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シュバリタイア王国を出て一カ月が経とうとしていた。
フランソワーズはフェーブル王国で幸せすぎる日々を過ごしている。
一カ月前のあの日、ステファンから結婚の申し出を受けたが一旦、保留にしていたフランソワーズ。
しかしいつの間にかフェーブル国王や王妃もステファンの気持ちを知っていた。
フランソワーズに「是非、王家に嫁いできてくれんか!」「あなたなら大歓迎よ!」と前向きな言葉をもらっている。
こんなに早くフランソワーズを受け入れていいのかと、疑問に思ってしまうほどだが、元々セドリックの婚約者だったことが大きいのかもしれない。
オリーヴとは毎日一緒に過ごしているうちに自然と親しい友人となった。
彼女は病の時にできなかったことをしたいと、フランソワーズと買い物に行ったり、お茶をしたりしていた。
年相応にドレスやアクセサリー、化粧とおしゃれに興味津々だ。
「コレ、フランソワーズに似合うと思うの!」
オリーヴに巻き込まれるようにして、自然とフランソワーズの物が増えていく。
「ドレスもお揃いにしましょうね!」
無邪気に笑うオリーヴは可愛らしくて、フランソワーズも見ていて明るい気持ちになる。
痩せ細った体は、少しずつふっくらとしていくのも見ていて嬉しくなった。
彼女とは同じ歳ではあるが、まるで妹のように思えてくる。
「フランソワーズは美しくて羨ましいわ。わたくしもフランソワーズのようになりたい……」
「そうでしょうか?」
「そうよ! わたくしこんなに綺麗な女の子、見たことない。昔、持っていたお人形にそっくりだもの」
度々、オリーヴにこう言われるのだがフランソワーズもそう思う。
毎日、顔を見ていると当たり前のように受け入れてしまっているが、確かにフランソワーズは作り物のように美しい。
「ステファンお兄様が、フランソワーズに惚れるのもわかるわ……あなたは完璧すぎるくらい完璧なんだもの」
幼い頃からセドリックの婚約者として厳しい妃教育をこなしてきたため、特に意識せずともこうできてしまう。
先ほどからオリーヴはフランソワーズを褒めてばかりいる。
「褒めすぎですわ。オリーヴ王女」
「わたくしのことはオリーヴって呼んでちょうだいって言っているのに……!」
「二人きりの時には呼んでいるではありませんか」
「そうだけど今は二人きりよ! 友人として接してちょうだい」
オリーヴは不満を露わにするように頬を膨らませている。
「わかったわ。オリーヴ」
「ふふっ! ありがとう、フランソワーズ」
ステファンは馬車の中で約束した通り、フランソワーズに快適な暮らしを提供してくれている。
フェーブル王国のことを、オリーヴやステファンから教わっていた。
最近では街やパーティーにも顔を出すようになる。
そこで悪魔の気配があるものを見つけては、聖女の力で次々と灰にしていた。
ある貴族はずっと苦しめられていた謎の痛みから解放された。
子宝に恵まれた。寝たきりだった子供が元気になった。
凶暴性が増していた犬が落ち着いたなど、大きいものから小さなものまで様々な影響をもたらしていたものを端から見つけては祓っていく。
驚いてしまうのは宝玉を抑えるための聖女としての力を、半分ほども使わずにすべてを祓えしまうことだ。
中にはフランソワーズが近づくだけで、バキバキに砕けてしまう物もあった。
(フランソワーズの聖女の力が強いからかしら……)
次第にフェーブル王国の貴族たちや国民の中で、フランソワーズのことが広まっていく。




