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「全部ぜんぶ、あなたのおかげよ……! ありがとう、フランソワーズ」
「いえ……!」
目に涙を浮かべたオリーヴは、フランソワーズに抱きついた。
可愛らしい姿を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。
「オリーヴ、フランソワーズが困っているだろう? 離れてくれ」
「わたくしったら興奮してしまって……ごめんなさい」
「元気になられてよかったです」
「……っ、ありがとう! フランソワーズ」
オリーヴは涙を拭いながらそう言った。
フランソワーズが祈っている途中から、みるみるちに体調がよくなっていき、動けるようになったそうだ。
今までの苦痛が嘘のように無くなっていった。
そこからフランソワーズが無事に部屋を出てくるのを心待ちにしていたらしい。
涙を流しながらフランソワーズにお礼をいうオリーヴを優しい表情で見つめているステファン。
フェーブル国王や王妃も嬉しそうにしつつ、目頭を押さえていた。
「フランソワーズ、またゆっくりお話しましょう!」
今から婚約者に元気になった姿を見せに行くそうだ。
彼にとっても最高のプレゼントになるだろう。
オリーヴと入れ替わるようにして、食事が運ばれてくる。
部屋いっぱいに美味しそうな匂いが漂ってきた。
フランソワーズの前にある大きなテーブルいっぱいに豪華な料理が並べられていく。
フランソワーズは呆然とその姿を見ていた。
「フランソワーズ、どんどん食べてくれ」
「こ、こんなにですか?」
「ああ、好みがわからないからな。フランソワーズの口に合えばいいのだが」
「もったいないですわ。わたくし、いくらお腹が空いていても食べきれませんし」
「ははっ、全部食べれるとは思っていないよ。無理をせずに食べられそうなものだけ食べてくれ」
フランソワーズはその言葉に頷いた。
シュバリタイア王国の食事も豪華すぎて毎回、もったいないくらいだと思っていたが、フェーブル王国ではそれを上回っているような気がした。
フランソワーズはフルーツを手に取り、一つずつ食べていく。
瑞々しいフルーツを口に含むと、甘みとフルーツのいい香りが広がった。
それから香ばしい匂いにゴクリと喉を鳴らす。
フランソワーズはフォークとナイフを手に取り、料理を次々と口に運んでいく。
ずっと集中して祈り続けていたからか、吸い込まれるようにして料理は消えていく。
フランソワーズがお腹いっぱいになった頃にデザートと紅茶が運ばれてきた。
(幸せすぎてバチが当たりそうだわ……!)
こんな風にゆったりとした気分で食事ができたのはいつぶりだろうか。
ベルナール公爵の指示で、物心ついた頃から淑女としての厳しい教育を受けていたフランソワーズ。
聖女として悪魔祓いを叩き込まれて、セドリックの婚約者になってからは妃教育をしながら宝玉を祈るために部屋に篭り、パーティーにお茶会にと忙しない日々を過ごしていたのだ。
それを当たり前のようにこなしていたが、今思えばよく乗り越えられたなと思うほどに忙しかった。
だからこそ、こんな時間が過ごせることに感動していた。
(もう毎日祈る必要もないし、王太子の婚約者として振る舞う必要もないのよね……よかった)
食事を終えて、ステファンと談笑しながら楽しい時間を過ごしていた。
どのくらい時間が経ったのだろうか。
ステファンは「そろそろ仕事に戻らないと。フランソワーズはゆっくり体を休めてね」という言葉を残して部屋から出て行ってしまう。
それからステファンと入れ替わるように侍女たちが四人ほど入ってくる。
入浴室に案内されたフランソワーズは温かい湯に浸かる。
湯の上には花が浮かんでおり、香りと湯の温かさに癒されていた。




