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宝玉とはまた違う黒いモヤはフランソワーズにしか見えないようだ。
そしてフランソワーズの元には噂を聞きつけた貴族たちが殺到した。
もちろん悪魔が原因ではないものもあったが、その見分けがつくのも便利である。
フランソワーズは自分が悪魔を祓える感覚が新鮮で楽しく感じていた。
一度コツを掴んでしまえば数時間、または数十分で悪魔が取り憑いているモノを灰にすることができた。
何より様々な人に触れ合い、話を聞いて新しい発見をすること。
塔にこもっていたフランソワーズには、すべては新鮮なことに思える。
様々な経験ができるので、暫くは悪魔祓いに夢中になっていた。
一カ月経って、一通り大きな力を持つ悪魔を祓えたようで最近は平和である。
そう思うとステファンやオリーヴに取り憑いていた悪魔が、とてつもなく強いモノだったのだとわかる。
そしてフランソワーズがオリーヴを救ったことがフェーブル国王から発表されると、英雄のような扱いを受けるようになった。
そのおかげなのか、フランソワーズは自然とフェーブル王国の人たちから圧倒的な支持を得ていた。
フランソワーズはいつの間にか貴族たちの間で、名前を知らない者はいないほどに有名になる。
城にはフランソワーズに感謝をと、たくさんの御礼の品が貴族たちや救った人たちから届いていた。
それにはフェーブル国王や王妃も、さすがに驚いていたようだ。
「我が国にもこんなにも悪魔が影響を及ぼしていたとは……!」
「フランソワーズがいなければ、この国がどうなっていたのか考えたくもないわ」
(フェーブル国王たちも言っていたけど、この国に悪魔に苦しんでいた人がこんなにもいたなんて……驚きだわ)
フランソワーズはシュバリタイア王国では感じることのなかった温かさを感じていた。
ここにいてもいいと、必要とされていることが何よりも嬉しかった。
今日、オリーヴは結婚式のことについて嬉しそうに語っている。
オリーヴの婚約者、アダンは幼馴染で公爵令息である。
降嫁することとなるのだが、幼い頃からアダンと結婚することが夢だったそうだ。
本来ならば王女として他国に嫁がなければならないところを、フェーブル国王は想い合う二人を見ていて引き離すことができなかったそうだ。
そうしなくてもフェーブル王国は今は安定しているし、他国を圧倒するほどの力もあるため問題はないそうだ。
アダンは毎日欠かさず城に通いオリーヴを励ましていたそうだ。
そしてオリーヴの体調が回復したことを何よりも喜んでいた。
互いを想い合う二人の姿を見ていると胸が熱くなる。
「ねぇ、フランソワーズ。ステファンお兄様とはどうなの?」
「どうって……」
フランソワーズはステファンとの最近のやりとりを思い出していた。
ステファンは毎日と言っていいほどフランソワーズに会いに来る。
忙しい中でもフランソワーズのために必ず時間を作ってくれていた。
『君が好きだ』『今日も美しい』『共に過ごせる時間が幸せだ』
ステファンの甘い言葉を思い出すと、自然と頬が赤くなってしまう。
それを満更でもなく受け入れている自分がいる。
オリーヴはそんな表情を見て嬉しそうにしていた。
「わたくしでいいのかしら……とは、思うけれど」
フランソワーズはたまに不安になる。
ステファンは誰からも慕われており、フランソワーズから見てすべてにおいて完璧だった。
端正な顔立ちは目を惹きつけるし、いつも物腰が柔らかく紳士的だ。
どんな時も冷静で頭の回転も早い。その圧倒的な強さも目を引いた。




