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「わ、わたくしは逃げようとしたわけではありませんわ!」
「……え?」
「こんな身なりでフェーブル国王陛下と王妃陛下の前に出るのはよくないかと思いまして……っ」
フランソワーズがそう言って、恥ずかしさから顔を覆う。
周囲の視線を集めていることがわかったからだ。
ステファンはフランソワーズの言葉を聞いて、ハッとしたような表情を見せた。
そしてフランソワーズをその場に下ろす。
フランソワーズの手を取ると眉を顰めたステファンはそっと視線を逸らす。
「すまない……僕の勘違いだ」
「いえ……」
「フランソワーズと離れたくなくて、つい身勝手な行動をとってしまった」
ステファンの言葉の意味が気になって見上げると、彼の頬はほんのりと色づいている。
彼のこの表情や言葉に勘違いしてしまいそうになり、フランソワーズは首をブンブンと横に振った。
(ま、まさか……そういう意味なわけないわよね!)
フランソワーズでなければオリーヴを救えないからだという意味だと言い聞かせていた。
ステファンと向き合ったままフランソワーズは黙り込む。
そんな様子を見ていたフェーブル国王や王妃は何かを感じとったのだろう。
顔を合わせて頷いた後にこちらに向かって歩いてくる。
人の気配を感じたフランソワーズはハッとして急いで髪を整えた。
(とりあえずどんな格好だとしても挨拶はしないと……!)
ワンピースのままカーテシーを披露する。
フランソワーズがどんな格好をしていたとしても洗練された仕草は周囲を圧倒させるには十分だった。
滲み出る美しさに目を奪われる中、フェーブル国王たちが前に出る。
「よく来てくれた。フランソワーズ嬢」
「このような格好で申し訳ございません。お会いできて光栄ですわ」
「事情はステファンから聞いている。大変だったな」
「恐れ入ります」
フランソワーズはそう言って頭を下げた。
フェーブル国王は複雑そうな表情でゆっくりと頷いている。
王妃もフランソワーズの格好を見てか、涙ぐんでいる。
ステファンがフランソワーズのことをどう伝えたのか詳しくはわからないが、大袈裟に伝えたに違いない。
「フランソワーズ、長旅で疲れていると思うのだが……その…………」
フェーブル国王は気まずそうに頬をかいていた。
隣にいる王妃は「休ませるべきよ。何日も旅してきたのだから!」とフェーブル国王に訴えかけるように言っている。
「しかしオリーヴが……!」
「わかっているけれど、フランソワーズに無理をさせるべきではないわ」
フェーブル国王や王妃は、オリーヴのことが心配なのだろう。
すぐにオリーヴの状態を診てほしいのだと理解したため、フランソワーズはオリーヴのところに向かうことを提案する。
「わたくしは大丈夫ですわ。すぐにオリーヴ王女殿下の元へ案内してください」
「だが、フランソワーズ……!」
ステファンは先ほどまで疲れて眠っていたフランソワーズを見ていたからか眉を顰めている。
心配してくれているのだとわかるが、ここに来るまでステファンはフランソワーズのペースに合わせてくれていたのだとわかっていた。
フランソワーズはステファンに視線を送りながら、首を横に振る。
フランソワーズの言葉にフェーブル国王と王妃は安心した表情を見せた。
「フランソワーズ、ありがとう」
「感謝する……!」
それにステファンの話を聞いて、早くオリーヴを悪魔の呪いから解き放ってあげたいと思っていた。
もちろんステファンもだ。
フランソワーズの聖女としての力で解呪できるのか不安が残るが、やってみたいと思っていた。
(ステファン殿下たちのために、わたくしにできることをしたい)




