35 ステファンside3
目に焼きついたように離れない金色の髪と赤い瞳。
魅入られたように動けなかったステファンだったがフランソワーズに続いてすぐに歩き出す。
もちろん会場を出て、彼女を追いかけるためだ。
フランソワーズがセドリックと婚約破棄したことや、国外追放にされたことは、ステファンにとっては幸運ともいえる巡り合わせだった。
フランソワーズにどうにかして力を借りたい、そう思った。
(彼女の力を借りれば、オリーヴを救えるかもしれない……!)
平静を装いつつフランソワーズに声をかける。
彼女の格好から、ここから出て行こうとしているのだとすぐに理解した。
これはステファンにとっては願ってもないチャンスだった。
フランソワーズは妹の話をすると、渋々ではあるがついてきてくれた。
もしかしたらオリーヴを救えるかもしれない。
そう思うと気分が高揚したのだが、共に馬車に乗った時から違和感を覚えた。
フランソワーズを前にした瞬間から、心臓が激しく動き出したような気がした。
冷や汗が滲む。まるで何かに怯えているようだと思った。
今にも乗っ取られてしまいそうな感覚。
フランソワーズの前で失態を晒すわけにはいかないと、必死に抑えていたが、我慢がきかなくなっていく。
ついに教会を探すも限界が訪れてしまうが、フランソワーズの力でステファンは救われたのだ。
それから馬車の中で話して、一緒に過ごしているうちに抑えていた気持ちが溢れ出していく。
彼女を笑顔にしたい。もっと名前を呼んでほしいと思ってしまう。
(もっと彼女のことが知りたい……)
フランソワーズの笑顔を守りたいと思った。
城に着くと父と母が待っていた。
早馬で連絡したため、フランソワーズがくるのを心待ちにしていたのだろう。
オリーヴの様子を見たフランソワーズは案内もしていないのに本が置いてある場所に向かった。
すると自分が自分ではなくなる感覚が抑えられなくなり、フランソワーズに剣を向けてしまう。
(……やめろ、フランソワーズを傷つけたくない!)
しかしフランソワーズは怖がることもなく、ステファンを真っ直ぐに見つめたまま。
「ステファン殿下、もう大丈夫ですわ」
そのフランソワーズの言葉に、暴れ出しそうな気持ちが落ち着いていく。
そのまま気絶するように眠りについたが、次に目が覚めた時には体が軽くなっていた。
それから傷だらけのノアとイザークに体を見るように言われて確認すると、全身を覆っていたはずの黒いアザが綺麗に消えていたのだ。
(フランソワーズのおかげ……なのか?)
ステファンはイザークとノアと共に城の中へと戻る。
出迎えてくれたのは、オリーヴと両親だった。
ベッドから起き上がれないほどに衰弱していたオリーヴが、顔色もよく人の支えなしに歩いている。
ステファンにとっては、夢でも見ているのかと思うほどに信じられない光景だった。
「オリーヴ!? 大丈夫なのか?」
「えぇ! 急に体が軽くなって……信じられない気分だわ」
「僕も同じだ。アザもすべてなくなった」
長年、苦しめられたものから解放されたのだ。
家族で抱き合いながら喜んでいた。
「本当に信じられない。フランソワーズはたった一人で悪魔を祓ってくれたのだな」
フランソワーズの名前を聞いた途端、父に掴み掛かるようにして問いかけた。
「──フランソワーズは!? 無事なのですか?」
「ステファン、落ち着け!」
フランソワーズは大丈夫なのか、そのことが頭を覆い尽くす。
彼女はまだあの部屋から出てくることはないそうだ。
ステファンはすぐにフランソワーズの元へと向かう。
固く閉ざされた扉を前に手を止めた。
フランソワーズに合図があるまで入るなと言われたそうだ。




