38 セドリックside2
セドリックの気分が沈んでいく。
しかしマドレーヌから帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「それなら安心してください」
「どういうことだ?」
「実は、わたしは宝玉を破壊できるほどの力を持っているんです!」
セドリックはマドレーヌの言葉に耳を疑った。
信じられない気分だった。
歴代最高の聖女と呼ばれるフランソワーズよりも強い力。
この国を苦しめる元凶、悪魔の宝玉を破壊してしまうほどの力がマドレーヌにはあるという。
セドリックは半信半疑だったが、マドレーヌが嘘をついている様子はない。
「そ、それは本当なのか?」
「はい……そうなんです。もう色々な悪魔を聖女の力で灰にしているんです!」
たしかにマドレーヌの評判は聞いていた。
平民から貴族まで助けている心優しい聖女、それがマドレーヌなのだ。
「何故そんな大切なことを言ってくれなかったんだ!」
「それを言ったら……わたしはフランソワーズお姉様にっ」
涙ぐみ口元に手を当てるマドレーヌにセドリックは驚いていた。
(まさか自分の地位に固執して、こんな素晴らしい力を持つマドレーヌを虐げていたとは……!フランソワーズ、失望したぞっ)
セドリックは怒りからかグッと拳を握った。
頭の中にはフランソワーズに対する怒りでいっぱいだった。
それと同時に彼女の言うことに疑問を抱いていた。
悪魔の宝玉に祈りを捧げたこともないのに、どうしてそれがわかるのだろうか。
(このままマドレーヌの言うことを信じていいのだろうか……いや、マドレーヌが俺に嘘をつくはずがない!)
セドリックはマドレーヌを信頼していた。
マドレーヌならば問題なくやってくれる。
それならばフランソワーズがいなくなっても問題ないのではないかと思ったのだ。
(フランソワーズでなくても宝玉を守れるならマドレーヌでもいいはずだ……!)
「このことは父上と母上にも報告しよう……!」
「やめてくださいっ、報告したらフランソワーズお姉様に伝わってしまうわ」
「……だが」
セドリックはマドレーヌを虐げようとする証拠を集めようと提案しようとした時だった。
「わたしがフランソワーズお姉様に虐げられていることを証言してくれる人を用意しますから……!」
「証人までいるのか?」
「ずっとずっと……この日のために準備していたんですもの」
一瞬だけ、マドレーヌの瞳が暗くなった気がした。
「そ、そうか! 任せたぞ、マドレーヌ」
セドリックはマドレーヌの言うことを信じて、自身は動くことはなかった。
そしてセドリックの誕生日パーティーでフランソワーズの罪を暴きたいとマドレーヌは言った。
「もしセドリック殿下の誕生日にわたしたちが結ばれれば、最高の記念日になりますね……!」
「……! あぁ、嬉しいよ。マドレーヌ、最高の日にしよう」
「ウフフ……きっと最高の日になりますわ」
そうやって迎えたセドリックの誕生日パーティー。
フランソワーズを国から追い出すことに成功したものの、何か腑に落ちない。
フランソワーズの言葉が、セドリックの中で引っかかって仕方がない。
確かに証拠もなければ、証言だけでフランソワーズを追い詰めるのは無理があったのではないだろうか。
(マドレーヌに任せていたが、自分でもちゃんと動くべきだった……!)
それにフランソワーズは身の潔白を証明するかと思いきや、さっさと身を引いて、会場から出て行ってしまったのだ。
『だってわたくし、マドレーヌに何もしておりませんもの。この子に興味を持ったことすらありませんわ』
フランソワーズのその言葉が頭を離れない。
(もしフランソワーズの言うことが真実だったら。本当にこのままでよかったのか……?)




