いそうだ」
「……ステファン殿下!?」
「この靴も貰おう」
結局、フランソワーズの制止は聞き入れられず、彼は大量のドレスや服などを買い込んでいく。
仕舞いには「僕ばかりが選んでしまったから、オーダードレスも頼もうかな」というステファンの提案を受ける。
フランソワーズは店員に連れられるがまま別室へ。
そこでサイズを測り、生地やレース、刺繍を選んで一からオーダードレスを作ることになった。
どうするべきかと戸惑っているフランソワーズとは違い、女性店員たちのテンションはとても高い。
どうやらフランソワーズを着飾りたくて仕方ないようだ。
「フランソワーズ様はオリーヴ王女殿下がおっしゃっていた通り、とってもお美しいんですもの!」
「あんな風にたくさんのお召し物を買い揃えたくなるステファン殿下の気持ちが理解できますわ!」
「あんなに真剣に悩むステファン殿下を初めて見ました。フランソワーズ様は愛されているのですね」
「そ、そうなのでしょうか」
「「そうに決まっています!」」
つい先日、オリーヴとアダンがこの店を訪れて、オーダードレスを作ったそうだ。
その時に、オリーヴからフランソワーズの話を聞いたらしい。
フランソワーズは生地やデザインを選んでいく。
初めての経験に胸がドキドキと高鳴っていた。




