36 ステファンside4
ステファンはフランソワーズからの合図を待っていた。
すると、わずかに何かが倒れる音と壁を叩く小さな音。
ステファンは迷ったが扉を開けた。
そこには力なく倒れているフランソワーズの姿があった。
呪われた本があった場所には、灰が積み上がっている。
ステファンはすぐにフランソワーズの元に駆け寄った。
医師を呼びに行かせて、水を持ってくるように頼む。
フランソワーズの唇が「みず」と動いたような気がした。
部屋を移動して水を差し出すものの、力が入らないようだ。
(……すまない、フランソワーズ)
心の中で謝罪してからグラスを傾けて、自らの口に水を流し込む。
それからフランソワーズに口移しで水分を渡してあげた。
何度か繰り返すと、フランソワーズはホッとした表情を見せてから眠るように意識を失った。
ステファンはフランソワーズを強く強く抱きしめた。
今は彼女が無事でよかったと、心からそう思う。
(フランソワーズが無事で本当によかった……!)
余裕もなく、感情を露わにするステファンに周囲は驚いている。
いつも感情を動かさないように押さえ込み、自分を殺し続けたのだ。
永遠に続いていく苦しみ。
フランソワーズは呪いからステファンを解き放ってくれた。
「ありがとう……ありがとう、フランソワーズ」
フランソワーズへの気持ちが溢れていく。
本当は一目見た時から彼女のことが好きだった。
時間を過ごしていく度に、もっともっと好きになっていく。
自分の気持ちを認めざるを得ない。
今にも折れてしまいそうな細い手を握りながら、フランソワーズをベッドにそっと寝かせた。
それから彼女は眠り続けた。
ステファンは侍女たちと共にフランソワーズに付き添っていた。
その間、父と母と話す機会があった。
そこで一方的ではあるが、ステファンはフランソワーズに気持ちを寄せていることを伝えていく。
「今はフランソワーズのことしか考えられません」
「彼女は我々の恩人だが……それにシュバリタイア王国の王太子から婚約を破棄されたばかりなのだろう?」
「それに無理矢理ここに来てもらったのでしょう? わたくしたちは、恩人であるフランソワーズをもちろん受け入れたいと思っているけれど……」
「フランソワーズの意思が一番大切だ。目を覚ましたらよく話し合いなさい」
「もし彼女が自由に暮らしたいというのなら、わたくしたちはフランソワーズを援助するわ」
父と母もフランソワーズに心から感謝しているようだ。
それはステファンも同じ。
しかし、彼女の意思は自由になること。
ステファンもフランソワーズの手を離してあげるべきだとわかっていたが、彼女への想いは止まることはない。
どんな手を使ってでもフランソワーズのそばにいたいのだ。
今、フランソワーズに必要なのは休息だ。
入浴に食事、フランソワーズのためならなんでもしたいと思ってしまう。
それからステファンは彼女に気持ちを伝えた。
『フランソワーズ、僕と結婚してくれないか』
困らせることはわかっていた。
けれど自分がフランソワーズを幸せにしたいと、そう強く思うのだ。
ステファンはなんとか彼女に時間をもらうことに成功した。
そしてフランソワーズが今まで置かれていた状況を聞いて、怒りしか湧いてこなかった。
まるで道具のようではないか、と。
セドリックに対しても同じだった。腹が立って仕方がない。
ステファンと同じように今まで色々なものを押さえ込んでいたフランソワーズの本当の気持ちを知ることができた。
涙するフランソワーズを抱きしめながら、ステファンは決意する。
(もう誰にもフランソワーズを傷つけさせない。僕が必ず守ってみせる……!)




