37 セドリックside1
セドリックは嬉しそうに扉まで歩いていくフランソワーズの姿を見ながら唖然としていた。
周囲には気まずい雰囲気が流れていたが、セドリックはそれよりもフランソワーズの笑顔に驚いていた。
(フランソワーズは……あんな風に笑えたのか?)
いつも無表情で塔に閉じこもって、祈りばかり捧げているフランソワーズ。
セドリックが何を言っても反応は薄く、何をするにも完璧で両親にも認められているフランソワーズに、密かに嫉妬心と劣等感を抱いていた。
(コイツは少し聖女としての力が強い程度で持て囃されているだけだっ!)
外交やパーティーでセドリックが完璧に対応してもフランソワーズは軽々とそれを超えてくる。
『フランソワーズがいてくれたら、この国も安泰だわ』
『その通りだ。フランソワーズがいてくれるだけでいい』
両親の何気ない一言にセドリックのプライドは傷ついていく。
そんなセドリックを癒してくれたのはフランソワーズの義理の妹、マドレーヌだった。
彼女はセドリックの気持ちを理解して寄り添ってくれた。
こんなにも心温まる日々は初めてだと思うほどに。
表情豊かで可愛らしい笑顔を向けてくれる。
セドリックを肯定して、優しい言葉をかけてくれるマドレーヌに自然と気持ちは傾いていく。
それにマドレーヌは街では自分から進んで困っている人たちに手を差し伸べ、聖女としての実力を高めていたそうだ。
セドリックはマドレーヌにどんどんと依存していった。
そんなマドレーヌにある悩みを打ち明けられる。
それは『嫉妬したフランソワーズに虐げられている』というとんでもない事実だった。
「マドレーヌ、どういうことだ? 説明してくれ」
「わたしの力がフランソワーズお姉様よりも強いので、どうやら嫉妬されているみたいで」
「嫉妬? フランソワーズが?」
「はい……そうなんです」
マドレーヌが不慮の事故があったとはいえ、聖女としての力を認められてベルナール公爵家の養子になったことは知っていた。
しかしフランソワーズより強い力を持っているというのは初耳だった。
ベルナール公爵から王家に報告があってもいいはずなのに。
それすらもフランソワーズの圧力で、王家にその事実が伝わらないようにしていたそうだ。
(まさかマドレーヌの方が力が強いとは……)
セドリックはそれを聞いて、マドレーヌの方が婚約者だったらよかったのにと思わずにはいられなかった。
それと同時にフランソワーズに対する憎しみが顔を出す。
そんな時、マドレーヌがある言葉を発する。
「わたしがセドリック殿下の婚約者だったら、お力になれたのに……」
「……!」
そう呟いたマドレーヌに、セドリックは気持ちが抑えられなくなった。
フランソワーズという婚約者がいながらも、マドレーヌを愛してしまったことに気がついたのだ。
(俺は……マドレーヌを愛している)
マドレーヌに気持ちを伝えると、なんとマドレーヌを「わたしもセドリック殿下を愛している」と言ってくれたのだ。
彼女と想いが通じ合ったことに喜び、天にも昇る心地だった。
ずっとフランソワーズが婚約者だったことが不満を感じていた。
彼女に異性としての魅力を感じたことは一度もない。
初めて感じる高揚感に、セドリックはマドレーヌと結ばれるために動くことを決意する。
「マドレーヌに王妃になってほしいが……悪魔の宝玉のことだけが心配だ」
フランソワーズと婚約してから、彼女がずっと宝玉を守り続けていた。
その功績だけは認めざるを得ない。
そのおかげで母も自由に振る舞えるようになったと喜んでいたからだ。
マドレーヌがフランソワーズの力より上だとしても宝玉のことだけはどうにもならない。




